オレの目の前にいる五人は初対面の筈だ。
けれど、オレの事を“先輩”と呼ぶ。
その呼ばれ方に違和感が不思議と無いオレ、そしてどこか感じる懐かしさ。
きっとオレが今此処にいる意味は必ずあるはずだ。
昨日は色んな事があったな…。
あの後、尾浜君が泣き出してそれにつられるように全員泣き出したから
正直オレは一人テンパってたと思う。
なんとか宥めて、彼らを部屋へ送ろうとしたけど全員が中々離れてくれなかった…。
「やっぱり…彼らの言う“”って言うのが…オレに似ているからかな」
この世界にオレと同姓同名、そして顔までそっくりな奴がいたのがびっくりだけど…もしかしたらそいつが鍵なのかもしれない。
オレがここへ来たのにも何か関係しているはずだ。
取り敢えず今朝は学園長の所に顔を出すよう言われているから、そちらへ出向く。
事務員とは言え、学校へ勤めるのだから朝礼で挨拶をしなければならないらしい。
「失礼します」
「ウム、入りたまえ」
障子を開けると、上座に座る学園長。
その横に黒い忍装束を来た人が二名。
忍者の学校って聞いた時はマジかよって思ったなあ…。
「山田先生、土井先生。こちらが今日から事務員として働いてもらう君じゃ」
「よろしくお願いします」
「って…」
先生達も動揺している。
やはり、何かあるんだろう。
「ゴホン…。私は山田伝蔵、実技担当だ」
「わ、私は土井半助。教科担当をしている。ええと君…?」
「はい?」
「私達の事…「土井先生」…いや、なんでもない」
「君、朝礼の時生徒達の前で挨拶してもらうからのう。先に外に出て、待っててくれるか?」
「わかりました」
「何故彼が…。私達はちゃんと確認しました」
「間違いない。確かに事切れていた」
「…じゃが…彼は…他人とは思えん。…お主たちもそう思ったじゃろう?」
「…確かに。あれで他人とは思えません。似すぎている…」
「変装なのでは…?」
「昨日…五年生があの山犬に会わせたそうじゃ」
「…あの!?それでは…」
「…うむ、彼は…もしかしたら」
朝礼が始まり、生徒たちが校庭に並ぶ。
土井先生の進行で、いよいよオレの挨拶の時が来た。
「次に新しく事務員さんが入った。皆、落ち着いて話を聞くように」
オレは少し緊張しつつ、台に上がる。
「今日から事務員として働きます、です」
――――ざわっ―――
どよめきが拡がる。
色々な視線が飛んでくる。
「不慣れな点も多いでしょうがよろしくお願いします」
月並な挨拶をし、壇上から降りる。
生徒達は何か言いたそうだが、教師達もいる手前出来ないでいるのだろう。
朝礼が終わり、授業が始まるからと生徒は教室へと向かう。
幾度か視線を感じたけれど、オレも吉野先生について行ったからその場はそこで終了した。
事務員の仕事って、まあ主に雑用なんだけど色々忙しいな。
小松田さんはこれを一人でやってたのか…。てゆーか小松田さんのフォローをするほうが多い気がする…。
「く〜ん、それ終わったらお昼に行ってきて良いって吉野先生が」
「え…もうそんな時間ですか?」
いつのまにか時間が経ってたみたいだ。
色々やることあるから気付かなかった。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃ〜い」
昨日伊作に教えてもらった道程を歩く。
食堂が近付くにつれ、賑やかな声が聞こえてくる。
「あら!新しい事務員さんね。お疲れ様」
「お疲れ様です。えっとお昼ってどうしたらいいんですか?」
「品書きから選んでくれる?」
「えーっと、じゃあうどんで」
「はいよ、ちょっと待ってね」
おばちゃんに注文して、うどんを受け取り座れそうな席を探す。
すると手を振る人物がいた。
「立花君」
「さん、良かったらここにどうぞ」
「ありがとう」
立花君の隣に腰を下ろす。
向かいには潮江君もいた。
「どうですか、仕事初日は」
「時間が経つのも忘れたくらい忙しかったよ。でもなんとかやれそうだ」
手を合わせてからうどんを口に運ぶ。
出汁が超オレ好み。
「はー疲れた。あ、仙蔵、そこ良い?」
「ああ」
伊作が盆を持って立花君の逆隣に座る。
「伊作、お疲れ」
「うん、ありがとう。も初日お疲れ様」
「伊作…この人は」
聞き覚えのない声が耳に入った。
「留さん」
潮江君の隣に座った子は初対面だった。
「昨日話しただろう…?留三郎」
「あ…ああ。…さん…だよな。俺、食満留三郎」
「よろしくな、食満君」
そう言うと食満君は頭を掻いた。
「…なんか変な感じするな。伊作みたいに呼んでくれ。俺もって呼ぶから」
「…良いのか?」
君もオレを見て、動揺しているだろうに。
「いいんだよ。その方がしっくりくる」
男前に笑う留三郎の言葉に甘えることにした。
そう言えば、初日初めに出会ったのは立花君と潮江君だったな。
立花君達はオレと似ている人物と仲が良いと言っていた…。
ということは知っていると言うことだ。
「立花君、後で少し時間あるか?」
「…良いでしょう。もう食べ終えたなら、行きましょうか」
オレの真意が分かったのか、立花君は二つ返事で頷いてくれた。
食べ終えた食器を片付け、立花君についていく。
「じゃあな、伊作・留三郎。潮江君、ちょっと立花君借りるよ」
「ああ…」
何も言わないってことは潮江君も大体予想ついているんだろうな。
オレと立花君は食堂を後にした。
「なあ、文次郎…」
「もしかしては…」
「…昨日、鉢屋達が言った通りなら…。恐らく仙蔵に真実を聞こうとしてるんだろう」
「…っ!!!」
「お、おい伊作!?そんなに急いで食べたら…」
「ごちそうさま!!ごめん、留さん食器よろしく!」
立花君について行った先は作法室。
委員会の時に使われる部屋だそうで、今は誰もいない。
「さて…聞きたい事があるんですよね?」
「ああ…。君はオレに言ったね。――友人に生き写しだって」
「…」
「その人の事を教えて欲しい。オレはこの世界で時々“懐かしい”と思うことがある。その違和感の正体がその人にある気がするんだ」
「………昔話ですが」
立花君の口から語られ始めたのは、彼らの友人“”と彼らが出会った頃の話だった。
「は――…私達と同学年だった。は組でありながら、私と同等の成績で実力もあった。伊作と留三郎とは同じ組で学んでいたこともあって一層仲が良かった。
留三郎と文次郎が喧嘩すれば喧嘩両成敗と二人を同時に沈め、伊作が穴に落ちればいつも真っ先に助ける。後輩とも仲が良かったな。特に鉢屋の懐きようはすごかった」
「それは昨日でわかったよ」
「私が認めている数少ない人間だった。…私達は五年間同じく時を過ごしていた。五年になって、い・ろ・は合同の実習があったんだ。
巻物を持っている奴から奪うという単純なものだった。は伊作と組んだ。巻物を持って逃げる役目を負った二人は同級生達から逃げていた。
その時最悪の事態が起きた。
どこぞの城から巻物を盗んだ忍がいた、それを追っていたプロ忍がいた。あろうことか、と伊作はその巻物を盗んだ忍と間違われた」
――――――ドクン!!
一際大きい鼓動。
「実力はあれど、所詮私達は忍たまだ。囲まれたと伊作は捨て身で逃げた。先生方も中々戻ってこない二人を探していた。
ようやく二人を見つけたときは…」
――――スパンっ!!!!
「は息をしていなかった」
勢い良く障子が開け放たれたのと、立花君の言葉がほぼ同時だった。