それはいつものように、昌浩と物の怪、それからに六合での夜警での出来事。






















桜色の

















「そっちに行ったぞ!!紅蓮!」
「解っている!…クソ!すばしこい奴め!!」



今晩の妖怪はとても動きが素早く、皆翻弄され苦戦していた。
見た目は獏という、あの夢を食べる動物に似ているのだがその体格に似合わぬ速度で走り回る。
別段攻撃が強いと言うわけではないが、逃げ回る所為で中々調伏出来ずにいた。







「彩W、ちょっと肩借りる」
「ああ」


は六合の肩に足場に高く飛び上がった。
そして妖怪の行く手に着地した。






「もうにがさねえぞ……。いっこくちかくもはしらせやがって…」

流石に全力疾走で走り続ければ誰だって肩で息をする。
はギロリと妖怪を睨みつけ、二刀を構えた。






『…グゥ…ただでは死なぬ…せめて…!!』
「!!」


先程まで逃げの一手だった妖怪が始めて攻撃の素振りを見せた。
対象は、騰蛇。




「フン、俺がお前如きにやられるわけないだろう」

騰蛇は炎の結界を張り、妖怪の攻撃を防ぐ。
しかしその瞬間、土煙が巻き上がり視界が悪くなる。



「!?しまった…!!紅蓮、彩W!昌浩を!!」
「「!!!」」




土煙が目に入ってしまい、一瞬妖怪から気がそがれた所為で妖怪を見失ってしまった。
気づけば妖怪は昌浩に一直線だ。
昌浩自身も煙で周りが見えていない。





「…っ
うわあぁぁぁぁ!!!
「「昌浩!!!」」






昌浩の悲鳴と、騰蛇との叫び声が響いた。
































「ほうほう、これはまた奇怪なことになってしまったのぅ」



希代の天才陰陽師、安倍晴明は目の前でぐったりしている自分の式二人と孫の守護役を見て呟いた。




「…晴明、面白がってないか?」
「いやいや、驚いておるよ。しかし妖怪は退治したのだろう?」
「ええ…そりゃあね」
「では直に元に戻る。幸い怨念や邪気の類は感じぬ。霊力を多少取られたのであろう」



「だからって…だからって…













昌浩がこんなにちっちゃくなっちゃうなんて………」






騰蛇の腕の中でけたけたと笑う幼子が一人。








そう、あの妖怪は攻撃対象を昌浩にしてその霊力を吸い取った。
急ぎ、騰蛇と六合で妖怪にトドメは刺したが既に事は遅し。
昌浩は霊力を取られすぎた反動か、幼くなってしまったのだ。







「オレよりちっちゃい…」
「昌浩や、おいで」
「じー」


晴明が嬉しそうに孫を抱き上げる。


やっぱり楽しんでいるな、この狸め


とこの部屋にいる誰もが思った。








今の昌浩は外見五歳児のより幼い。
言葉もたどたどしく、歩く事すらままならない。






「…どれくらいで元に戻る?」
「ゆっくり休養して、霊力が戻れば自然と戻る。神気の高い神将がついておるのだ、すぐじゃよ」


その言葉に騰蛇ももホッとした顔を見せ、ようやく力を抜けた。
この二人はさっきまで「自分の所為だ」と自責の念を見せていたのだ。























「れーんー」
「こら、昌浩。もう夜も晩い、眠る時間だ」
「やー」



夜警から戻ったということはそれなりに夜も晩い。
しかし、昌浩は眠りにつこうとしない。
昔から昌浩の面倒を見ていた騰蛇ですら苦戦していた。



やれやれ、と傍観者を決め込んでいたは不意に自分の髪の毛を引っ張られ思い切り首を後ろに逸らされた。


「いっ!!!」


今までこの邸には自分より背の低い人物はいなかった為、こうされることは余りなかった。
ということは犯人は自ずと絞られる。

(例外としては太陰に呼び止められる時とかに軽く引っ張られる)




「…昌浩」
「うー?」
「こら、昌浩。人の嫌がることをしては駄目だろう。離すんだ」
あだだだだ!紅蓮、いでえ!!!」



昌浩はの髪の毛を全く離そうとしない。
これ以上引っ張られては困る、と思ったは騰蛇から昌浩を受け取った。




「昌浩、もうねろ」
「…だーれ?」
「…記憶も無いのか…。昌浩、コイツはだ」
ー!!」
「…ああ、そうだ。…だからはやくねろ」



ポンポンとゆっくりと背中を叩いてやると、段々とうとうとしだす昌浩。
次第に体に体重がかかり、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。
しかし髪の毛は今だ掴れたまま…。






「…どうすんだよこれ」
「…知らん。もうお前も一緒に寝てしまえばいいだろう」
「おい、こらまて…!!」




の反論も虚しく、の体は騰蛇によって褥に寝かされた。
起き上がろうにも神将が邪魔をする。
は一度睨みつけて、渋々目を閉じた。

























朝が近づき、次第にの意識は覚醒していった。

寝る前自分は確か昌浩を抱いていたはずだ。
だが気づけばいつの間にか自分が抱かれる側になっていないか?




そっと目を開ければ、其処にはあどけない寝顔を見せる十三歳の昌浩。
元に戻れたのか、とほっと一息つくと自分にかかる体重に気がついた。





「…重い」




自分の上で何かが丸まって寝ていた。
それは白い毛並みに、長い耳。
猫にも犬にも似つかぬその姿―――――……






「……もっくん…」










二人(一人と一匹)が目覚めてからの機嫌が悪いのに気づくのはもう少し後のお話。