もうすぐ、時が満ちる。



















五鬼 命、とする子供



















「昌浩、こんなにたくさんつれてあるいていいのか?めだつぞ」


そう、今昌浩達の周りには雑鬼達が沢山いるのだ。
別に悪さをしに出てきたわけではないが、彼らは姿を堂々と人間に曝け出している。
こんな所を見られたら都中の一大事になってしまう。



「駄目だね…仕方無い。三条大路まで足を伸ばそう」



迂回していくしかないのだ。













三条大路に差し掛かった辺りから誰かがつけている気配がした。
三人共それには気づいているようで、少し早足になり角を曲がった所の手近な小路に入った。

息を潜めて待っていると足音が止んだ。

どうやら昌浩達を見失った事で戸惑っているようだ。









その時風が覚えのある香りを運んできた。






「あ」
「……彰子!?」


「あ、昌浩。そんなところにいたのね」







影の正体は藤原彰子。
なんとまあこの暗闇の中、昌浩の後をつけていたのだ。













「そんな所で何やってるんだ!!共もつけずに一人で出歩いて!!夜盗に会ったら命なんか無いんだぞ!?」
「…ごめんなさい。でもどうしても圭子様が心配で…。そうしたら昌浩が圭子様の所に行くって言うから待ってれば通るかなって思って」





行動力のある姫だ――物の怪とはそう思ったが、昌浩はそれどころでないようだ。
早く邸に戻れと説得するも、彰子も中々折れない。





「駄目ったら駄目だ!彰子がいたら足手まといだ。彰子は妖怪が見えるだけなんだぞ?襲われたって自分の身ひとつ守れない!違うか?」
「…違わ…ない」
「だったら…っだ!!何するんだ、もっくん!」



止まらない昌浩の怒号は物の怪による飛び蹴りで中断された。




「昌浩、言いすぎ」


彰子の目には光る涙。
それでも流さないようじっと堪えている。















「…」


はその場から少し離れた。




は苦手なのだ、女性の泣き顔というものが。

彰子から距離を置こうと足を一歩下げた瞬間、とても冷たい感覚に襲われた。








「!!…この…けはい…
昌浩、騰蛇!!


「「?!」」




数秒遅れてようやく気配を感じ取った二人。



黒い影と共に舞い降りてくるは圭子。
そして大きな翼を持った妖怪―――窮奇の眷属。





「まあ彰子様…迎えに行くと言ったのにこんな所まで…」
「さあ童、その娘を渡せ」



怯える彰子を背にやり、昌浩は強い視線を向ける。




「?」



「彰子を守って」
「…おれは昌浩の」
「俺は大丈夫…お願い…」
「……」



は何も言わず彰子の傍に立つ。





「フン…無駄な抵抗だな。我が主がご所望の娘、なんとしても渡してもらうぞ」
「さあ…こちらへいらっしゃい…」
「どけぇ!!童」



「ナウマクサンマンダバザラダン、センダマカロシャダソハタヤウンタラタカン、マン!!」
透明な壁を作り、鳥妖を阻む。
物の怪も灼熱の風を巻き起こし、本来の姿に戻る。










「…昌浩…」
「じっとして。彰子はおれがまもる」


二体の鳥妖は昌浩と騰蛇が惹きつけているが、の目の前には圭子がいた。



「さあ…彰子姫…こちらへ」
「圭子様…」
「そうはいかない!!」


「邪魔はさせないわ!」



圭子の黒髪がに襲い掛かる。それを全て刀で薙ぎ払う。




「うわあああ!!」


途端、昌浩の悲鳴が聞こえの集中力はそっちにそがれた。
昌浩の方を見やると先程まで相手をしていた鳥妖がいない。



「何処に…」

「きゃあああっ!!」




悲鳴の先には捕らえられている彰子の姿。

鳥妖の姿を捜していたせいで圭子から注意が逸れてしまったのだ。




「彰子!!彰子を放せ!!」
「黙れ!」


衝撃波が昌浩の体を軽々と吹っ飛ばす。
はそれに気づくと急いで昌浩の所へ走り自分の体を昌浩と地面の間に滑り込ませた。



「昌浩っ!!!!」
「お前もだ!」


騰蛇の背中に鳥妖の鋭い爪が食い込み、地に伏した騰蛇の横顔を鳥妖が踏みつける。







「我らが主の手を煩わせるまでもない…、今この場で嬲り殺してくれようぞ」

昌浩を踏みつけ、鳥妖の嘴が昌浩の目に向かっていく。








「昌浩!!」











しかし寸前で嘴は止まった。


「…っく…これは…」


鳥妖は目を見開くと、昌浩から距離を開けた。
その瞬間が斬り付けるがそれは難なく交わされてしまった。


どうやら昌浩の持っていた伽羅の香により弾かれたようだ。
伽羅は破邪の香、これのお陰で昌浩は命拾いした。









「小童が…我を斬ろうなどと……ん?お前…」
「…っ…」
「そうか…なるほどな。貴様も贄の資格があるということか」




鳥妖は足で昌浩を蹴飛ばすとの体を掴んだ。


「…っ!!」



「この者も、素晴らしい霊力を秘めておるようだな。これは主にいい土産が出来た」

「…はなしやがれ…」

「ほう…口の聞き方だけは達者なようだ…」

素早くの首に圭子の髪が絡みつく。






「…っあ!」






!」




印を結ぶ昌浩に鳥妖の風の刃が襲い掛かる。
騰蛇により直撃は免れたが砂塵が舞い上がり、その隙に圭子も鳥妖も闇に紛れて消えていった。








「…嘘だろ…彰子……」
「………」