「今日こそは息の根、止めてあげる」
「クフフ、それはそちらの方ですよ」
互いの得物を構え、睨み合う二人は互いにボスの守護者同士。
個人的感情では敵でも、立場上は味方のはずである。
だがその二人は今、正に相手の息の根を止めるくらいの勢いであった。
それを観戦するはまだ幼い子供と、黒スーツを着た少年と茶髪を逆立てた青年。
被害の及ばぬギリギリの位置に立ち、様子を伺っている。
「あ〜〜〜どうしてこんなことに…」
茶髪の青年・沢田綱吉は頭を抱える。
対照的に黒スーツの少年・リボーンはニヤリと笑みを浮かべる。
「大物だな、お前の弟は。ファミリーの荒くれ者をこうも操れるとは」
そう、ボンゴレファミリー十代目ボス・綱吉の隣にいる子供は血の繋がった綱吉の実の弟だった。
事の始まりは、綱吉の弟・が三歳になった誕生日の事だった。
一般家庭なら教養を身に付ける為、幼稚園なりなんなり行かせるところだがそこは一般とは違った。
イタリアでも指折りのマフィア・ボンゴレともなればそこらの一般の子供と一緒にするわけにもいかない。
そうでなくとも、此処はイタリア。いつ狙われてもおかしくないのだ。
は綱吉と二十も歳が離れているが、弟である。
綱吉の母親である奈々が高齢出産を苦ともせず産んだ子供。
綱吉に至っては弟と言うよりむしろ息子のような存在だ。
さて、本題に戻るが幼稚園に通わないなら家庭教師をつけろとリボーンが提案した。
ボンゴレファミリーの身内として恥かしくないだけの教養は嗜みである。
リボーンが付いてもいいのでは、と普通なら思うのだが生憎とリボーンは色んな意味で相性が良すぎる。
まず、はまだ幼すぎる故か何にでも興味を抱く。そしてリボーンに懐いている。
リボーンが銃火器の扱いを教えればすんなり覚えるし、言葉遣いの影響も受けやすい。
流石にこんな幼いうちから物騒な性格に育って欲しくないと皆からの反論もあり、その線は無くなった。(リボーンは舌打ちをしていた)
そこで、じゃあ守護者の誰かがやればいいのではと言う意見が出たのだ。
最初は面倒見の良い山本や頭の良い獄寺を押すつもりだった綱吉。
だが、そこはあの二人が黙っちゃ居なかった。
「「僕がやる/やりますよ」」
雲の守護者雲雀恭弥と、霧の守護者六道骸だ。
普段は意見が合うことなど、天地がひっくり返っても有り得ない二人。
だが何故かこの時だけは同じ考えだったのだ。
リボーンを外すなら、は何故かこの二人に懐いている。
綱吉曰く、は変わったものを好む性格らしく一癖ありそう(失礼)なものばかりを気に入る。
昼寝をする時は必ず雲雀の傍(他に人がいなくて静かだから)にいるし、お気に入りの本を読む時は骸の傍(骸の芝居がかった読み方が面白いらしい)だ。
勿論、二人も懐いてくれているを疎ましく思うはずも無く気に入っているのだから争いが始まった。
「君なんかが家庭教師になったらに変態が移るでしょ」
「では君がつけば野蛮になってしまいますねえ。すぐ武器を振り回す癖が付いてしまう」
相手に嫌味を言いながらも攻撃の手を緩めない二人。
どちらもを自分好みに仕立て上げたいと言う光源氏計画を持っているからタチが悪い。
「にーちゃ、きょーちゃとむくちゃはどーしてけんかしてりゅの?」
「…ごめんね、。不甲斐ないお兄ちゃんで」
綱吉の服の裾を引っ張りながら、純真な瞳で見上げてくるに良心が痛んだ。
ああ、ボスなのにこの二人を止められない自分が情けない。
綱吉は心で涙を流していた。
「おい、ダメツナ。お前自分の弟をあいつらに託して良いのか?」
「…正直、不安…。だけど、あの二人実力はあるからなあ…」
どちらも頭脳・強さ共に申し分ない。
だが性格に難有りと言ったところだ。
「めんどくせえな。おい、。自分の教師は自分で選べ」
「う?」
埒があかなくなり、とうとうリボーンが禁断の一言を言った。
幼いは先のことを見越して意見を言う事は無い、つまり此処で選ぶのは好きな方だ。
それは選ばれなかった方の怒りを買うことに繋がる。
「リリリリボーン!!そそそそんなこと言ったら…」
「アルコバレーノ、良い考えですね。そうすれば僕を選んでくれるはずです」
「じゃあさっさと決めてよ。どうせ僕だろうけど」
争っていた筈の二人がピタリと動きを止め、いつの間にか綱吉の背後にいた。
驚いて道を譲ってしまい、二人がに詰め寄る。
「、誰が好き?」
「好きな人を選んでください?」
質問違うだろ、と綱吉はツッコミを心中で叫んだ。
先生を決めるだけなのに、何故好きな相手の話になるのだ。
「う?しゅきー………えーとね、えーとね」
首を傾げ考えるは可愛らしく、見ていた者たちはだらしなく顔を緩ませていた。
そして少し考え、結論が出たのかは顔を輝かせた。
「さあ、誰です?」
「正直に言ってごらん?」
は雲雀と骸に向かって駆け出した。
それを見て二人のどちらもが自分に向かってきているのだと思った。
しかし、は二人の間をたーっと駆け抜けていったのだ。
「「!!??」」
「べりゅー!!!」
「ん?じゃん。何々?王子と遊ぶ?」
「あしょぶー!!」
「じゃあ今日はスクアーロ苛めようぜ♪」
任務から帰ってきたベルフェゴールの姿を見つけたは一目散に駆け出したのだ。
素通りされ、文字通り石化する二人。
綱吉は笑っていいのか、それとも蒼褪めるところなのか考えていた。
「ちょっ!!雲雀さんや骸でもなく、ベルって!!」
「あー…あれも一応変り種だしなあ。は気に入るな」
「もっとヤバイじゃないか!!あんな物騒な奴」
「だがあいつは一応王子だからそれなりの教養はあるだろ」
ベルと仲良く手を繋いで去っていく。
石化していた二人は気を取り直すと、再び得物を構えた。
「……まずはあのウザ前髪王子から片付けなきゃね。君はその後だよ」
「君に同意したくありませんが、賛成です。僕らの決着はあのバカ王子を消してからです」
雲雀のトンファーから棘がジャキッと顔を出し、骸の目には死ぬ気の炎がメラメラと燃え盛っている。
綱吉は「ああ…また屋敷が半壊する…」と嘆いていたそうだ。
〜オマケ〜
「ねえ、ちょっと其処のバカ王子。から離れてくれない?」
「地獄に堕ちたくないでしょう?」
「うししっ何言ってんの?王子に勝つ気?」
臨戦態勢に入った三人から外れるようにはぽつんと立っていた。
遊んでくれると言ったベルも、さっきから喧嘩ばかりしている雲雀と骸も皆自分を相手してくれないので拗ねてしまった。
「む〜…」
すっかりむくれたは三人を置いて何処かへ行ってしまった。
が向かう先は……。
「りぼー」
「お、やっぱ戻ってきたか。どうせあいつ等お前ほっといて睨み合ってんだろ」
結局はリボーンの所へ行く羽目になるのです。
「今日ちゃんと課題終わらせたら約束通りマフィアランド連れてってやる」
「がんばりゅ!!ころねろも、いる?」
「ああ、ついでにスカルとマーモンもいるぞ」
「わーい!!」
実質の一番なのはアルコバレーノ、と言うお話。
僕らの若様
続→