先輩は、凄い人。
俺なんかにも優しくしてくれるし、勉強も出来るし、お料理も出来る。
でも思えば、俺先輩に、何もお返ししてない。
第八球 九回裏ツーアウト満塁でも笑顔のエース
「せ、せんぱ」
「せんぱーい!!ボタン取れたー!!」
「ああ?またかよ悠一郎。付けてやるから持って来い」
「ゆ、せ」
「スンマセン、先輩。今からちょっとタイム計ってもらえます?」
「おけ、任しとけキャプテン」
・・・・・中々話かけられない。
俺…トロイし先輩も忙しそうだし…。
「……三橋、お前何やってんだ?先輩に用があるんじゃねーの?」
「あ、あべ、く…」
「うわ!お前何泣いてんだよ!?」
阿部くんみたいに言えれば良いのに。
先輩の事、すっと名前で。
「…で、なんで泣いたんだ?」
「…俺…せんぱいに…たくさん貰ってるのに…なにもでき、ないから…」
「…?(よくわかんねーけど先輩に何かお返しがしてえのか?)それで話かけようとしてるのに出来ないのか?」
「…う、うん」
俺の声じゃ先輩まで届かないから。
阿部くんや田島くんみたいに大きな声で呼べないから。
「…アホ」
「!!」(ガーン)
「はー…で、実際何を先輩にしてやるんだ?」
「………」
「考えてないんか!?」
そ、そういえば…実際に何をお返しすれば…良いんだろう…。
どうしよう……。
「ど、どうしよ…」
「……俺の方がどうしよう、だよ…。じゃあ三橋、お前どんなことしてもらった?」
「…え、っと…」
誕生日に、アイス貰って
ピッチング練習に付き合ってもらって
お腹すいたな、って思ったらパン貰って
“すげえな廉!!流石うちのエースだ!!”
あ・・・・・・・
「…食べ物くれたり…練習…見ててくれたり…。でも…一番は…いつも褒めてくれる…」
「じゃあもっと頑張りゃいいじゃねーか。そんで成果を出せば先輩も喜んでくれるじゃん」
「…成果…?」
「そ。お前が頑張って投げればウチは勝つ。そしたら先輩も嬉しいだろ」
俺が…投げて…勝つ?
でも…俺は阿部くんの言うとおりに投げてるだけで、俺の力じゃない…。
「あ、いたいた!おーい廉、隆也!」
「先輩?」
「!!」(ビクゥ)
あわわわわ…先輩来ちゃった。
どうしよう…!!
「廉、ごめんな。どうした?」
「え……?」
どうして先輩が謝るの?
何も出来ないのは俺なのに。
「さっきから何度か話しかけようとしてただろ?忙しかったから遅くなって悪かったな」
「…う…あ…」
「ん?なんで分かったの?って?分かるよ、廉の声聞こえてたからな」
「……!」(ブワッ)
先輩に俺の声が届いていた事が嬉しくて、また涙が出た。
先輩は驚いていたけど頭を撫でてくれて、それでまた俺は涙が止まらなかった。
「隆也、廉どしたの?」
「…嬉し泣きっすよ」
「??」
俺、頑張るよ。
エースにしてくれた、阿部くんや皆。
監督や先生やマネージャーさん。
それから先輩の為に。
「廉どしたー?苛められたか?言えば先輩が仕返しに行ってやるよー?」
「ち…が…。せん、ぱ…俺…がんばるから…」
「?…そっか、頑張れ。でも程ほどにな?また体重落ちたら怒るぞ?」
「…ひっ……はひ…」
そう言えば前体重落ちちゃった時、阿部くん怒ってたけど…先輩は…
『どーしてあんだけ食ってるのに落ちるかなー?もしかしてまた部活以外に投球練習したのかにゃー?』
笑顔だったけど、凄く怖かった。
無理するんじゃない!って怒られたんだ。
「今度異常な落ち方したら…あのまっずーいプロテイン飲む羽目になっちゃうからな」
「…!!!!!」(コクコクコクコク)