「…なあ、オレのけがはもうなおったんだけど」
「駄目だ、寝てろ」





前回の件以来、騰蛇が過保護(笑)です。





















閑話 暖かなの葉にのせて
















「あのさぁ、オレはしゅごやくなのよ。わかる?」
「それでも完全じゃなければ昌浩を守れないだろう」
「だからかんぜんだってゆってるのに。ほら、もうきずひとつないでしょ?」
「いいから寝ろ。お前夜はあまり寝てないだろうが」




何を言っても聞き入れず自分を褥に押し込む騰蛇。
駄目だ、こりゃと諦めかけたその時だった。




「もっくん、見なかった――――?」



ガラリと昌浩が部屋の戸を開けたのだ。
その瞬間騰蛇に隙が生まれ、はしめたとばかりに逃げ出した。






「あ!!!」
「だからへいきだって!オレ晴明さまのとこにいってくる――!!!」




これ以上速く動けただろうか、と言うくらいの速度では駆け出した。






ここ三日ぐらい騰蛇の態度はあんな感じで、はいい加減うんざりしていた。















六合との会話の後、部屋に戻ってみれば彰子の姿は無く眠りについた昌浩の姿だけがあった。
物の怪はに気づくと青年の姿に身を転じ、の体の異常を調べた。


『…どしたの?オレもうだいじょうぶだけど』
『お前の大丈夫は当てにならん。痛む所や異常を感じる所は無いか?』
『だからないって…わぁ!』
『それでも体を休めろ、どうせ昌浩も眠っているし守護の必要も無い』



とこんな有様が三日続いた。









元々怪我などが治りの早いは最初に二日くらいで全て完治していた。
だが三日目は用心の為と言って休まされ、今日は念には念をと休養を強いられていたのだ。




















「有り得ねえ…。神将が守護役の心配してどうするんだよ…」


子供口調ではなく、大人びた喋り方で話す。これは一人の時、もしくは六合と居る時だけだ。
本来の彼の喋り方ではあるがこの事を知っているのは六合のみなので、他者の前では子供口調になるのだ。








気配を隠し、邸にある樹の上で一休みする。
実際寝かされていても始終騰蛇が見張っているので休んだ気がしなかった。






「あー…なんか、へんな気疲れしたぁ…」




うとうとと舟を漕ぎ出す。
葉の隙間から入ってくる光が丁度良い暖かさを与え、樹の上は最高の昼寝場所だ。








「…ちょっと…ひとやす…み…」




落ちてくる瞼に我慢できず、は眠りの世界へと旅立った。


















「…何してる」
「…んあ…ウゲ…!なんだ…彩Wか」


見つかったかと思った、とが安堵の息を漏らすと目下に白い物の怪の姿が見えた。
慌てて気配を隠そうと六合に静かにしろと目で合図する。




「…騰蛇…から逃げているのか?」
「…だってアイツ人のこと病人扱いするんだもん」













別に心配されるのが嫌なわけじゃない、ただあまり良い思い出が無いだけ――――――

















昔、母は自分の事を案じるあまり精神の病にかかってしまった。




目の届く所に自分がいないと発狂する。泣き喚き、暴れる。
そんな母を見るのは心が痛かった。









それなら、もう誰も自分のことなど気にかけてくれなければいいのにとも思った。





だが突き放せないのも過去の事から悟っている。














「オレは、きっと弱虫なんだ。強がって虚勢をはっていれば誰もオレの事で心を痛めない。そうあって欲しかった」


六合は無表情だったが、の頭に手を置くと優しく撫でた。





「好いている相手の身を案じない者など――いない」
「…好いている?」
「そうだ。相手を想うからこそ、その身を思う。お前が昌浩を思う心と同じだ」
「…オレが、昌浩を思う心…」











自分が認めた昌浩。
守る、と心に決めたからこそ命を賭けられる。




昌浩が倒れた時は血の気が引く想いだった。
お前の傷は全部オレが引き受けるから、目を開けてくれと縋る想いで―――…








「誰でも…誰かを心配せずにはいられないんだな」




「そうだ。騰蛇の気持ちが全て解らなくとも、ただ一言言ってやれ」





「…なんて?」




















夕暮れ時…中々帰ってこないに痺れを切らした物の怪は地団太を踏んでいた。


晴明の所にもいないし、屋根の上にもいない。

あのが昌浩を置いて何処かへ行くわけが無いからこの邸の何処かにいるのは明白だがそれでも姿が見つけられなかった。






捜索中偶々会った六合に“を見なかったか?”と尋ねれば無言の返事。
知らないのか、と立ち去ろうとしたら



『…あまり、過保護にするな。アイツはそういうのに慣れていないんだろう…』




と言った。








…何故六合がそんな知った風な事を言うのか俺には解らなかったが、少なくともとアイツの間に何かあったことは解った。








しばらくすると、風が馴染みのある匂いを運んできた。







「…よ」
!何処へ行っていた?!」
「ちょっとこころのせいりをね…。それより騰蛇」
「?」












「しんぱい、してくれてありがとう」











もう大丈夫だから、気にしないでと笑う
俺はそれを見て何も言えなくなっていた。






「…おう、もう平気ならいいんだ…」
「うん。はやく昌浩のとこにいこう。騰蛇」





裕が呼びかけても物の怪は動こうとしない。
何事かと思い抱き上げると物の怪は静かに呟いた。



「………紅蓮だ」






「ん?」










「紅蓮。晴明から貰った俺の名前だ」






不意に浮かんだ六合の台詞。
何故かアイツの方がの事を知ってると思うと胸がムカついて。






「紅蓮、いこう?」
「――ああ」










お前にはこの名で呼んで欲しい。