「先生…!」




かすがは上田城に辿り着き、眠ったを見て力無く座り込んだ。









「ご苦労じゃったの、佐助」
「いえ…。どう?師匠は何か変わったことは…」







「いや、全く反応が無い。政宗殿には文を送るべきであろうか…」


「やめておけ。心配をかけてしまう。あやつも一国の主。一人の人間に心揺らされている時ではない。我らだけでよいのだ」











「先生…。お願い…目を開けてください…。かすがに…笑いかけてください…」




の前でしか泣いた事が無いかすがの目から涙が落ちた。






『今日からお前らの面倒を見るだ。よろしくなっと…名前無いんだっけ?じゃあお前は佐助!そんでお前はかすがな!』


『忍として一番大事なのは生に対する執念だ。これはオレの一番大事な人が教えてくれた』










ねえ師匠、かすがをこんなに泣かせて

大将や旦那に心配かけて

俺様をこんなに不安にさせて





あんたって本当に大物だよ。


























暗い場所で泣いてる子供が二人。




一人は頑張って堪えようとして、一人はあふれ出てくる涙を抑え切れなくて。





誰かを呼んでいる。







『師匠…起きて…』
『先生…目を開けて…』






ああ、オレの可愛い子達が泣いている。


かすがの涙はオレが受け止めないと。

佐助の泣き顔はオレが隠してやらないと。






一生懸命手を伸ばす。












二人に触れた瞬間、辺りが明るくなった。

















「…先生!!!」
「師匠!!」










オレの包帯に巻かれた左手はかすがの頬に触れていた。
オレの右手は佐助の手を掴んでいた。











「…かすがの泣き虫は治らないなあ…。佐助までうつっちゃったのか?」



「先生…?」


「もしかして師匠…」



みるみる表情が変わる佐助にかすが。


ああ、本当に二人は変わってない。
昔のまんまだな。

ほっとした時や心配そうな顔が昔と一緒だ。











「ただいま、二人共。待っててくれて、有難う」





「先生!!」

「師匠…師匠師匠師匠!!!」












二人は今だけ忍ではなく、ただの“佐助”と“かすが”に戻った。
















そしての左手の包帯の下にひっそりと“闇”という文字が浮かびあがっていた。





















「先生…先生、せんせい!!」

「ほら、折角美人になったのに泣いてちゃ駄目だろ」
「だって…先生…ウッ…ああ…」








は目配せして幸村と信玄に部屋を出てくれと頼む。
幸村は解ってなかったが信玄には伝わったようで幸村を連れて出て行った。











「佐助なんかオレを跳び越しちまったな―。すっかり色男じゃねぇか」

「まだまだだよ…俺なんて…。アンタの前じゃ…ひよっこだ」





照れくさそうに俯く佐助の頭を撫でてやれば小さな子供のように崩れた笑顔で笑い、
泣きじゃくるかすがの背を叩いてやればぎゅうっとしがみついてくる。



よかった、取り戻せて。











これで欠片は三つ。

残る欠片は?











「どうやらぶじめざめたようですね」


「謙信か…わざわざ夜分にすまんな」



「いえ、ほかでもないかれのことですから…。それにつるぎがうれしそうですからね」







部屋の中では泣いて目が真っ赤になったかすがと照れくさそうにそっぽを向いている佐助の姿が。


それを微笑ましく見つめる信玄と謙信の両名。

幸村に到っては中に入れないことで少し嫉妬心が芽生えたが、喜ばしい光景を目にしている為何とも言えない。













今宵はいい夢が見れそうだ。





































「え…?今なんて?」






「だから、オレここを出る」





朝餉の席に静寂が流れた。







「どうしてでござるか!!何か気に入らないことでも…」
「違うって。元々オレ放浪の旅してたじゃん?多分まだ取り戻してない欠片あるんだよね」




この間城下で会った前田慶次とか。








「で…でも…」
「幸村、無理を言うでない。にはの人生があるのじゃ」

「……」





それ以来幸村は口を閉ざした。






















「取りあえずは南に向かうよ」





は庭で空を見ながら言った。
辺りには誰もいない。

それでも、聞いている奴はいるから。







「京に行って、四国や中国、それから沖縄にも行きたい。もしかしたら、会うかもしれないな」





自分の行く先を告げる。
暗にそれは二度と会えないわけじゃないと言っていること。






「お前も任務で色々廻るだろうし、そろそろ戦も始まるだろ」





しっかり幸や信玄様の為働きなさーい、と声を屋根の上に投げかけ部屋へと戻った。















「…そうだね。必ずまた…会えるさ」




屋根の上で静かに呟いたのは、佐助。