「まとめるとそんな感じ?そっかー祐喜はももたろうさんだったんだぁー♪」
「…、話解ってる?っていうか楽しんでない?」
のほほんと笑う友人に少年は肩を落とす。
こっちは頭が混乱してるのに…と溜息をつく。
「でも、ももたろうさんなら一緒に戦ってくれる“仲間”がいるんでしょー?」
「“仲間”…?」
優しく頭を撫でる手に心が安らぐ。
先程出逢った三人は“部下”と言った。
けれど、自分が欲しいと思っていたのは“友達”。
“部下”としてではなく、一緒に頑張ってくれる“友達”が欲しかった。
「って時々すげえよなー…」
「ん?」
彼は自分にとってすごく大切な存在だった。
自分の体質故に人は自分から離れてゆく。
だが彼だけは違った。
『そっかー祐喜引っ越すのかー。じゃあオレも行こうかなー』
住み慣れた土地を離れる時、自分に付いて来てくれたのだ。
「…なあ、。今更だけど、俺に付いて来て…よかったのか?」
「いーのいーの。この学校楽しそうだし。祐喜はオレといるの嫌?」
「そんなことない!!…がいてくれて…助かってっる!!?」
会話の途中で何かに圧し掛かられた。
慌てて背中を見ると昼休みを共に過ごしていた三人の内の一人。
「…雅彦」
「わが君!!!見つけました!!」
まさに尻尾をふっている、という表現が合うくらい喜んでいる雅彦。
そうだった、自分はさっき逃げるように三人から立ち去ったのだと思い出した。
…しかしヴィジュアル台無しだな、この能力。
と思ったのは自分だけではないだろうな、と祐喜は思った。
「どうかお戻りください!!我々けしてわが君を悲しませるつもりなど無く……!」
「おーいたいた。見つけたぜ、わが君……!」
後から追いついた咲羽と、自分に貼り付いている雅彦の会話が不自然に止まった。
何事かと思い、二人の表情を見ようと顔を反らせば二人共が驚愕の表情を浮かべていた。
そして二人の目線の先を追っていけばそれはに辿り着く。
「お、おい二人共…何そんなに驚いて……」
「おや、向こうの方が騒がしいね」
質問は屋上からした大きな音に掻き消された。
見上げればそこには女の子が何かと争っている姿。
「雪代…!!?何やって…」
「あの馬鹿…一人で鬼と対峙してやがる…」
彼女はさっき自分の為ならなんでもする、と言っていた。
それならば一人で危険省みず飛び込んでいくのも頷ける。
「これは凄いね〜。祐喜、行かなくてもいいのかい?」
「…っそうだ!!咲羽!!あそこに連れてってくれ!!“部下”への命令じゃなくて、“友達”の頼みとして!」
「…了解」
にっと笑みを浮かべた咲羽に連れられて、向かうは屋上。
雪代を庇い、なんとか鬼に呪いを解いてもらう事も上手くいった。
「これで…呪いが…」
自分に当たらなかった野球ボールに感動していれば、次に飛んできたラグビーボールが思い切り頭に当たった。
「…ってえ〜〜〜!!解けたんじゃなかったのかよ!!」
「だってまだ、1人目だし」
さらりとそう言ってのけた紅に、先程までの喜びが何処かへ走っていったような気がした。
つまり、まだまだ自分の体質は治らないのだと。
現実は思ったより厳しいのだと言われたような気がした。
「あ〜落ち着いたみたいだねぇ。よかったよかった」
遅れて、がのんびりした声で屋上に現れた。
祐喜の傍に来てぶつけた頭を撫でてくれる。
「…っ!!」
「…!」
雪代と紅の息を呑む様子。
そして、またも身構える咲羽と雅彦。
皆の視線が集中するのはの方。
「…?皆どうしたんだ?さっきから咲羽も雅彦も…今度は雪代と紅まで…」
「……ひ…さま…」
ぽつりと誰かが呟いた。
それは雪代から。
彼女の瞳はまるで自分と出逢った時のように潤み出し、やがて雫が頬を伝った。
そして待ちわびたとも言うように駆け出し、に飛びついたのだ。
「姫様!!!」
「…ひ、姫ぇ?!!」
雪代に釣られて、咲羽も雅彦も紅までもがに駆け寄った。
急ぎ祐喜も駆け寄るが、皆が雪代と同じ様に涙を流していた。(咲羽は別だが)
「…こうしてまたお会い出来る日々を…幾度夢見たことか…。祐喜様だけでなく…姫様まで…」
「雪代ちゃん泣かないで〜。雅彦クンも紅クンも、ほら笑って〜」
1人だけ場違いなようにのほほんと笑っているが、それが彼らを宥めるにはぴったりだったようだ。
「ちょっちょっと待ってくれよ!!も誰かの生まれ変わりなのか!?」
「…祐喜、気がついてなかったのか…?」
確かに。
紅に出逢った時も、全身で血が騒ぐという風にすぐ気づけたと言うのに。
とは昔から共にいたが、何も気がつかなかった。
「それは祐喜の所為じゃないんだよ〜。あまりに昔から一緒だったから馴染みすぎちゃったんだよ」
抱きついている雪代を優しく離し、祐喜の痣のある手を握った。
「『お待ちしております。貴方様が戻られる日を』」
その言葉を聞いた瞬間、祐喜は全身を電流が走るような感触を受けた。
「わかった?」
「…って、うぇ?!…、まさか…」
「昔々…」
咲羽が遠くを見ながら呟いた。
「鬼はある娘を生贄に差し出せと村人に告げた。村人は自分達が助かる為に娘を差し出した。
娘は逃げる事も無く、自ら鬼ヶ島へ向かった」
―大丈夫じゃ、わらわが行けば皆は助かる。それにわらわも諦めておるわけではない。
きっと、光が現れてわらわを照らしてくれる。
そう信じておるのじゃ。―
「娘は巫女姫として奉られていた。不思議な力で人々の病気を治したり、穢れを払ったり…それ故に鬼は恐れたんだよ」
紅は鬼側でありながら、姫を心配していた。
捕らえられてからも様子を見に行ったり、話をしたりしていた。
「獣基が桃太郎と出逢ったのも、姫の予言があったからでございます」
―主らは大きな力を持っておるなあ。きっといつか、その力を使うことになるであろう。
その時はその力で“主”を守ってやっておくれ。
再び光を取り戻しておくれ。―
雅彦は覚えている。
巫女姫として隔離した場所に閉じ込められている彼女の唯一の話し相手は自分達だけだった。
人目を避けて会いに行き、彼女と他愛も無い話をして過ごす穏やかな日々が好きだった。
「物語に語られていないのは、全ては巫女姫の存在を隠す為…。自分達が生贄にしたことを隠す為でございます」
―もう、村には戻れない。
わらわは生贄となって捧げられた身、戻っては皆を不安に思わせてしまう。
皆、人々を守ってやってくれぬか。―
悔しそうに唇を噛み締める雪代。
貴女を差し出した自分勝手な奴等など放っておけばいいのに。
私達が光になれたのは貴女という月があったからのに。
「そんな…が…巫女姫っ……ってえ?女だったの?!」
「あはは〜。姫じゃなくなっちゃったんだよね〜。ま、いいじゃないか、オレはオレだし」
本人が全く気にしてないのでこれ以上自分が気にする必要も無いのか、と祐喜は脱力した。
幼い時から一緒にいて安らぎを感じられたのは、意識は無くとも血が覚えていたからなのだろうか。
それともの人柄故に自分は安心感を覚えていたのだろうか。
どちらにせよ、彼が大事な人であることに変わりは無い。
「姫様っ…ご立派になられて…」
「雅彦クン泣きすぎだよ〜。ほらほら泣き止んで〜」
「姫様に撫でてもらうのが一番気持ち良いであります!」
「…ずるいですわ…雅彦ばっかり…」
「雪代ちゃんも祐喜を守ってくれてありがとね〜。でも怪我無い?」
「も、勿体のうございます…!」
「姫……」
「紅クンは昔と変わらず優しいねえ〜。オレとも友達になってくれる?」
「…うん!!」
「俺も忘れんなよ」
「咲羽クン格好良くなったね〜。あ、今はオレの方が背高いや」
「すぐ抜かしてやるよ。今度はずっと一緒だからな」
「じゃあ祐喜、ニューライフ頑張ろうか」
「…おう!」
始まりは君と共に