ああ、ごめん
ごめんなさい
君は勝手なことをするなと怒鳴るかもしれないけれど
僕は君を守りたくて
なのにどうして思うようにいかないんだ
自分の不甲斐なさに涙が出てくるよ
僕はお使いから帰る途中、道にしゃがみこんだ女の子を見つけた。
その子の格好は変わっていて、どう見ても普通じゃなかった。
だって、僕と目が合った瞬間
“貴方…もしかして善法寺伊作?”
って言ったんだ。
なんで僕の名を知っているのか
僕は勿論この人を知らないのに
冷静を装って聞いてみた。
“どこかでお会いしましたっけ…?”
そうしたら彼女…こう言ったんだ。
“あ…あの、信じてもらえないかもしれないけど実は貴方の事が書いてある本があって…”
まさか、どこかの城のくのいち!?!?
いや…くのいちならもっと上手く相手の懐に入り込むか。
しかし次の言葉で僕は冷や汗が流れた。
“えっと…忍術学園に行くのよね…?私も連れていってもらえない?”
忍術学園の存在を知っている…!!?
いけない…この人を放っておいたらダメだ…。
どこまで情報を掴んでいるか知らないけど…危険すぎる。
ここで野放しにする方が危ないと思い、仕方なく連れていくことに。
道中、聞いてもないことをペラペラと自分から話し始めた。
“伊作くんって不運なんでしょ?”
“穴によく落ちてるって本当?”
“あ、食満留三郎くんが同室なんだよね”
なんだ、この人!!!!!
ここで口封じをした方が良いんじゃないだろうか。
このままじゃ学園に災いをもたらすのでは…
そう思ったけど、という前例があるからには無下に扱えない。
もしかしたら彼女もこの時代の生まれ変わりなのかもしれないし…。
僕は重い足取りで学園へと向かった。
最初に学園長先生にお目通りをしたけれど、そこでも彼女の言葉は止まらなかった。
“私行くところが無いんです。出来たらここでお手伝いで雇ってもらえないでしょうか?”
“実は忍術学園を舞台とした書物があって…”
“私は別の世界から来たんです”
学園長先生も、天井裏に忍んでいた先生方も呆気にとられていた。
いきなり現れて、何を言ってるんだこの娘は
そう顔に書いてあった。
けれどやけに学園の内部について詳しすぎる為、“監視兼観察”という名目の下幾日か置いておくこととなった。
一番始めに見つけたのが僕だったことから、僕が観察役となったわけだけど…
“じゃあ僕着替えてくるからここで待っててくれるかな?”
“はい、わかりました”
取り敢えず医務室で待たせておき、扉に面会謝絶の札を貼る。
こうでもしないと、噂を聞きつけた後輩達が見に来てしまうから。
本当にすぐ戻ったのに
彼女はいなくなっていた。
気配を探れば、ある一点で僕ら忍とは違うものがそこにいた。
そしてそこは…
「!」
「伊作!…彼女は?」
そうの部屋だったんだ。
中には生気の無い顔をした仙蔵や久々知・浦風に田村がいて。
その間に何食わぬ顔で座った少女がいた。
「ごめん…その子が…」
「ああ…成程。少しは事情聞いてる。(学園長はなんて?)」
「(内情を知りすぎているから…監視の任を仰せつかっている)そっか…」
矢羽音で大事な所を伝える。
見ればの顔色も悪い。
どうしてこの五人だけ…?
「ね、ねえ伊作くん。皆具合悪そうだよ、診てあげて」
何を呑気なことを。
僕はつい、口から滑りそうになった。
でも先にが口を開いた。
「アンタ、人の部屋に勝手に入るなんてどういう教育受けてるんだ?そうじゃなくても、勝手に学園内を歩き回るな」
「な、なんで…」
「アンタの住んでいる所じゃ、家に他人が入ってきて勝手に歩き回るのか?そりゃ、物騒なところだな」
「わ、わたしはぁ」
「伊作、お前なんて言って出てきたんだ?」
「ぼ、僕は待っててって言ったんだけど…」
「言われたことも理解出来ないのか?何故、待たなかった?犬でも出来ることだぞ」
「…な、なんでそんなに言われなきゃいけないのよぉ」
「五月蝿い。とにかく病人がいるんだ。出て行け」
――――冷たい目。
がこんな目をするの見たこと無い。
「(伊作、悪いな。お前もしんどいだろうに)」
「……ううん、大丈夫」
が僕を気遣ってくれるなら、僕は大丈夫。
「さあ、君はこっちに来て。、四人をお願いしてもいい?新野先生には伝えとくよ」
「任せとけ。…早く行け」
の包み隠さない殺気が刺さる。
彼女は気圧されたのか何も言わずそそくさと部屋を出る。
部屋に入り、障子が閉められた途端彼女が口を開いた。
「…伊作くん今の誰!?なんであんな酷いこと言うの…?」
え…?酷いこと?
の言葉全く理解してないの?
「ねえ、君年いくつ?」
「へ?17だけど…」
「どこに脳みそ落としてきたの?」
「…い…伊作くん?」
「勝手に名前で呼ばないでくれるかな。僕、頭悪い人嫌いなんだ」
ああ、虫酸が走る。
取り敢えず彼女は学園の掃除係として置かれることになったけど…
あれには本当に吃驚した。
“食堂のおばちゃんの手伝いとかするよっ”
どこの誰かもわからない奴に、生活の要とも言える食事を握って欲しくない。
自分の立場を本当にわかってないのが腹立たしい。
「伊作、大丈夫か?」
暗くなった部屋に戻ると、まだ起きていた留さんから声をかけられる。
「留さん…。うん、大丈夫。だけど…留さん達も気を付けて」
「もってどういうことだよ」
「あの女…留さんの事…いや六年全員の名前を知ってるんだ。を除いて…ね」
「おいおいおいなんだそいつ。本気でどっかのくのいちじゃねえのか!?」
「…だとしたら余程無能か、すごい演技派かどっちかだね」
「だけ知らないってのは…奴がいない間に調べたのかもな」
「…はあの女をよく思ってない。それどころか、に仙蔵、久々知と田村に浦風があの女に近づくと体調を壊すんだ」
「な、なんだって…?!もしかして幻術師か毒使いなんじゃねえのか!?」
「確信は持てないけど…僕もそう思う。だから留さんも気を付けて、勿論後輩たちにも」
「ああ。一年はまだ疑う事をあまり知らねえからな…。あ、そうだ。さっきが来てこれをお前にって」
留さんから手渡されたのは小さな小袋と手紙。
袋の中は…飴…かな?
色とりどりのそれをひとつ掴み、口に入れてみるとやはり甘い味がした。
そして手紙を開けてみると
≪辛いなら無理をするな。オレ達を頼ってくれ。勿論伊作のことも頼りにしているからな≫
……
ありがとう
だけど、僕は決めたんだ
今度こそ、君を守るって