あれは…炎の向こうにいた奴…?






間違い無い、あの髪にあの声…確かに覚えている。






何故アイツが此処に…































七鬼 大切な人























思い切り横に薙ぎ払われた刀は鳥妖に寸でのところで交わされた。

だが、思わぬ伏兵に鳥妖それから神将達も驚きを隠せない。



「ちょおっと調子に乗りすぎたんじゃねえの?化け鳥さんよぉ」
「お前は…誰だ!」
「“誰だ?”てめえに名乗る義理はねえよ。…死に行く者に名乗っても無意味だろ?」



再び刀を鳥妖に振るう。
猛攻に耐えられなくなった妖は高く飛び上がった。
青年は舌打ちをすると地に降りた。




「めんどくせえ…やっぱあの羽斬って落とすか」



再び地を蹴り飛び上がる。
人間離れした動きに神将達は魅入ってしまっていた。




「だ…誰だあれ…」
「もの凄い身のこなし…」



朱雀と天后が呟く中、一人騰蛇だけだ眉間に皺を寄せていた。




『あの動き……まるで一緒だ………。まさか…』



脳裏に浮かぶ子どもと目の前の青年の姿が被る。
だがあの子はまだ五歳、どう見ても目の前にいる青年は自分たちと同じくらいの外見だ。




だが、彼は言っていた。




『昌浩に…騰蛇に…何してくれてんだぁ?』





「お前は……」














「ちょこまかうぜーっつうの。…
響け、紫の風!我の声届いたなら、敵を貫く光の剣となれ“紫刃電舞”!!!







激しく轟く雷光が鳥妖へと目掛けて落ちる。
流石に雷はかわせず、鳥妖は地に落とされた。





「…そうか、この霊力…。やはり…主様への贄に相応しい」
「喧しい。よくもわざわざ山の端っこに置いてくれたな。ご丁寧に大量の見張りまで付けやがって」






「フフフ……」



「何笑って……っ昌浩!!!



鳥妖は最後の力を振り絞ってか、自身に宿る妖気の塊を全て昌浩へ向けた。

騰蛇は昌浩を守ろうと体を強張らせたが、昌浩自身がそれを止めた。





「…昌浩、何を…」



「…よ…自在を…えたるものよ、輝ける…ものよ…」


意識の無い瞳、ただ神呪を紡ぐ唇。


「…あまねき諸仏に帰依したてまつる、―除災の、星宿に」



先程とは打って変わって高まる神気。
青龍は最後の足掻きだと思っていたが、昌浩の身に纏う神気の強大さに気がついた。



「東方降三世夜叉明王、西方大威徳夜叉明王、南方軍多利夜叉明王、北方金剛夜叉明王。圧伏せよ!清めたまえ、摧破したまえ!
呪縛の鎖を打ち砕き、出でよ…―――高淤加美神!!




封じられていた神気が一点に集中し、鳥妖の妖気ごと妖達を一掃した。



























呆然と立っていた昌浩だが、またフラリと体を傾ける。
勿論倒れる前に騰蛇が受け止めた。


「見たか、青龍。これが晴明がただ一人認めた後継―――その才能の一端だ!」



青龍だけでなく、他の神将たちまでもが言葉を失っていた。




気を失った昌浩を起こそうとする騰蛇に制止の手が降りた。
それはあの青年だった。



「お前…」
「少し待ってろ」




青年は右手を昌浩の心臓の位置に当てると気を集中した。





青白い光が青年の体から発せられ、昌浩の体についた傷が消えた。
そして再び昌浩の瞼が開いた。





「…昌浩!」
「…俺…あれ…?痛くない…体が軽い…」
「ああコイツが…」


騰蛇の言葉を遮り青年は彰子の方を指差した。


「早く、彰子姫を助けに行かなきゃだろ?」
「…そうだ!彰子…!!」




昌浩が呆然と立ち尽くしたままの青龍の横を駆け抜け、彰子の元へと走り寄る。
その姿を見届けてから、青年は膝をついた。




「…お前、その傷!!!」
「黙れ、昌浩に聞こえる」



青年の体は先程までの昌浩と同じ様に傷付いていた。

昌浩の傷を自身に移したのだ。





「…やっぱりその力……お前“一族”だったんだな」
「ああ。我ら一族は主を守る為ならどんな力も使える。ただし対価がいるだけだ」




立ち上がり、刀を構える青年。

騰蛇もまた、刺さるような殺気を感じ取った。



「結界張れるか…?もう一戦残ってるようだからな」
「ああ…勿論。昌浩には髪の毛一筋とて触れさせない」
「上等。じゃあもうひと頑張り行きますか」








鳥妖の片割れがやられたことにもう片方が怒りを露に飛び掛ってくる。
勿論神将達は昌浩と彰子に害が及ばぬよう己の力で鳥妖と闘う。





























そんな中、青年はふと違和感を感じていた。













おかしい。





鳥妖は先程から怒りで我を忘れたようにしているが時折昌浩の方を見てにやりと笑みを浮かべる。








まるで―――――……………!!!?









「しまった!!!!」








言うやいなや昌浩に駆け寄ろうと走り出す青年。
神将達も何事かとそちらに目線を向ける。


















鶚に炎蛇を一突きし、そのまま横に薙いで両断する。

「口ほどにも無いな――」

冷たく見下ろす騰蛇に、鶚は笑みを浮かべて嘴を動かした。




「……よくやったぞ…娘―――」








その言葉に騰蛇が昌浩に目をやった時だった。






昌浩の体が、ぐらりと傾いたのは―――――――…
















「愚かなり…傀儡と化した…娘にも気づかぬとは…」


その言葉を最後に鶚は絶命した。














駆け寄る青年の姿を見送りながら、騰蛇は動けないでいた。