「テネブラエはどうするの?を頼ってきたのならこのまま私達と同行するのかしら?」

「はい、私は様をサポートしたいと思います」




テネブラエのその言葉に道具袋がガサガサと動いた。




さんのサポートはミュウのお仕事ですの〜〜〜!!!」





飛び出てきた青い聖獣チーグル。
勢い良く出てきたというのにテネブラエを見た瞬間、固まった。




「…て、テネブラエさん……」

「おや、マーテル様がつけたのは貴方でしたか。たかだかチーグルがセンチュリオンである私を差し置いてサポート役などと…」

「みゅっ!ミュウだって出来るですの!!」





どうやらあまり相性は良くないらしい。

役目上の争いを止めることも出来ず、三人は二匹の言い合いが終わるまで放っておいた。






















「見えてきましたよ」



エヴァとはまた違った風格を持つ、王宮が見えてきた。
王宮の下には賑やかな城下町。



三大王都の一つ、レディア。






近くの森にイクシフォスラーを停め、徒歩でレディアへと向かう事にする。














「まずは王立研究院を訪ねなきゃ。そこに大佐の知り合いの博士がいるって話だし…」



大きな門をくぐり、街の案内図を見て場所を確認する。
王立研究院とは王家の許可の下、軍事に使うマナの研究や音機関の発明をしたりする。
現在ではマナの消費を防ぐ為の研究に余念が無いとか。



城下町の様子を見ながら歩いていると、いい匂いがしてくる。
近くの屋台から漂う香りにの腹が反応する。






「うわー…いいにおい…」

「そういえばもう昼時ね。私達この街に着いたばかりだし…」
「ええ、そんなに急いでいるわけでもないですしね。ずっと動き詰めでしたし休憩をとることも必要でしょう」

「ミュウもお腹ぺこぺこですの〜…」
様がお疲れなのでしたら異論はございません」


全員の賛同を得て、街の広場で休憩をとることにした。
様々な屋台が出ているこの広場では、大道芸人の出し物が楽しめたり移動遊園地が来たりと住民や旅人に楽しめるように出来ている。






「…ねえリフィルさん。さっきから色々見るんだけどさ…」



の目線の先には街の至るところにいる、動物のような特徴を持ったヒト。
体の一部が動物のそれだったり、または動物がそのまま人間と同じ様に進化した姿の者だったり。





「あれはガジュマね。レディアに沢山住んでいる種族よ」
「ガジュマ…?へー、世界には色んなヒトがいるなあ」



それだけの説明で納得したにリフィルは軽く目を瞬かせた。


大抵の人は自分と違う種族への認識が少し偏る。
そこから生まれる差別だって少なくないし、種族間の争いだって絶えない。
自分と違う生き物を簡単に理解出来ないのが人の悪い点だと考えていた。











達には言ってはいないが、リフィルはハーフエルフだ。


過去ハーフエルフはエルフと人との間で肩身の狭い思いをしてきた。
今ではそんなことは多くないが、完全に無くなったわけではない。
エルフの中にはハーフエルフを嫌悪する者がまだ沢山いる。



ガジュマと人の間に生まれた、ハーフもやはり似たような差別を受けてきた。
だからハーフと言う存在は己の存在を隠している。


この世界はまだ、“ハーフ”に優しくない。





だが、先程のは全てをひっくるめて“ヒト”と言った。



そんな考えの人間が増えればこの世界からは差別と言う言葉が無くなるのではないかとリフィルは思った。

勿論そんなに根付いた考えが簡単に変わるとは思っていないが、こういう考え方をする者もいるのだと希望が持てる。




・・・・・・この子なら私達も・・・・・・


























「オレちょっとあの屋台行って来る!!」
「ミュウも行くですの!」

「ああ、お待ちください様!」





すっかり浮かれてしまったは目の前に並ぶ屋台を見に走り出した。
ジェイとリフィルは苦笑しながらも帰りを待つ為席を取りに行く。

















「美味そう…!!おっちゃん、コレとコレ。後そっちの三つね!」
「おう、毎度!坊主旅人か?」
「うん。この街初めて来たけど、面白そうな街だね!」
「ハハハ!そうだろう!なんせこの街を治めるアガーテ様は素晴らしい方だからな。だから街がこんなにも穏やかなんだ」



羊のガジュマの店員から商品を受け取りながら話をする。

王族と言われればの頭に浮かぶのはエヴァのウッドロウとナタリア。
確かにあの二人はとても民のことを考えていて、素晴らしい人達だったのはにも解った。

だからアガーテ、と言う人もこれだけ民に慕われているのなら凄い王様なんだろうなと思った。








「きゃー!!!」



「!?!」





広場に絹を裂くような悲鳴。




は手に持っていた商品を全てミュウとテネブラエに託すと、悲鳴の方へ走り出した。


















「ひいぃ!!魔物だぁぁ!!!」
「きゃあああ!!」





慌てふためく人々の中心には魔物が数体。
は剣を取り出すと、人々を掻き分けて魔物の前に立ち塞がった。




!」
さん!」



するとジェイとリフィルも先に魔物に応戦していたようで合流出来た。





「何故こんな街中に魔物が…?!」

「警備の人間は何をしているんでしょうね…」







戦いたいが、周りの野次馬達が中々退かない。
庇いながら戦っていればこっちが不利になる。







「皆さん逃げてください!」


だが混乱している人々は団子状態になり、逆に混雑してしまう。




そんな中、小さな女の子が一人親と逸れてしまったのか泣いていた。
魔物が女の子に狙いを定める。







「マズイ…!」

「…っくそ!!」




は走り出したが、魔物より先に女の子の所に辿り着いて応戦することは距離的に不可能だ。

それでも、懸命に足を動かし走る。





「…リフィルさん、さんに補助魔法を!!」
「ええ…!!
堅き守りを…バリアー!!




暖かい保護を受けたのが判った瞬間は飛び込んだ。


魔物の爪が女の子に振り下ろされる瞬間に。












「っ!!」



文字通り身を引き裂かれ、その場に蹲る。
腕の中には泣いている女の子。どうやら無事のようだ。

だが魔物は待っちゃくれない。
いきなり飛び出してきたにターゲットを変えたようだ。



防御力を上げたとは言え、傷はけして浅いものではない。
痛みに動きが鈍い。

剣を降るうことも出来ない。





せめて、少しでも急所を外そうと魔物から目を離さないようにする。

















「ガスティーネイル」



















涼やかな声が響いたかと思えば、風が爪となり魔物をなぎ倒す。
風の魔術なんてジェイもリフィルも使えない、いやそもそも声の主はのパーティ内の者ではない。








人々から歓喜の声が上がる。


その声が集まるのは達の背後。






後ろを振り返れば其処には鎧を纏った騎士達がいた。




「ブルーローザ軍だ!」


皆鎧の胸の部分に青い薔薇を模った模様が入っている。
それを見て民は安堵の声を漏らす。