六花の毛を梳いてやりながら、俺は昔のことを思い返す。


生物委員会に入って、初めて先輩と出会った日のことを。


あれから、四年が経ったけど今もまだその思い出は色褪せちゃいない。































初めての委員会活動の日、上級生に初めて会う緊張と沢山の生き物が見られる楽しみで胸をドキドキさせながら集合場所に向かった。
飼育小屋の前にたどり着くとそこには六年や五年の先輩方、それから先輩がいたんだ。


あの頃は隣り合う学年は仲が悪いって言うのが常識みたいなもんだったから、二年の装束を着た先輩には俺は積極的に話しかけることなんて出来なかった。
それでも先輩は普通に話しかけてくれていたんだけどな。




ある日、俺と先輩で餌やり当番だった日。

俺は遅れてしまって、急いでいたんだ。
もしかしたら嫌味を言われるんじゃないかって思って。




“これだから一年はダメなんだよ”




俺一人ならまだしも、学年で括られては困る。
だから俺は出来るだけ足を動かした。





俺が小屋にたどり着いた時、もうほとんど餌やりは終わっていて先輩の姿はそこになかった。
ああ、やってしまったと自己嫌悪に落ちていたら背後から先輩の声がした。





「あ、竹谷来たんだー」
「す、すみません遅れてしまって!」
「授業だろー?しゃーねえよ。じゃあ、後兎のとこだけだから頼むな」
「は、はい」



先輩はそれだけ言うと毒虫の小屋に歩いていった。
俺は言われるであろう嫌味に身構えていたのに、あっさりと解放され正直拍子抜けした。


取り敢えず、餌やりを終わらせてしまおうと兎の小屋に向かう。



「ねえ、竹谷」

「は、はい!」




上ずった返事を返してしまったが、先輩は気にならないのかそのまま話を続けた。






「お前、オレのこと怖い?もしくは、苦手?」
「えええ?!」



直球で聞かれた質問にどう答えたら良いのかわからない。
というか、答えづらい!!!!






「竹谷、五年や六年生の先輩は平気みたいだけどオレにはあんまり近付いてこないじゃん。苦手なら仕方ないし、怖いなら直そうと思って」
「…いや…えっと…」



俺そんなに露骨だったのか、と内心ビクビクしていた。




「長次の所も…ああ、図書な。あそこも一年生とまだ上手く話せないって言ってたし…。アイツは優しいけど話上手じゃないからなあ。誤解されやすい」




図書、と言えば雷蔵の所だ。
雷蔵も一つ年上の先輩の声が聞こえず、会話が出来ないとか言っていたっけ…。





「まあ、何か俺達に問題があるならしょうがないけどさ。そうじゃないなら、仲良くやっていきたいと思ってるし」





…俺…バカだ。

先輩のこと、なんにも知らないくせに
勝手に先入観だけで嫌って







「…じゃないです」


「ん?」



「先輩に問題なんて無いです!!…ご、ごめんなさあ〜〜〜い!!」

「お?え?どうした竹谷!!」








気づいたら俺は泣いてた。
泣いてる俺を見て先輩はオロオロしてた。



なんで泣いてしまったのかわからないけど、あの記憶は一生忘れられないだろう。








その後、先輩と話すようになってから実は三郎や兵助とも仲が良いということを知った。
俺の委員会の先輩なのに、と嫉妬したこともあったっけか?











「はーーーちーーーー。六花の散歩、行ってもいーかー?」
「あ、はい。大丈夫っす!」


「悪いな。今日事務作業ばっかだったから体動かしたくて」
「いえ、良かったな六花」
「オンッ!」



「俺も行って良いですか!?」
「いーぞ。六花、今日は久々に追いかけっこが出来るぞ」
「え…?まさか、六花に俺を追いかけさせないでしょうね?」
「……じゃーんけーんっぽい!!!」
「え!?うわっ!」

「八の負けーーー。さあ、俺と六花から逃げ切ってみせろ」
「ちょっ!先輩待って!!」











あの時、先輩が歩み寄ってくれなかったら





今のこの時間は無かっただろう