ざくざくざく

私は穴を掘る。



それは獲物を落とすため

罠にかけるため



けれど、あの人は中々落ちない。

































「喜八郎!いつまでしている!」
「…滝」







僕は穴を掘っている。
朝から晩まで、授業中以外はほとんど。




滝が心配(というかおせっかい?)していつも呼びに来るけど、僕は手を止めない。


昨日まで実習だったから、今日は沢山掘らなきゃいけないんだ。








「…もう知らん!」







呆れて滝は行ってしまった。


けれど僕はやめない。






だって沢山、たくさん、たくさん掘らないと…






あの人を捕まえられないから…。









いつも落ちるのは保険委員ばっかり。
僕はそんなの狙っていないのに。

それで用具委員に怒られる。
ちゃんと目印もしているんだ、落ちる方が悪い。




僕は先輩を捕まえなきゃいけないんだ。








あの日、先輩が亡くなったなんて嘘。
きっと立花先輩のことだから僕らが慌てている様を楽しんでいるに違いない。
そうやって先輩を独り占めするつもりなんでしょう?





だから、僕が穴を掘って

先輩が落ちたら、先輩は僕のもの。










「…っ!」

手に痛みがはしる。
血の臭いも。

肉刺がつぶれてしまった。


けど、やめるわけにいかない。





まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ
まだ、まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ





















「喜八郎!!!」

…また戻ってきたの?滝



何度言われたって僕は
「……先輩が……先輩がおられるぞ!!」







カラン







手から滑り落ちる踏子ちゃん。



僕は気づいたら走り出していた。















どこにいけばいいのかわからない。
でも足が止まらない。













ずっと走っていると、三木の姿が見えた。
三木が寄り添って泣いているのは誰?


六年生の装束じゃない。


けれど、あの笑顔は知っている。









どうしよう、足に力が入らない。

全身の力が抜けてくみたいだ。




「……せんぱい」









三木に注がれていた視線が僕へ向く。







「喜八郎っ」



僕の視界がぼやけた。











体当たりのように飛びついて、三木も巻き込んで

僕らはその場に倒れた。








「……う…うえ〜……」

「あ、綾部…?」


「…ごめんな、喜八郎」
「許し…ません…!…う…っ…ばか…ばか…!」




先輩の手が僕の頭を撫でるから、涙が止まらない。


後から追いついた滝がそっと背中を撫でてくれる。
けど、今は泣き声しか出なくて






僕は先輩の装束がびっしょりになるまで泣いた。









「よしよーし、お団子食べるか?」
「…ぐずっ…食べます…」

「三木ヱ門も、滝夜叉丸も一緒においで。美味しい団子もらったから食べよう」

「はいっ…」
「先輩…そのまま行くんですか?」



滝が私に視線を送る。
私は今先輩の背中に乗っている。





「じゃあ喜八郎、おりるか?」

「やです」





だって、久しぶりに会えたのに
離れたくない。










「大丈夫、喜八郎一人くらい背負えるよ」





そうやって貴方は許してくれるから。











「…せんぱい」
「んー?」

「おかえりなさい」
「…ただいま」








ああ、ようやく手の届くところに貴方がいる。































「あ、皆こんなところにいたんだね〜(*´∀`*)」


四年長屋の前の縁側でお茶しているとタカ丸さんがやってきた。
そう言えば、タカ丸さんは先輩の居ないときに編入してきたから知らないのか。




「せんぱい、あれ四年に編入してきたタカ丸さんです」
「あれは酷いよ〜喜八郎くん(;´Д`)」



「初めまして、だ」
「どうも〜。僕斎藤タカ丸…って……。あの!!!ちょっと髪を見せてもらって良いですか!!(;゚Д゚)!」


ほんわかした雰囲気から一転、髪結いモードのタカ丸さんになった。
先輩の頭巾を剥ぎ取ると、顔を青くした。





「…こんっな…きれいな色してるのに…。
毛先が痛んでるじゃないですかあああああ!!!(゚Д゚)


「え!?あー…そう?」


素早く鋏を取り出し、毛先を整え出すタカ丸さん。
先輩、身だしなみにはそんなに興味無いって昔言ってたなあ。






「…はいっ!これで大丈夫!良いですか!!トリートメントは最低三日に一回くらいはしてください(゚∀゚ )」
「…はい」

先輩がタカ丸さんに圧倒されてる。




「それにしても、喜八郎くんがそんな風に誰かにくっつくなんてあるんだね(*´∀`*)」
「喜八郎、そうなのか?」
「余計なこと言わなくて良いんです」





だって、僕は先輩がいればいいんだもの












そうして、タカ丸さんも加わり皆でお茶会をすることに。
しばらくして、滝が何か言いたそうな顔をしていた。



「あの…先輩、実は折いってお願いがあるのですが」
「ん?何かな?」

「明日…女装実習がありまして…。それで、二人一組で恋仲という設定なので相手役をお願いしたいのです!」
「相手…オレで良いなら
「だめ」





「だーめ!滝の相手役なんて絶対だめ。せんぱいは僕の相手役するって決まってるから」
「なっ…き、喜八郎!!!お前は明日の実習サボるって言ってたじゃないか」
「気が変わったの。とにかくだーめ」






「じゃあっ!明後日の僕の実習の時に先輩「それもだめ」
喜八郎!!!




滝にも三木にも先輩は譲れない。
だって、ずうっと我慢してたんだもの。




「こら」



コツンと僕の頭に乗る先輩の手。







「滝夜叉丸の方が先だっただろう?三木ヱ門も実習なんだ、手伝ってあげないと」
「やです。だめです」
「喜八郎」






もっと頭ごなしに怒鳴ってくれればわがまま言えるのに。
そんな風に優しく呼びかけられたらこれ以上何も言えなくなる。







「……僕と二人だけでお出かけしてくれるなら許します」

「ん、今度の休みにな。はい、約束」





小指と小指を絡ませて、指切りげんまん。







「じゃあ、滝夜叉丸。明日はよろしくな」
「は…はいっ!!こちらこそ!!」
「三木ヱ門もな」
「はい!!!」





「じゃあ僕は皆の髪結ったげるね〜。あ、先輩もだよ!必ず来てね!(゚∀゚ )」
「お、おう…(なんだこの逆らえなさ)」











「喜八郎、どこに行きたい?」
「…どこでもいいです。せんぱい、忘れないでくださいね」
「了解、じゃあ見世物小屋でも行こうか」














まあるい、まあるい
僕だけの世界は





青い空と






先輩がいて完成なのです。