(幸村視点)
気がつけば、俺達は旧校舎の玄関口の外にいた。
「あれ…?いつの間に外へ…」
「な、なんかすげー…疲れた…」
不思議そうに見る藤代、ぐったりとしている笠井。
「また…あの人に助けられたか…」
「じゃあ…さんが俺達を外へ?」
「だろうね、後は花子さんかな」
恐らく力を使い果たして俺達は気絶してしまったんだろう。
出してくれたのは…さんと花子さんかな。
「でもさ、これでアイツはもういないんだよな!」
「…でもこの旧校舎にはまだまだ沢山の霊がいるんだろ…」
そうだ。
今回は花子さんのお陰で他の霊の接触は防げれたが、本来ならこの校舎には霊が溢れかえっている。
「それに…さんが言っていました。“とうとう外にまで力が及ぶようになった”と」
「放っては置けない、と言うことか」
「幸い、封印方法は解るわけだ。てことは俺達にでも何とか出来るってことじゃない?」
俺の言葉に全員が目を開いた。
やだなあ、そんなに驚く事言った覚えないよ?
「幸村部長…貴方、まさか…」
「そう、そのまさかだよ日吉」
折角、こんな面白そうなことに出逢えたのに傍観者になるつもりは無いよ。
――――後日。
「ねえねえ蓮二。ちょっと面白いもの見せてあげるよ。あ、仁王も来てごらん」
俺は部活中に蓮二と仁王を呼び出した。
「なんじゃ、幸村。今練習中ぜよ」
「珍しいな、お前が練習よりも優先するものがあるとは」
まあ練習も大事だけどね。
それよりもっと大事なものがあるんだよ。
「あれ、何してるの?三人集まって」
「部長さん自らサボりとは珍しいなあ」
失礼だね、忍足。
あ、そういえば滝と忍足も蓮二達と一緒に旧校舎に入った組だっけ。
「ま、いいや二人も見てよ。絶対驚くから」
「「「「???」」」」
「ほらっ♪」
「「「「・・・・・・・」」」」
俺が取り出したのは黒猫の人形。
樺地に作ってもらったんだ、あの子器用だよね。
「…それ、見せる為に呼んだんか?」
「精市……」
「…練習戻ろか…」
「そうだね…」
四人は疲れた顔をしてコートに戻ろうとする。
人の話は最後まで聞きなよね。
「折角連れてきてあげたのに―。ねえ―――
さん」
『まったくだ』
「「「「!!!??」」」」
全員がバッと振り返る。
その表情は面白いね、皆キャラ壊れてるよ。
「え…?!」
「まさか…!」
「ほんまに…?」
「嘘…」
『よう、日の下では初めましてだなあ』
黒猫の人形は意地悪い笑みを浮かべた。
「なんでなん!?なんでこんな人形中におるん?」
『精市が人形持ってきて、「コレの中に入れば出られるんじゃない?」って言うから試してみた。省エネだぜ、この体』
「間違い無いのう…。この口調はさんじゃ」
人形だった猫は、さんが入ってからまるで本物の猫のようになった。
俺も冗談のつもりだったんだけど、まさか出来るとは思わなかったよ。
あの日の後、人形を持って俺はもう一度さんの所へ行った。
中には入らず、玄関に人形を置いて紙に“これに入れば出られるんじゃない?”って書いて置いておいたら次の日ほんとに入ってたんだ。
さん曰く、音楽室の霊を封印する時に力を使いすぎたからこの中で少し休むってことらしいけど。
『いやーシャバも久しぶりだぜー』
「コートの傍に行ったらテニスボールに当たるぞ、」
「言葉が微妙に古臭いで」
凄く楽しそうだね。
あれの中身が旧校舎に住む天邪鬼だとは誰も思わないよ。
「あれ…コートに猫…」
「なんで…」
『おーいリョーマ、太ー!』
「「さんの声!?」」
見れば越前と不二が此方へやってきた。
それに体当たりするように飛びつくさん。
驚いていたけど、話を聞くと納得したらしい二人はとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「俺にも抱かせろよ、越前!」
「嫌っす。後輩に譲ってくださいよセ・ン・パ・イ」
幾ら姿が猫でも中身はさんなんだけど、解ってるのかなあの二人。
さて、そろそろ取り返しに行こうか。
「はい、そこまで。この形代元はと言えば俺のだからね。よって中身も俺のだよ」
『おいおい』
「んな!!ずるいっす幸村部長!!」
「楽しそうだな、精市」
「参謀が教えたんじゃろ…中に入れる時間。言わなきゃ知らんかったのに…」
『そうそう言っておくことがあった』
先程までのふざけていた時とは違う真剣な声。
さんは長い尾をぱたぱたと動かしながら、俺達を見た。
『霊感のある・ないに関わらず、あの校舎に入っちまった者には霊が見えるようになる。
まあオレと関わった奴等は暫くオレの霊力が染み付いてるから問題無いが、もしオレが居ない時に旧校舎に人間が入れば―――
―――飢えた霊共に襲われるぞ』
俺達の苦難はまだ始まったばかりのようだ。
新月のノクターン