「えっと…取り敢えず…自己紹介でもしてみる?もっくん」
「なんで俺に聞くんだよ…。それに自己紹介ならさっき晴明のとこでしただろ」



戸惑う二人を他所には涼しい顔をしていた。













二鬼 守護



















「大体俺は子供は苦手なんだよ」
「ずるい!!もっくん逃げる気だな!」
「なんでそうなる!大体あれが守護役なんて話がまずな!!」







「しんよう、してない?」








はた、と固まる二人。

どうもの笑顔を見ると、何も言えなくなる。

そもそも出会ってからずっと笑顔なのだが本心で笑っているようには見えないのだ。




「い、いやあそういうわけじゃあないんだけど…」
「いいよ。みんなそういうから。なれてる」



どうにも昌浩の方が年上だと言うのにの方が落ち着いて見えるのはどうしてなのだろうか?




「しゅごやくっていうのはおんみょうじをまもるためにうまれ、いきるんだ。おれもそう、昌浩さまをまもるためにうまれた」
「…い、いいよ“昌浩様”なんて呼ばなくても。昌浩で良いって」
「そうそう、まだ見習い半人前陰陽師の分際で“様付け”されることないもんなあ」
「〜〜〜もっくん!!!」










「ところで、そのあやかしはなに??」

は物の怪―騰蛇―を指して言った。





「(…守護役ともなれば見鬼の才は当然あるってことか…)これはね、もっくんだよ」
「くおらぁ!!俺は“もっくん”じゃない!!!そんで妖と一緒にするな!」
「ではどうやってよべばいい?」





「……」




まさかここで“十二神将・騰蛇”だと言えるわけもなく、無言になる。


「もっくんでいいよ」
苦笑を浮かべた昌浩の言葉に頷く








「守護役って具体的にはどんなことするの?俺全然知らないんだ」
「いろいろなものからおんみょうじをまもるの」
「…へ、へえ(いろいろって…また抽象的な…)」




物の怪は少し、眉間に皺を寄せて呟いた。



「おい、お前みたいな子供が何故もう守護役につく?いくら力があるとは言え、“守護役”だぞ?」




「もっくん、知ってるの?」

「…かつて、晴明にもいたからな。守護役」




「それは、おれのじいさまだね。でもくちだしむようだよ。これがわれらいちぞくのさだめ、ってじいさまいってたし」





にこにこ笑ってはいるが、言葉には“余計な事を昌浩に言うな”と含まれていた。




































…なんなんだ、あの子供は。





“守護役”とは名前の通り、護る者。


それは本当に全てから陰陽師を護る。


それはけして軽いことではない。





それをあんな子供が担うなんて、晴明もあいつの一族もおかしいんじゃないか?













物の怪は屋根の上で一人、物思いに耽っていた。


物の怪は、今でこそ愛らしい小動物のような姿形をしているが本性は十二神将の中でも凶将と呼ばれた騰蛇。
本来の姿に戻るのは窮地に落ちた時だけ、と決めている。


もう二度と大切なものを傷つけない為に、晴明に頼んで特殊な金冠で力を抑えてもらい
本来の十分の一くらいしか力の出せない物の怪姿でいる。










皆、この騰蛇の気に押され子供は泣く。
だが、昌浩だけは騰蛇を見て笑ったのだ。
あの幼い子が自分を救ってくれた。














だが、今問題としているのは昌浩の守護役となったのこと。















―恐怖に満ちた眼で見られるのはもう沢山だ―






そんな想いで物の怪が居るとも知らず、屋根の上に来訪者が。









「…もっくん?」
「!!!」








屋根の上だと言うのに、其処には小さな子供―だ―。





「…っ」




丁度の事を考えていたせいか、上手く対応が出来ない。







真っ直ぐに自分を見てくる
その視線から逃れたいのに、離せない自分もいる。









その間にも一歩一歩と近づいてくる
それに対し、物の怪は固まったまま動けない。








手を伸ばせば届く、という距離にが着いた時突風が吹いた。






「!!!」
「あ」






小さな体は平衡感覚を失い、重力にしたがって――――…






!!!」

















気がつけば、手を伸ばし小さな体を抱きこんでいる自分が居た。

物の怪の姿ではこの子供を助ける事が出来なかったとは言え、自分の姿をに見せてしまった。




「…っ…大丈夫…か?」
「うん。これくらいのたかさならべつにへいきだけど…ありがと…あなたは騰蛇?」
「…ああ」


怯えたり、震えたりとそういう様子を全く見せない


凶将・騰蛇と言われた自分を見ても、屋根から落ちそうになってもは表情を強張らせない。





「騰蛇はやさしいね」
「俺が…?何言って…」
「ううん。やさしいよ、だからそんななきそうなかおすんなって?」




小さな手が騰蛇の頬に触れる。
温かくて、とても柔らかい手。





「あれ?どうしたの?おれへんなこといった?」
「…いいや、別に」
「くるしいよー?そんなにぎゅーってしたら」

棒読みで言っている辺り、そんなに苦しいわけではないだろう。








また、一つ救われた気がした。

穢れた俺を、光の世界へと導いてくれる存在が昌浩以外にもいたなんて。






「しかたねーな。おれがむねかしてやるからないてもいいぞ?」
「ばーか、泣かねえよ…」










次の朝、寝床にいないもっくんを捜していた昌浩がと一緒になって廊下で眠っているもっくんを見つけたのはまた後の話。