とてつもなく、気分が悪い。
守護役でありながら主の目の前でヘマはするし、妖怪には捕まるし。
…最悪だ。
六鬼 真の力
ふと気がつけば、自分の周りを大量の異形の妖が囲んでいた。
どうやらオレを食べたいようだがあの二匹に止められて手が出せないと言った状況だろう。
「彰子は…」
自分と一緒に攫われたはずなのに、傍には彰子どころかあの二匹の鳥妖すらいない。
現在地は…山のどっか???
「ここ…貴船?でもそれならここにはあの神がいるはずなのに…」
異形の妖達をのさばらせておくほどあの神は弱くはないはずだ。
もしかして、窮奇によって封じられているのか?
それなら色々と納得がいく。
神がいなければ此処は傷を癒すにうってつけの場所となる。
のんびりとしてる暇はない。
オレの周りも妖怪達は今にも襲い掛かってきそうだ。
彰子のことも気になるし……
「オレが喰いたきゃ、かかってきな」
本気をちょっとだけ出そうかな。
「やれやれ…女の執念とは悲しいものだな…」
晴明は昌浩と代わり圭子と対峙していた。
無事圭子の生霊を本体へと送り、少々の記憶操作を施しておいた。これ以上彼女が苦しまない為に。
ようやくのことで本宮に向かうことが出来る。
先に行かせた昌浩や十二神将達、彰子のことがずっと気がかりだった為足を急がせる。
本宮では十二神将達が妖怪達と戦いながら賢明に彰子を救出しようとしていた。
そこに合流した昌浩と騰蛇も戦いに参加しようとしたのだが、目の前に横たわる彰子の姿を見て昌浩は目の前が暗くなった気がした。
「彰子!!」
「落ちつけ!昌浩!」
「彰子姫はまだ生きている。そんなこともわからないのか」
自分を抑える騰蛇を払おうとした瞬間青龍の言葉に力を緩める。
まだ生きている――――。その言葉が唯一の救いだった。
「そうだ童…だがそれも時間の問題よ」
「…おい、は何処だ?」
門の上で嘲笑しながら昌浩を射抜く視線で見てくる鳥妖に騰蛇は低い声で尋ねた。
此処に彰子がいるなら、何故がいない――――?
昌浩は折角緩めた体をまた強張らせた。
「まさかっ…を……」
「フン、守護役と言っていたくせに役に立たぬ子供だ」
「…青龍!!」
青龍に非難の視線をぶつける朱雀や天后、しかし青龍はそれを黙殺する。
昌浩と騰蛇は鳥妖の次の言葉を待った。
「さあて、今頃どうなっておるかな。見張りには喰うなと言ってあるが…奴等が極上の餌を目の前にして我慢出来るわけないからな」
「…ッ……貴様ぁぁぁ!!!!!」
ああ、これが怒りか。
もう体は傷だらけなのに、精神も使い果たしたのに、まだ力が出る。
哀しみや怒りが混じり、己の体を突き動かす。
昌浩は鳥妖を見据え、刀印を結ぶ。
「ナウマクサンマンダボダナン、ギャランケイシンバリヤハラハタジュチラマヤソワカ!オンナウキシャタラニシダエイ、イダテイタモコテイタ…
ナウマクサンマンダボダナン、ナンドハナウンドソワカ!!」
霊気が竜巻となり、苛烈な水気の塊が地中から巻き上がって鳥妖へと向かっていく。
「なに…?!」
鳥妖の目が驚愕の色を映す。この山の本来持つ神通力だ、それはとてつもなく強大なもの。
――――――が。
「今、少し及ばぬな」
両翼を広げ、激しい妖気の塊を竜巻に叩きつけ神気の力をそのまま昌浩に跳ね返した。
昌浩はその力をそのままその身に受け吹き飛ばされる。
騰蛇が咄嗟に昌浩を受け止めたが、そのまま飛ばされ杉の木に叩きつけられる羽目になった。
騰蛇も重傷だが、昌浩も神気の塊を直に喰らったのだ。目を閉じて動かない。
「昌浩っ!昌浩!」
騰蛇が頬を軽く叩いて呼びかければ反応が返ってきた。
それに安堵したが、あまり状況は良くない。
「…やはり口だけか」
青龍は昌浩と騰蛇から視線を外した。―――非力な者に用は無い。
鳥妖がもう遊び飽きた、と言わんばかりに神将達を見下ろした。
「そろそろ終いにしようではないか―――…」
再び両翼を広げた
その時だった。
「何やってんだよ…このクソ鳥が」
鳥妖の背後に現れた影は、よく通る声で静かに呟いた。
「昌浩に…騰蛇に…何してくれてんだぁ?」