最近準さんメールばっかであんま構ってくれない。
何がそんなに楽しいのか、画面見てはニヤニヤ笑ってる。
俺が傍によると絶対見せないって隠すし。
面白くねー!
第九球 「盗塁」なんかさせねえぞ
今日も今日とて部活は厳しい。
夏が本番になれば地区大もあるし、それは仕方無い。
兄ちゃんなんかに負けたくねーし…俺も試合に出たいし。
それでもやっぱり少し「しんどい」と思ってしまう。
毎日毎日暑い中球を追いかけて…。俺の青春ってこれだけかなーばあちゃん。
朝練が終わり、これからだるい授業が始まる。
まあ座ってられる分マシかなー…とか思うけど、眠いのが厄介だ。
着替えを済ませ部室を出ようとすると、また今日も準さんは携帯を弄っている。
中なんて見せてくれるわけないけど、なんで携帯一つで表情がコロコロ変わるんだろう。
すっげえ気になる。
しばらく観察してると準さんの表情が曇った。
それは怒っているのではなく、がっかりしたと言う表情。
その後携帯を閉じると溜息をつき、部室をとぼとぼと出て行った。
昼休みに屋上で飯を食べていたカズさんに会い、それとなく聞いてみた。
カズさんなら何か知ってるかもしれない。
「カズさん、準さん最近携帯で何してんすか?」
「なんだ、知らなかったか利央。アイツ他校に友達が出来たとか言ってたぞ」
準さんが、他校に友達!???
いや、そんな驚くことじゃないかもしれないけどなんでか吃驚してしまった。
そんな俺を見てカズさんは笑ってるけど、絶対カズさんも驚いた筈だ。
「嘘!!あの準さんが…!!」
「お前は俺をどういう風に見てんだ」
頭に何かが圧し掛かり、準さんの声が聞こえた。
頭に乗ったのは準さんの弁当だ。
俺の頭を一回はたき、飯を食いだす準さん。
今の会話聞いてたのかな…?
「おい準太、利央が気になってるぞ。お前が毎日携帯ばっかりで構ってくれないって」
「そんなこと言ってないっす!!」
「俺が誰とメールしようと勝手だろ」
そっけなく、切り替えされ会話はそこで止まってしまった。
結局詳しくは教えてくれず、黙って引き下がるしかなかった。
普通考えてみれば、俺が気にしても仕方無いんだけど。
あの準さんの表情がメールだけで変わるってのも凄いことだと思う。
今日の部活は監督が不在と言う事と、グラウンド整備と言う事もあり早く終わった。
何か食って帰るか、と言うカズさんの提案に乗ったら今日は準さんも来ると言った。
ここ最近付き合いが悪かったから意外だ。
「準太が来るのも久しぶりだな」
「今日予定が流れたんで」
もしかして朝のメールだろうか。
相手にドタキャンされたのか?それであんながっかり…うわ準さんのキャラじゃねー…。
ちょっと遠いけど美味いと評判のお好み焼き屋に行く事になった。
へえこんなとこがあったんだ…と中に入れば結構混んでいた。
中には俺達と同じ様に学校帰りに寄ってる奴等もいるし、家族連れや会社帰りのサラリーマンとかも居る。
なんとか席につくことが出来、俺達はそれぞれ目当てのものを注文した。
「あ!準さんそれ俺の!」
「俺のテリトリーに入った利央が悪い」
「ひでえ!!」
「ほら、利央俺の分やるから」
「カズさん、甘やかしちゃ駄目ですって」
準さんとお好み焼きの取り合いを繰り広げていると、丁度真後ろの席から似たような会話が聞こえてきた。
「ひでえ阿部!!俺の豚玉!!」
「るせえ、人の目の前まで生地広げやがって」
「三橋、こっち焼けすぎだ」
「うお…!」
「あーほらほら、文貴俺のやるから。廉、焦ったら喉詰まるぞ」
どこの学校も同じなんだなーと思っていれば、隣の準さんが固まっていた。
そして携帯を取り出し、物凄い速さでメールを打つ。
数秒経たない内に背後から着信音が鳴る。
「先輩の携帯?」
「みてーだ。…メールだな。何々…?」
『From:高瀬準太 本文:もしかしてお好み焼き屋にいる?』
「え?なんでわかったんだ?」
その声を合図に準さんが思い切り後ろに振り返り、携帯を持っている人の肩を掴んだ。
驚いたその人と、周りに座っていた奴等が全員俺達の方を見た。
「……」
「え?あれ?高瀬??」
「準さん…?」
なんか、これって修羅場ですか?
なんとなく不穏な空気を察したカズさんの提案により、俺達は一緒に座る事になった。
どうやらこの“”って言う人が準さんのメル友らしい。
どうやら今日二人は遊ぶ約束をしていたらしい。
でも、さんの予定が狂ってしまい約束が流れたという。
「…なんで此処にいるわけ?」
準さん、顔怖えっす。
「ミーティングって言うから残ってたら此処で飯食いながらやるって言うからさー。ほんとごめん!!」
さんは顔の前に手を合わせて頭を下げる。
こんなに素直に謝られちゃ準さんも怒れないのか表情を戻した。
「先輩、桐青に知り合いがいたんすか?」
「おーこないだスポーツショップでな「知り合いじゃないよ、友達デス」
言葉遮ってまで、そこ強調したかったんですか…?
「そうそう、ダチ。西浦高校、 です。よろしく」
さっきの準さんの言葉もすんなり受け入れ、笑顔で挨拶をするさん。
なんか準さんが気に入ってるのも解る気がするかも…。
「え…西浦って硬式あったっけ?」
「今年から出来たんだ。そっちの君は高瀬の後輩?」
「あ、はい。仲沢利央です…」
聞いていて心地いい高さの声。
柔らかい物腰。
見れば、周りの西浦の奴等もさんのことすんげえ慕ってるって感じ。
「利央?」
「!!なんすか?」
「…お前は俺の後輩、だよなあ…?」
自己紹介しただけじゃないっすか―――!!
ちょっと!カズさんにさん!!呑気に挨拶してないで助けて―――!!
「先輩、俺もうひとつ注文するけど先輩は?」
「あ、じゃあモダン一つ頼む孝介」
「先輩、俺もモダン食いたい!!」
「悠一郎もか。じゃ、二人前で」
「……仲良いっすね」
ふと思ったけど。
「そうか?そうなら嬉しいな」
「…!!」
本当に嬉しそうな顔をされれば、それ以上何も言えなかった。
「…」
「準さん?」
「……俺も…名前で呼ぼうかな…」
なんかボソボソ呟いてますけど……。
悔しいんすか??
「利央くんは?」
「え!?」
「追加注文する?」
「あ…じゃあ…」
吃驚した。
急に呼ばれた名前が、一瞬自分のものと解らなかった。
でも、心地良かった。
準さんの恨みがましい視線を感じたけど(涙)