「あー!!ムカつく!!大体昌浩!お前が怒るところだぞ!」
「…もっくんが怒ったから俺はもういいよ」
自分が我慢しきれず、敏次殿の頭蹴飛ばしたくせに…。
今度は俺に矛先変えないでよ。
第十九鬼 赤と紅
さっき、廊下で陰陽生の藤原敏次殿に思いっきり嫌味言われたんだけどね。
直丁の俺が何か言い返せるわけも無く、貼り付けた笑顔で適当に相手して去ろうとしたら、
なんとまあ、もっくんの見事な回し蹴りが敏次殿に当たったんだ。
それを見てもうおかしくってさ
蹴った本人は俺より怒ってるし、蹴り飛ばされた敏次殿は何が起こったか全く解ってなかった。
急いでその場から離れた俺達だったけど、もっくんはまだ怒ってる。
自分が悪く言われたわけじゃないのにねえ。
「でも俺本当に腹が立ってないんだよ」
「…お前お人好しにも程があるぞ…。それにだってこれ聞いてたら抜刀しかねないぞ」
此処にがいなくて、アイツは助かったなともっくんは言う。
確かには俺のことを自分のように怒ってくれるから、いたら大事になってたかも。
でも、そんなことは多分一生無いと思う。
だって、は絶対陰陽寮の中に入らないんだ。
気配は近くにあるってもっくんは言うんだけど、俺の傍にいることはしない。
まあ陰陽師じゃないが入ってたら、なんか言われるのもあるけど。
「…だが、聞こえてはいると思うぞ」
六合の声が耳に届いた。
その呟きに俺ともっくんは六合の方を振り向く。
「アイツは昌浩の真上にいたからな」
俺達と敏次殿が会ったのは渡り廊下で、勿論外に面している。
すなわち、屋根の上にいるにも声は届いてしまうというわけで……。
「!!もっくんがいるかどうか見てきて!!」
「お、おう!!」
素早くもっくんが屋根上に飛び上がり、数秒後何やら奇声が聞こえた。
その後軽く屋根の上で暴れるような音がしたのは、気のせいだと思いたい。
「…もっくん、生きてるかなあ…」
「が本気でなければ、生きているだろう」
そんな薄情な会話をしていた俺達。
「…!!待て待て!!俺と違ってお前は姿が見えるんだぞ!?」
「だいじょぶ。見られる前に殺れ!!ってね」
「おいおいおいおい!!抜くな刀を!!しかもその笑顔でそんな怖いこと言うんじゃない!!」
「笑顔に見える?そっかー…。じゃあ大丈夫だよ、半殺しでやめられる☆」
「やめろぉぉぉぉぉ!!!」
……もっくん、ご苦労様。
家に帰ると彰子が出迎えてくれた。
本当なら顔も見ることが出来ない程、身分に差がある俺達なのに。
今やこうして毎日顔を合わせてるのが本当に不思議だ。
「おかえりなさい…あら?どうしてもっくんはこんなに疲れているの?それにも六合に抱えられてるし…」
「…気にするな、彰子。ちょっと一仕事終えただけだ」
あの後、どうにかこうにかを抑えて。
闇討ちに行きそうなを六合に捕まえてもらったんだよね…。
あれは大変だったなー…(遠い目)
「あ、そうそう!今日ね露樹様と一緒に市へ行ったの!それで路を覚えたから今度は一人で行って良いって」
嬉しそうに言う彰子。
だが俺は固まってしまった。
“一人で、市に”
その言葉が何度も繰り返される。
「ちょ、ちょちょちょ…ええ?!」
夕餉の支度を手伝いに行くから、と彰子は戸惑う俺を置いて奥へ行く。
何を考えてるんだ、母上!!
一人で市になんて行かせるわけにいかないじゃないか!!
「…昌浩…たいへんだねえ…」
「…ま、あんなに行動力のある姫は中々いないぞ。陰陽生にも見習わせてやりたいもんだ」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃ無いだろ――――!!」
彰子は姫なんだぞ?!そりゃあ今はウチで預かってるけど…。
絶対一人でなんて行かせられない!!
「彩W、今度ついてってあげなよ。不逞な輩がいないとも限らないし」
「…そうだな」
…!解ってくれるのはだけだよ!!
六合、頼んだ!!!!!