大量の出血、そして謎の心臓の痛み。
これらからは二日目を覚まさなかった。


その間に起こった出来事が一つだけある。


彰子の呪詛の肩代わりを昌浩がしていたことが騰蛇に露見したことだ。









「昌浩。すこしはなしておきたいことがあるんだけど」
「…え、何かな?」

















十五鬼 君のみは僕の痛み












「昌浩が彰子のみがわりをしてることはしってるよ」
「…も、無茶だって言いたいんだろ。解ってるよ、それでも「ちがう」…え?」



は自分の心の臓の辺りに軽く握り拳を当てた。


「昌浩の、いたみ…オレにもつたわってくるから」
「…?!なんで…」
「守護役と陰陽師のつながりっていうのかな…昌浩のくるしみはオレにもつたわるんだ」



そう言えば昌浩は急に顔色を青くした。



「ごめん…俺、を苦しめるなんて知らなくて…」
「いいよ、すこしでも昌浩のくるしみがすくなくなるなら」
「でも…!!」









「それが嫌なら、ひとつだけ解除する方法もあるんだ」


















これは、昌浩のためなんだから





















「俺と…の血を?」
「そうおたがいの血をかわすことでそのつながりを絶つことができる」





昌浩は考えた。

との繋がりを絶つことが出来れば、自分の苦しみがに行く事は無い。
それは喜ばしい事だ。


だが、がこんな提案をしてくる人物だったろうか?

彼の性格なら繋がりを絶つ方法など教えてくれるわけが無いのに。






それでも、の言うとおりにするしかなかった。









「指、すこしきるけど…大丈夫?」
「うん」




互いの人差し指に小刀を当て、軽く引く。
赤い一筋の線が入り、鮮やかな赤の液体が流れ落ちる。





「あとは血をなめればいい。昌浩、指かして」
「…っ」


が昌浩の指を軽く舐め、昌浩も同じ様にの指を舐める。
一瞬心臓が大きな鼓動を立てたが、それもすぐに治まった。


「これでいい」
「本当に…これで俺の呪詛がにいかなくなるの?」
「ああ。いざとなったらうつしみもできるし」













ごめんな、昌浩





こうでもしなければお前は受け入れてくれなかっただろう





騙すような形ですまないけど





契約を結んだ方がお前の為なんだ






























――広沢池。



神隠しが起こるようになって早二月。
季節は十月にさしかかろうとしていた。


相変らず人は消えるし、異邦の妖異の場所は特定出来ないし。





晴明様に聞いたが彰子が入内することが決まったそうだ。
昌浩に元気が無かったのはそれだろう。
気丈に振舞ってはいるが、本人は自分がどんな顔しているが気づいていないんだ。



――泣きそうなのに。








「昌浩、あまり水面に近寄るな」


「…?どうした、紅蓮」
「昌浩が先程から水際で突っ立ったまま動かない」





見れば何処かに意識を飛ばしているかのように立っている昌浩。
声をかけようかとすればいきなり叫んだので手が寸前で止まってしまった。



「…っ願い…」
「昌浩、どうしたんだ?汗びっしょりだぞ」



顔色も悪く、脂汗をかいている。

……何かいたのか…?!







「なんでもない」
「なんでもないって顔じゃないよ、なあ紅蓮」
「ああ、何があった?」


何を聞いても首を横に振り、なんでもないの一点張り。
その顔色でなんでもないと言うには無理がある。


だけどこれ以上追求できなかった。



けれど、何かがあったとだけは確実に解った。



















日も流れ、気づけば十月も終わりに近づこうとしていた。
そんな中、彰子の様子を見に行く事になった。



呪詛は昌浩に流れているから、彰子も少しずつ容態が良くなりようやく普通に話が出来るようになった。
けれど、御簾ごしに見える彼女は少し痩せたと思える。



昌浩は、彰子に距離を置くような態度をとるようになった。
恐らく、理由は彰子がもうすぐ入内するから。
身分がものを言うこの時代では、彰子はもうすぐ陰陽師風情では手の届かない所へ行ってしまう。






と物の怪は昌浩と彰子を二人にすることにした。
今の二人を見ているのは正直心苦しい。










「…なあ、
「なにさ」
「…身分ってのは…面倒くさいな」
「……そうだね」



丸くなる物の怪をはそっと撫でた。
物の怪もその手から何かを読み取ったのか、の思うようにやらせていた。



















日が落ち、動く影が安倍邸を抜け出した。




「…何処へ行く」


不機嫌をそのまま音声にしたような物言いに、影は立ち止まりその姿を目に留めた。


「青龍か。ほんとうにオレを目のかたきのように見るね」
「守護役が一人、こんな時に何処へ行く気だ」



影―――は、青龍の視線を受けても動じる様子を見せなかった。



「ちょいと貴船までな。神様の神気をかりないと今のオレじゃ力になれないし」
「何…?」
「少し遅れるかもしれないけど昌浩にはすぐ追いつくって言ってあるよ」



は身を翻し、走り出した。
青龍は眉根を寄せたまま、その背中を見送った。













「今回ばかりは最初から正体をばらす気でいかねーとな」