始めに
管理人は今回の小説を想像で書いております。
それ故現実とは異なる点が多々あると思います。
そういうのが嫌と言う方は引き返してくださった方がよろしいでしょう。
終わりに、管理人はけして悪ふざけなどで書いたつもりは一切ありません。
病気、と言うものを軽んじるつもりも、それと闘う人の辛さを甘く見るつもりも無いです。
それだけ解っていただけたら幸いです。










「行ってきまーす」

「お、おい。待てって!行ってきます!」



玄関を先に出て行ってしまった弟を追いかけ赤也も慌てて靴を履き外へ出て行く。
最近テニス部のマネージャーを始めたばかりなくせにいつそんなに体力をつけたのか、弟は遥か先を歩いている。



「待てっつうの!」
「んだよ、兄貴まだ時間大丈夫じゃん。立海近いんだしさー」
くん冷たーい。お兄様が折角一緒に登校してやってるのに」
「頼んでないし」
「…最近お前生意気になったんじゃねえの?」


頭一つ分小さい頭を髪をグシャグシャにするように撫でればやめろと振り払われる。
だけど流石に腕力は赤也の方が上なので中々は逃げ出す事が出来ない。




「やめろっての!もー」
「そっちのが格好いいぜ」
「嘘付け、もー…鳥の巣じゃん」


髪の毛を手櫛で適当に直したはお返しとばかりに赤也の足を蹴飛ばし、駅へと走ってゆく。



「…っ!!…!!帰ったら覚えてろ!」
「もう忘れたねー!…じゃ、兄貴も朝練頑張ってなー!」


遠くで手を振る弟に恨みがましい目線を送り、自分はバス停へ向かう。
勿論、後ろ向きだが手を振り返すのも忘れない。




駅のバス停に向かう途中、足に違和感を感じた。




「…え?」




右足の靴紐が切れていた。




「嘘だろー…?これ買ったばっかの新品だぞ…?」




朝からついてない、と溜息交じりに学校方面のバスへと乗り込んだ。




















「あー…疲れたぁ」

いつもと同じハードな部活を終え、ようやく帰れると着替えに部室に入った。
すると先に中にいた仁王と丸井が揃って赤也へ振り返る。



「赤也、さっきお前のケータイ滅茶苦茶鳴ってたぜ?」
「切れてもまたかかってたぜよ?急ぎの用じゃなか?」
「えー…?なんだろ」


マナーにしておくのを忘れたことがばれれば鬼副部長の鉄拳が飛んでくる。
そう思い出した赤也はいたのが二人で良かったと息つきながらロッカーの中のスポーツバッグに手を伸ばした。
携帯の着信履歴は弟のものだった。



「あれ?だ」
、ってお前の弟だろぃ?氷帝に通ってる」
「あの可愛い弟君か。赤也、番号見せんしゃい」
「嫌っすよ!しかしなんだろ…掛け直すか」



しかし電話の相手は電源が入っていないらしく、呼び出し音が鳴らない。
さっきのさっきまでこっちへかけてたのに?と首を傾げながらも帰れば判るか、と赤也は着替えにうつった。


次の瞬間、丸井の携帯が震えだした。


「あ、今度は俺だ。…なんだよ、芥川」



電話の相手は氷帝の芥川。
丸井が電話に出ると彼にしては珍しい、焦った声だった。




『丸井くん!?其処に切原いない?!』
「赤也?いるけど…お前赤也に用事か?」
「え?俺っすか?」




着替えの終わった赤也が丸井に近づけば電話越しだと言うのに慈郎の声が聞こえる。

部室に他のレギュラーも入って来たが、中の異様な雰囲気に皆が丸井の携帯に視線を集中させた。







『じゃあ、切原に伝えて!!が倒れて病院に運ばれたって!!さっきの携帯からもかけてたのに全然繋がらなかったC!』





静かな部室にその声だけが響いた。


ガシャンと部室の扉が派手な音を立てて鳴った瞬間、もう赤也はいなかった。


















!!!」




「あれ、兄貴。どしたの?」






息を切らし、駆けつけた先の病室ではけろっとした顔のがいた。
ベッドの傍には氷帝のテニス部レギュラー陣。

赤也は状況が解らず、間抜けな顔になった。



「…お前…倒れたんじゃねえの?」
「え?ああ、うんかるーく貧血にね。皆大袈裟なんだよ」

笑って答えると、跡部が溜息をついた。

「バーカ。貧血ってのは体調が悪くねえとなんねえんだよ。しかもお前倒れた拍子に頭打ってるんだぞ」


それを聞いて初めて赤也はの頭に見える白い包帯が見えた。
慌てて詰め寄ろうとしたがそれを制する腕があった。



「落ち着け、赤也」
「―っ……ふく…ぶちょう…」



真田だけではない、他のレギュラー達も赤也を追いかけてきていた。


くん、倒れたって聞いたけど大丈夫なのかい?」
「幸村さん…!大丈夫です、ただ頭打ったから様子見で今日は入院なんです」
「…ったく…芥川さんがすげえ深刻そうな電話してくるから…心臓止まるかと思ったっすよ…」
「だって俺も吃驚したC〜」




そんなに酷い状態でも無いようで心底安心した赤也。
その後、赤也との母親も病院に駆けつけ氷帝レギュラー陣と立海レギュラー陣は退散した。











昨日の騒動から一夜明けた今日、赤也は病院に向かっていた。
特別に部活は休ませてもらい、を迎えに行ったのだ。


「おーい、。帰ろうぜ…ってあれ?」


中に入ってみるとがいた形跡が無くなっている。
病室移動したのかと近くを通りかかった看護師を捕まえる。


「あのっ切原って何処に行ったんすか?」
「ああ切原さんなら病院を移られました」
「…え?」





看護師から聞き出した病院は神奈川にある幸村が前に入院していた病院だった。

「なんで…?今日で退院の筈だろ?」



嫌な予感が胸をよぎったがそれを打ち消すように頭を振り、病院内に入って行った。






「あ、兄貴。早いね」
「お前…なんで…。今日退院じゃなかったのかよ」
「オレだって何が何だか…。一週間検査入院だって」


そこへ医師と赤也達の母親が入ってきた。
心なしか母親の顔色が悪い、そして病室に赤也がいることに気付くと取り繕ったような笑みを浮かべた。



くん、初めまして。君の担当になりました柳生と申します」
「あ、もしかして柳生先輩の…」
「ええ。比呂士の父です。よろしくお願いします」


朗らかに挨拶を交わしているが、やっぱり母親の表情は冴えない。
赤也はそれを不審に思い、母親を病室の外に連れ出した。






「お袋、あいつ検査入院ってなんだよ!わざわざ病院まで移って…。これじゃあまるで…」


赤也の脳裏によぎったのは幸村が入院した時のこと。
状況が似すぎている、だから違うとはっきりと言って欲しい。


母親は唇を震わせる、言葉を出すのを拒絶しているように。


やがて呟かれたのは残酷な真実。












「……まだ…詳しい事は分かってないの…。でも…ギラン・バレー症候群の可能性も否定出来ないって…」











なんで、否定出来ないんだよ




はっきり、無いって言ってくれよ




あの病気は十万人に一人がかかるかどうかってくらい珍しい病気なんだろ







誰か、嘘だって言ってくれ






























そんな俺の願いも虚しく、の病状は日に日に悪化して行った。





先ず最初に違和感を感じたのは見舞いと称して集まった先輩達が集まった時だ。







、病院も暇だろうから持ってきてやったぜー」
「うわっジャンプ最新号じゃん!ありがとーブン太先輩」




ブン太先輩がにジャンプを手渡そうとした。



けれどそれはの手に収まることなく、床に落下した。






「あ」

「おいおい、ブン太ちゃんと手渡してやれよ。ほらよ、




ジャッカル先輩が再びに手渡そうとするも、またしても受け取られなかった。



「あれ…?おかしいな。腕痺れてんのかな…。変な寝方しちゃったかも」

…」




笑いながら、今度はしっかりと受け取った。

けれど俺と部長だけはその笑顔が逆に不安を駆り立てるものにしかならなかった。






先輩達が帰る時、部長は一旦俺の方へ戻ってきた。



「…赤也」

「部長…」



「…君のあの状態…」

「言わないでください!!!」





自分でも驚く程の大声だった。
頭で考える前に出てきた叫びだった。






きっと俺はもう頭の中では理解してるんだろう。
けれど認めたくないんだと思う。


なんで、不安になるんだよ。


目の前に、実際に同じ病気になってもちゃんと治った部長がいるってのに



なんで俺の中の不安が消えないんだよ!!!!







「大丈夫だ」

「部長…」


「俺だって治ったんだ。君が治らないわけがない。赤也が信じてやらなきゃ、誰が信じるんだ」


「…ッス」








信じるんだ






部長はもう一度俺に言い聞かせて帰った。




















次の日、俺の所に珍しい顔が現れた。
目の前にいるのは氷帝学園の制服を着た男。


「…なんだよ…日吉」


「…悪い。の病院に連れてって欲しいんだ」







が一番、心を許している相手…………だと思う。認めたくねーけど。






「…頼む」

「…仕方ねーな。…ここで断ったら俺が悪役じゃねーか…」
















真田副部長から早く上がって良いと言われた俺は日吉を連れ、の見舞いに向かった。

















「若先輩!?えっ、ちょ!何で此処に…。うわーもう、髪の毛洗ってないのに…!」

「気にするな。お前はどんなんでもお前だ」

「先輩…」






病室の甘い雰囲気に耐えられなくなった俺は飲み物を買いに行くと言って出て行った。

十五分位して、病室に戻ろうとすれば途中で柳生先輩の親父さんに会った。




「あ…赤也君」

「ども。……いつになったら検査結果出るんスか?先生、まさか……まさかアイツ」

「…今から、それを伝えに行く所だったんだ」









「あ、先生!」
「やあ君。今日は比呂士達じゃないんだね」
「オレの学校の先輩。先生、何か話?」

「ああ…。検査結果が出たんだ」





先生の言葉に日吉は何も言わず病室を出て行った。
が置いていかれた子供のような顔で日吉の背中を見ていたが、日吉が引き返してきての頭を撫でると嘘のように笑った。


「少し外に出てくる。こういうのは家族だけの方が良いんだろう?先輩達にも連絡するよう言われてるからな」




日吉と入れ替わりにお袋が入ってきた。
病室には切原家と先生だけとなった。





君……結果だけ先に言わせて貰えば君はギラン・バレー症候群にかかっている」


「…ギラン・バレー…」



ポツリと呟いたの声が響いた。
お袋が息を呑む。




「最近、手に力が入らなくなっていないかい?歩きにくくなったりとか」
「……うん」


「人によって症状は変わるし、進行速度も違う。でも大丈夫、けして治らない病気じゃないよ」




俺はその言葉に少しホッとした。
けど、は無表情のまま先生の言葉をただただ聞き流しているだけだった。








「一緒に頑張ろう。ね?」








先生の言葉には無言で頷くだけだった。




















それから、の容態は悪化していった。


まず、手足を自由に動かせなくなった。
それから起き上がれなくなった。


もう一日全てをはベッドに横になったままで過ごしている。







手術すれば、治るんだ。
部長だって治ったんだ。

なのに、が治らない筈無い。




そう毎日自分に言い聞かせていた。





なのに日に日に不安は募るばかり。







練習に身が入らない。




副部長に殴られても、
部長に叱られても、




俺はのことが気がかりで仕方が無かった。













毎日病院に通った。


看病しているおふくろにも疲れの色が見える。
けれどの前では気丈に振舞っている。



「おふくろ、俺が代わるから少し休めよ。最近寝てないんだろ?」
「…あ、赤也。ごめんね…。でも大丈夫よ、の方が大変だもの…」



いつからこんな弱々しい笑みを見せる人になったのだろう。
俺が知っているおふくろは、もっと強かった。





も毎日笑顔を絶やさない。
辛い筈なのに、俺達が来ると笑顔で出迎えてくれる。





「あ、兄貴ー。どしたの?頬赤いけど」

「まあ練習中にな」

「真田先輩に殴られたんだろー。たるんでるぞー」

「うるせーよ。副部長が手が早いんだっつうの」





そんな他愛も無い話をしていたのは、ほんの最近のことだった。
























今はもう、出来ない。











「…なんだよ…コレ」




部長が入院してた時には、こんな所にはいなかった。


は今、ICU“集中治療室”に入っていた。
身体につながれた何本ものコード。

なあ、なんでだよ





「…昨晩、急激に容態が悪化したんだ。もう呼吸も自力では出来ない状態になっている…」

「!…先生っ早く手術してくれよ!!アイツ治るんだろ!?手術したら治るんだろ!?」

「赤也君……。今の君の体力では…手術を耐え切れないかもしれない…」

「なんでだよっ!なんで今まで手術しなかったんだよ!昨日まではまだは笑ってたんだぞ!なんでしなかったんだよ!」

「すまない…っ…!」



俺は柳生先生に詰め寄っていた。
先生は言い訳をすることもなく、ただ頭を下げていた。



おふくろは泣いていた。

親父の目にも涙が見えた。

姉貴はおふくろを支えながら泣いていた。





やめろよ


悪い冗談なんだろ?




明日になればまた憎まれ口叩いて

笑顔で俺達を出迎えてくれるんだろ?





明日は日吉が来るって言ってたぞ




こんなとこに入ってたらアイツが心配するぞ





おい、
































夜明け、眠るようにあいつは逝った。


とても安らかな顔で、苦しまずに。





先生から連絡の行った先輩達が駆け付けた時には、俺以外の家族は皆泣いていた。
俺は不思議と涙が出なかった。
きっとまだ、が死んだことを認めきれてないからだろう。






「赤也…」
「あ、スンマセン部長。俺今日練習…つーか学校休みます。なんか眠いんス」
「……そうか。よく休みなよ」



自然と顔が「笑顔」を作った。

俺のその顔にあの仁王先輩まで目を見開いたのだから、きっと凄く完璧な笑顔だったのだろう。











俺は病院の屋上で寝転がっていた。
眩しい青空が徹夜明けの目には厳しかった。
それでも空を見ていた。








「…此処にいたか」




「…なんだよ」







屋上に来たのは日吉だった。
始発が動き出してようやく此方へ来れたのか。



目元が赤い。
コイツも泣いたのか。


なのに、何故俺は泣けないのだろう。










「ん」

「――あ?…何だコレ。…手紙?」



からだ」

「!!」







ひったくるように手紙を受け取り、急いで封筒を開ける。
中には見慣れた文字――ではなく、まるで小さい子供が書いたミミズがのたくったのような字だった。




「受け取ったのは…三日前だ。もう殆ど字なんて書ける状態じゃなかった」
「…なんでそれをお前が持ってんだよ…」
「もし、自分がいなくなったら渡してくれと頼まれたんだ…」




俺が日吉に、じゃなくて日吉が俺に??

普通逆じゃねえ?
そういうメッセージを渡すなら恋人を選ぶだろうに。




俺は手紙に目を通した。

















“あにき、ほんとはおれわかってたんだ


 自分の体だもん、いつダメになるかなんて気付くよ


 でもあきらめたくなかった。それにおれがもし泣いたりしたら母さんが悲しむでしょ?

 
 あにきにはおれの分もテニスしてほしいし、これ以上心配かけたくなかった


 立海に優勝してほしい…って言うと裏切り者っぽいから決勝は氷帝と立海で戦って欲しいな

 
 そんで勝敗を決めてくれればいい

 
 S1をあにきVS若せんぱいでやってくれたらいいのに


 あーやっぱ手紙なんて柄じゃないね、なに書いたらいいかわかんなくなってきた


 とりあえず言っておきたいことはひとつだけ













  切原 は切原 赤也の弟で幸せでしたっ!”


















「……あの…馬鹿…っ…!」


俺は目頭が熱くなるのを感じた。
手紙に水滴が落ちる。
視界が歪む。




俺は、ようやく泣いた。











































あれから一年。
去年は青学に負けた立海だったが、今年は違う。



今この決勝のコートに立っているのは立海と氷帝。






「へっ、やっぱりお前が相手かよ」

「…当然だろ?この舞台を望んでいた奴がいるんだからな」




先輩達は引退して、今は観客席にいる。
俺が立っているのは決勝戦、S1のコート。

ネット越しに立っているのは――――日吉。






「立海を背負っている部長として、アイツの兄として負けらんねえな。――絶対勝つ」


「フン、此方もそれは同じだ。氷帝の頂点に立つ者として、アイツの為にも。――絶対勝つ」










「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ!立海サービスプレイ!!」








今、俺達の最後の決着をつける試合が始まった。
















BGM;優しい赤

竣さんお待たせいたしました。こんな駄文でよろしかったらどうぞお持ち帰りください