カチカチと歯車がひとつずつ組み合わさる。
正常に動き出す、記憶。
あの懐かしさや、違和感は気のせいじゃなかった。
息を切らして入ってきたのは伊作だった。
「…話したの?」
「…ああ」
「…そっかあ」
ずるずるとその場にへたりこむ伊作。
駆け寄ると肩が震えていた。
「伊作…?」
「……僕の…せいだったんだ」
床に雫が落ちる。
伊作が…泣いている。
「僕の後ろに近づいていた忍者の気配に気づけなくて…は僕を庇ったんだ。
苦無がたくさん刺さって…」
『っ!!!』
『…っ…ざけんなよ…。オレ達は授業中なんだっつうの!!!』
『だめだ!!それ以上動いたら…!!』
『逃げろ伊作!!!』
『嫌だ!!だけ置いて逃げられないよ!!』
「そこからは無我夢中で覚えてない…。気づけば、プロ忍はいなくなっていて…僕の前には苦無に塗られていた毒で動けなくなったがいた」
『…伊作…。もう…いないか…?』
『うん…もう大丈夫だよ…!先生達も来てくれるから…だから…死なないで!』
『ばーか…忍ってのは…いつも…死を覚悟…してなきゃ…いけないんだぜ』
『駄目!!絶対死んじゃ駄目!!』
『…そーだな…まだ文次郎と…決着…ついてねえし。…留三郎にも…借りが…あるし…』
『そうだよ!だから…』
『…もう…あまり…見えな…』
『…?ねえ…。ねえ…冗談やめてよ…。―――――!!!!』
「僕が…僕がもっとしっかりしてれば…。僕のせいで…は死んだんだ!!!」
伊作は振り上げた拳を何度も床へと叩きつける。
床に赤い染みが付き始めても、何度も。
「伊作」
その手を止めて
「伊作」
そっと頭を抱きかかえて
「お前のせいじゃない。そんなふうに自分を責めていたら、“”が怒るぞ」
「でも…でも!!」
「伊作」
―――――ダッテ オレハ…
「―――オレは伊作が生きていて嬉しいんだ。だからもう自分を責めるな」
「…………っ……!!!」
オレにしがみつき、大泣きする伊作を宥め立花君をちらりと振り返る。
彼の目には困惑した色が映る。
「―ねえ立花君」
「…なんですか?」
「今、話してくれたこと…まるで現場にいるように情景が浮かんだんだ」
「!?」
「…どうしてだろう。この世界は、オレにとって初めてじゃないんだ。君達も含めて」
伊作を撫でながら、浮かんだ言葉を言う。
――――アア ヨウヤク 繋ガッタ
「…先に逝ってすまない、仙蔵」
「――――っ…謝っても許さんわ馬鹿者…
……おかえり」
立花君…いや、仙蔵の目からも一筋光るものが流れた。
どうやら、オレはこの時代の“”が転生し再び現代に生まれたというものらしい。
あやふやな記憶が、仙蔵と伊作の話で鮮明に思い出される。
まだ繋がっていない部分もあるし、今まで現代人として生きてきた分違和感は拭えないが…心無しかスッキリしている。
「…本当になのか…?」
「……生きているのか」
「……小平太、長次」
「―――――!!!」
あの後、オレ達を探しに来た留三郎や文次郎と一緒に来た七松小平太と中在家長次と対面した。
留三郎達にも改めて話をしたところ、小平太に飛びつかれた。
「…の…ばかあ…!!勝手に死ぬなんて…大馬鹿!!」
「ごめんな…小平太」
「…戻ってきてくれたから……私は嬉しいぞ!!」
「……嘘のようだな」
「だな。非現実にも程がある」
「…だが俺は嬉しい…」
「…ただいま…長次」
「〜〜〜っばかやろう!!!人庇って死んだら意味ねえだろうが!!」
「うわーそれを留三郎が言うかね。お前だって実習中にオレ庇って足くじいたことあっただろ」
「それはそれ!お前のはもっとタチが悪い!!!……っばかやろう」
「…ばかですよーだ」
「やはり…お前はだったのか」
「オレ、文次郎は中々信じてくれないと思ったよ」
「フン、お前は嘘を言っとらんのだろう?」
「まあね」
「なら…疑う理由は無いだろうが」
しかし、どうして現代で生まれたオレがこちらに来れたのだろう。
それが気にかかる。
何故来たのかわからなければ、帰れるかどうかも怪しい。
いくら“”だとしても、オレは現代で生きてきた人間だ。
向こうに家族もいるし、今まで築いてきた生活もある。
このままここにいることは出来ない。
けれど…
「せんぱーい!!!!」
「うわっ…三郎、すごい顔だな。可愛い雷蔵の顔が台無しだぞ」
「だって…だって」
「はいはい、涙以外もいっぱい出てるから。顔ふきなさい」
「兵助、男前になったな」
「せんぱっ…」
「泣き虫は相変わらずか」
「おかえりなさい…っ!!」
「八、ありがとう。六花の世話してくれて」
「全然良いんです!!」
「また委員会にも顔出さなきゃな。委員長として」
「…先輩〜〜〜!!!」
「あの…先輩…」
「雷蔵、おいで」
「…良かった…先輩…!」
「泣くかどうしようか迷わなくて良いんだぞ」
「三郎ばっかりずるいー!!」
「相変わらずだな、勘右衛門」
「先輩だー!紛れもない先輩だー!!!」
「はいはい、先輩ですよー」
今だけは…
この時を楽しんでもいいよな?