駆けつけてみれば昌浩の胸に刺さっている短剣。
これは彰子が懐に忍ばせていたものだ。



ということは刺したのは彰子ということになる。
だが彰子がそんなことをするわけがない。



様子のおかしかった鳥妖。





彰子はこいつらに操られたんだ。




















八鬼 かけがえのない貴方のために



















「昌浩っ!!!」

心の臓はかろうじて外れているが出血が酷い。
体もどんどん冷たくなっている。



間に合うか、分からないが移し身を試みる。










――ドクン―――







「…ッ!!!しまった…そろそろ時間が…」




自分がこの姿でいられる時間も限界だったようだ。
まだだ、今戻ってしまえば移し身が使えない。

しかも自分は先程移し身で昌浩の傷を負ったばかり。
全て移すことは出来ない。





「…死なせねえ…っぞ…」





残った力で傷を移す。
その瞬間迫りくる痛み。






「ッ…限界か…。すまねえ…まさひ…ろ…」





青年の体が光り出し、光がやんだ時には其処には青年の姿は無くなっていた。

あるのは―――――見慣れた子どもの姿。












騰蛇は目の前の光景に頭が混乱しそうだった。


崩れ落ちた青年が見慣れた子どもへと姿を変え、昌浩と同じ様に血を流し倒れている。




「…昌浩?……?…何故…が……昌浩…」



目の前の出来事に頭がついてかない騰蛇。
ただ瞳に映るのは倒れている昌浩との姿だけ。














ナゼ、フタリガタオレテイル?!

ドウシテチヲナガシテイル?












力が――――抑え切れない。












騰蛇の頭の金冠が音を立てて割れた。



















晴明が本宮に辿り着けば其処は炎舞い上がる地と化していた。
幸い貴船の結界が炎をこれ以上広がらせぬよう抑えてはいるが、金冠の取れた騰蛇の力は凄まじかった。



「紅蓮…」




過去にも似たような情景があった。



騰蛇の炎に包まれる晴明。

同じ火将である朱雀によって助けられたが晴明は何日も死の境を彷徨った。

それでも、晴明は騰蛇を責めなかった。




それ以来、騰蛇は晴明に己の力を封じてもらった。
二度とこのようなことの起きぬよう……。











しかし、昌浩そしてが傷付き倒れている姿を見て感情が高ぶり封印の金冠が外れてしまった。
このままではまた荒れ狂う騰蛇の炎で全てが燃えてしまう。




神将達は騰蛇の力の恐ろしさを改めて知った気がした。
十二神将の中で凶将と謳われた火将・騰蛇。
今までこれほどの力を抑え込んでいたのだから。














「…っ……」



ぴくりと昌浩の瞼が動いた。
目を開けば燃え上がる炎の中に騰蛇の姿がある。




――ああ、自分が止めなければ――




痛む体から短剣を抜き、その傷口を隠すように押さえる。




「…ぐれ…ぐれ…ん…紅蓮…」


不思議と痛みは感じない。だが酷く寒い。
燃え上がる炎の熱など感じないほど―――。




それでも何度も、紅蓮と名を呼びながら昌浩は胸元にあった伽羅の香袋を取り出す。
破邪退魔の香、伽羅―――香りを辺りに振り撒く。




声よ、届けと祈りながら。





















やはり、呪われた身には出過ぎた真似だったか―――。


完全な自分では全てを移すことが出来ず、結果昌浩の苦しみも取り除けず自分も地に伏している。





最悪だ。





守らなければならない人を守れてない。







力の入らない体に鞭を打ち起き上がる。
辺りには伽羅の香りが漂う。これは昌浩の香袋だ。




今、昌浩は騰蛇に必死に呼びかけている。

なのに守護役の自分が寝ているなんて有り得ない。









「…チクショウ…がっ!!!」








今だけで良い、動けオレの体。









炎の中飛び込み、騰蛇の体に飛びつく。
その瞬間炎の激しさが増したが、手を離すことはしなかった。










「…バカやろ……めぇ…さませ!!!昌浩は…そこにいるだろうが…!お前をよんでるだろうが…!!!!





































騰蛇は暗闇の中にいた。


此処は酷く寒い、他には誰もいない、だがそれでいい。
誰もいなけれは傷つけることもない――――。

俺の炎は全てを傷つける。
だが此処にいればもうそれもない。



此処にいれば――――…






ふと鼻をくすぐる香り――伽羅の香だ。

そして感じる温もり―――…




「あ、いたいた。何してんの、もっくん」
「なにやってんだよ、こんなくらいところで」



誰もいないはずの空間に見知った子どもが二人。



「もっくん…?」

訝しげに尋ね返せば昌浩にそうだよ、と微笑み返された。
いつの間にか自分の姿は神将ではなく、白い物の怪になっていた。



ひょいと抱き上げられ優しく背を撫でられる。



「此処は寒いね、早く帰ろうよ」
「帰るって何処に……」
「やしきにきまってんだろ。へんなもっくん」



何故、そうも自分を受け入れる?
俺は恐ろしい存在と言われてきた凶将・騰蛇なのに。

目の前の子どもは自分を恐れもしなければ、一緒で当たり前と受け止める。





「何変な顔してるの?痛いなら痛いって言えばいいのに」
「かかえこむひつようないよ。きいてあげるからさ」










―――だから、帰ろう?―――――