実習から明けて、学園に戻るとおかしな雰囲気。
一体何があったんだ?

すると勘右衛門が泣きそうな顔で走ってきて






「先輩が…!兵助が!!」





どういうこと?!
























僕達がいない間に現れた女。
それが来てから、先輩や兵助を筆頭に具合の悪くなった生徒が数人出たらしい。
その女が幻術をかけたか、毒を使ったのではと疑っている先輩もいるけれどまだはっきりした証拠が無いからなんとも言えないみたい。



問題は新野先生が診ても、体調不良の原因が判らないってこと。





「…ううむ、外傷も無ければ内的要因も見つからない…。一体これはどういうことなんでしょう」




僕達は急いで兵助の所へ向かった。
その場所は何故か医務室ではなく、長屋の空き室。
そこには立花先輩や田村、浦風が一緒に横になっていた。







「兵助!!!」

「雷蔵、三郎、八…おかえり」

「先輩!!…どうしたんですか?兵助もですけど…先輩も顔色が悪いじゃないですか」



三郎が先輩に駆け寄る。
先輩は横にはなっていないけれど、壁に体を預けしんどそうにしている。





「オレはまだいい方だ…。けれどこの四人は昨日の朝からずっとこの状態…。原因がわからないんだ」
「そんな…」

勘右衛門が心配そうに兵助の顔を覗き込む。
兵助は息を荒くして、辛そうだ。






「どうして医務室にいないんですか?!」

ハチの言葉に新野先生が苦笑いを浮かべる。
先輩も頭を抱えた。





「…ここじゃないと他の生徒の目にも触れますからね。流石にこんなに大勢が寝込んでいると医務室に混乱を招きますから」

新野先生の言葉はもっともだったけど何か含まれているような…




「新野先生、これだけ先生が診ても病気の要因が見つからないってことは別の原因ってありえますか?」

「…と、言いますと」

「…術的な…。もしくは霊的なものとか?」





先輩の言葉に全員が目を見開いた。

先生はその言葉に首は降らなかった、縦にも横にも。






「…金楽寺の和尚様の所へ行ってみますか?」


そんな時出た、三郎の提案。

確かに、霊的なものなら確かに和尚様が気づける筈。






「…そうですね。ここでこうしていても状況は変わらないでしょうし」


「ならオレが行きます」


「先輩!?」







「勿論、皆にも同行してほしい。ただオレが行けば状況説明しやすいと思うんだ」





…確かに。
実習から戻ったばかりで状況が掴めていない僕達より先輩の方が現状を把握しているわけだし…
けれど先輩だって体調が思わしくないのに…







「…大丈夫。オレは仙蔵達程状態が進んでないんだ。だけど、頼りにしてるぞ、皆」



そう言われてしまえば反対することが出来ない。

















結局、僕と三郎で先輩と一緒に金楽寺へ行くことになった。

先輩が歩けるか心配だったけど、学園を出てから少しすると先輩の顔色が良くなってきた。






「…先輩」
「ああ…さっきより楽だ。痛みも少なくなってきたし」




どういうこと?
学園から距離を置けば置くほど先輩の顔色がどんどん明るくなっていく。






「…おいおい、嘘みたいに体が軽いぞ」
「…となると、やっぱり学園に理由がありそうだな」





道中、学園に起こったことを先輩から教えてもらった。







三郎の表情がどんどん険しくなっていく。
…かくいう僕も気分が悪かった。



先輩がそれ程までに嫌悪感を出すような相手を僕らは知らない。
それで余計に僕らも気分が悪くなった。




「…気をつけろよ。三郎も雷蔵も」
「大丈夫ですよ、僕達で兵助のサポートします」
「頼むよ」











ようやくたどり着いた金楽寺。
そこで出迎えてくれた和尚様は先輩を見て表情を変えた。




「お前さん!!どうしたんじゃ!」
「へ?」

「何やらお前さんの周りに黒い靄が渦巻いておるぞ。…薄いようじゃが体に不調は無いのか?」

「学園にいるときは胸の辺りが痛みましたけど…今は大分楽です」

「…ということは学園にその黒い靄の原因がいるということじゃの」





僕達には見えないけれど和尚様は本堂へ先輩を連れていくとお経を唱え始めた。

先輩の表情が段々安らかになっていく。




「…どうじゃ?」
「…楽です。痛みが全然ありません」



ということは先輩から黒い靄がとれたと言うことだ。





「和尚様!学園にはまだまだ先輩と同じように原因不明の病におかされた者達がいます」

「昨日…学園に見知らぬ格好をした女人が現れたそうです。それと同時にその生徒達も体調を崩しました」



「…この黒い靄は陰の気に満ちておる。その生徒達は人一倍敏感に感じ取ってしまったんじゃな」

「陰の気…?それは普通の人間から発せられるモノなのですか?」




先輩の質問に和尚様は首を横に振る。




「余程恨み辛みを抱えた生霊か…亡者の怨念と同等の陰の気じゃ。常人には出せぬ」

「そんなっ…じゃああの女は一体何者なんだ!!」

「取り敢えずは仙蔵達が先だ。和尚様、学園の生徒達はどうしたら良いですか?!」

「裏々山の奥深くに霊水の流れる洞窟がある。そこへ行き、霊水を汲むんじゃ。その霊水に塩をひとつまみ入れて飲むことでひとまず浄化される」

「再び靄に犯されることはありますか?」

「靄が濃くなれば霊感の無い者達も毒されてしまう。大元を絶つことが先決じゃ」

「……なるほど」









和尚様にお礼を言い、今から裏々山へ行くことにした。

今後の事を考え、大量に持って帰った方がいいだろうと桶を持てるだけ貸して頂いた。






裏々山の奥、茂みを抜け、道なき道をゆくと小さな洞窟があった。
中へ入ると外とは気温が違い、ひんやりとした空気が流れる。





その一番奥で何かキラキラ光るものが見えた。





「…こんな所があったなんてな」
「でも確かに透き通った水…。綺麗すぎて逆に怖い感じもしますけど」




岩の隙間から入る光を水面が反射し、とても幻想的な雰囲気。
地下から沸き上がる霊水はけして大きくはないけれど、風呂桶程度の深さがあり水もたっぷりと溜まっていた。





「…念の為手でも合わせておこうか」
「そうですね。貴重な霊水をいただくわけですし」
「よし。…少しいただきます……こんなもんかな」









各自両手に桶を抱え、こぼさないよう山道をくだる。
学園に近づいていくけれど、もう先輩は何事もないかのようにケロッとしている。




「先輩、もう平気なんですか?」
「ああ。和尚様のおかげで今はなんともない」
「良かった…。本当に良かった」



三郎が嬉しそうに笑った。

早く、兵助達も元気にしてあげたい。

















「仙蔵!藤内!三木ヱ門!」

「「兵助!!」」



学園に戻った僕達は、急いで湯のみに霊水を汲み塩を入れて四人の元へと持っていった。
ゆっくりと水を飲んだ四人はみるみる顔色が良くなり、容態が安定した。





「……。私は…」
「仙蔵、どうだ?調子は楽になったか?」
「…ああ。さっきまでの気分が嘘のようだ」





この様子から、やはり四人も黒い靄によって体調が崩れたのだと確信出来た。






「新野先生、金楽寺の和尚様によればこの病の正体は陰の気によるものだそうです」
「…なんですって?…それでは他にも調子が悪くなった子がいるかもしれませんね」

「そこで、和尚様がこんなことを言ってました」










『陰に対抗するのは陽の気じゃ。陰の気に惹かれやすい者は陽の気を持つ者と共にいることで不変を保てるじゃろう』





「…成程。では、なるべくこの生徒達は一人でいないこと。一年ろ組の生徒は特に他のクラスの子と行動を共にした方が良いですね」

「ああ…斜堂先生とか大丈夫かな」

「私は他にも体調を崩した子がいないか調べてきます。君、鉢屋君、不破君ここはお願いしますよ」

「「「はい」」」