なんだか最近奇妙な視線にまとわりつかれているような気がする。
そんなに近寄ってこないし、どちらかと言えば食堂や校庭など人の多いところにいるときが一番視線を感じる。

話しかけてこようとする気配は無いが、どちらかと言えば私に声をかけさせたいかのようにじーっと見られている。



あまりにも気持ちが悪いので、ここ最近雷蔵の変装をしていない。






















先輩!助けて!!」

「!!…うわーあ吃驚した…。今日は勘右衛門か、三郎」




廊下を歩く先輩を見つけ、飛びついた。
先輩の言うとおり、今日は勘右衛門の変装をしている。





「どうした?」
「……またです」
「…ああ」


先輩には最初の段階で説明しに行った。
だからこれだけで先輩は解ってくれる。





「…まあ生徒ってことはねえよな。生徒なら直接話しかけにくるし」
「私もそう思う…」
「…ということは…あの人だろ」
「……何故私なんだ」





あの人=あの女


金楽寺から帰ってからというもの、視線がうっとおしくてしょうがない。

話しかけられるのも嫌だが、こうも見られていてはイライラする。






「三郎、今暇か?」
「え?…あ、はい。もう授業は無いですけど」
「じゃあちょっとおつかい付き合ってくれ。学園長から菓子を頼まれててな」
「へ!?あ!行きます!」




やった!

先輩と
二人っきり(←ここ重要)でお出かけ!!!










「じゃあ着替えてくるから正門前で待ち合わせな」
「はい!!!」






こうしちゃいられない!
邪魔者が入る前に準備しなきゃ!









長屋へ戻り、急いで私服に着替える。顔は雷蔵に戻して。
誰にも見つからないように廊下を抜け、正門前は急ぐと先輩の姿が見えた。






…けれど、同時に嫌なものが目に入った。


















あの女が先輩と話している。



私は気配を消し、二人の会話が聞こえる位置まで近づいた。










「(三郎、出てくるなよ)」


案の定先輩にはバレたけど、先輩の言うとおりにする。















「あの…この間はごめんなさい。勝手に部屋に入ったりして」

「…ああ。こちらこそ、言い方がキツかった。体調が悪くてイライラしてたもんでな、すまない」

「いえ、良いんです。あの…ところで貴方生徒じゃないですよね…?事務の制服着てるし」

「事務員だからな」

「…五年生と仲が良いんですか?よく話してますよね」








なんだ、この女何が言いたい?







「まあ、普通だと思うけど」

「じゃあ鉢屋三郎くん知りません?最近見かけなくて…」

「三郎なら今日も普通にいたけど」

「え?(この人雷蔵くんと三郎くんの区別つかないのね)…雷蔵くんと間違えたんじゃないんですか?」









な…何言ってんだこの馬鹿女!!!!


先輩が私と雷蔵を間違えることなんぞあるわけないだろう!!!!



先輩の眉間にも一本皺が寄る。
今イライラしてるんだろうな…。






「そうかもしれないな。けど、三郎に用事なら五年に伝えとこうか?」

「いえ大丈夫です。…彼、わたしの事疑ってるでしょうから」

「は?」






なんだって?






「怪しいですもんね。急に現れて学園にお世話になってる女なんて…。でも、いつか解ってもらえると思います」

「……」





先輩の顔が(゜д゜)ってなってる。
逆に面白い(笑)






「(三郎、この人ナニイッチャッテンノ?電波?ねえ電波???)(´<_` )」

「(先輩落ち着いて…!その顔面白すぎですwww)(^J^)」









「考え過ぎじゃない?」




おお、なんとか振り絞って発言しましたね。









「貴方に何がわかるんですか?」


「「(それはそのまま返したい)」」


あ、今先輩と心がひとつに(笑)






「ところで、掃除終わった?」


「言われなくても行きます」









馬鹿女は先輩の前から去っていった。
完全に姿が見えなくなると、私は先輩に近づいた。










「ねえ!!ちょっと何あれ!!!すっげー痛い!!」
「いやいやいや!!私鳥肌!!見て、大根おろせそう!!」
「何!?お前あの人疑ってんの!?」
「眼中にすらないっすわwww」
「…これで確定したな。お前狙われてるぞww」
「いやー…本当最悪」









早く、この場から立ち去りたい。
またあの女が戻ってくるかもしれないし。


さっさと外出届けを出し、学園を出た。














「そういやあアレ。先輩にはなんで媚びないんでしょうか」
「…知らね。オレと話してる時、あの人まともにオレの顔見てねえからな」
「ええー…それ人としてどうなんですか」
「ろくな教育受けてねえんだろ。まあ、お前のように付き纏われる方が嫌だ」
「…確かに」



あー…これでまだしばらく雷蔵の変装出来ない。



ていうか、あの女目腐ってんじゃないのか?
先輩に興味が無いなんて…。





「…ねえ先輩」
「ん?」

「…もしかして先輩、あの女がどこから来たか知ってるんじゃないですか?」


「……」






無言になる先輩、それって肯定の沈黙ですよね?




先輩が私達と再会した頃、話してくれた別の世界。
それも眉唾ものだったけど、先輩はこうして私達との記憶も持っているから信じられる。




「…ああ、そうだな。あの人も恐らくオレと同じように別世界から来た」

「…やっぱり。先輩と同じように生まれ変わってとか…?」
「オレもそこを考えた。けど、誰も心当たりが無いってのは妙だと思わないか?」
「…そうですよね」



「伊作に聞いたんだけど、あの人。"ここの事が書かれた書物があって”と言ってたらしい」


「は?…忍術学園のことが外部に漏れているってことですか!?」

「…わからん。でも一つ言えるのはオレとは違う世界から来たってことだ。オレの世界にはそんなもん無かった」

「…まあ、気違いっぽいしどこまで本当かわかりませんもんね」

「そういうことだ。だから関わらない方が一番の安全策だな」

先輩はそれで良いかもしれないけど私は…」

「そうだな。お前は狙われてるもんなwww多分あの人、三郎に心許してもらうまでずっと付き纏うぞ」

「勘弁!!!!」

「はっはっはー。そんな不憫な三郎君には心優しい先輩が餡蜜をおごってあげよう」

「葛餅もつけてください」

「調子に乗るな」