昔、同じクラスだった男。
すぐ転校していったけど、結構絡んだ気がする。

交わすのは大体が喧嘩腰だったけど、そうでもしないと接点の無い俺とアイツは会話を交わすことは無かっただろう。






















第七球 四番だからと言って敬遠しないでください






















「今日もあちー…」
「るせーな、言ったからって涼しくなるわけじゃねーだろ」
「独り言に返事返すなんて暇人だな榛名」
「独り言多い男ってのはモテねえぜ」


暑さの所為か、それ以上が絡んでくる事はなかった。
だが、それではこっちがつまらない。



「そーいやは部活はいらねーのかよ」
「もう中三じゃねーか、今更何処入るんだよ」
「出来ない言い訳か?」
「言ってろ」



そしてまた会話は止まる。

コノヤロ、人が振った話題止めるなよ。


なんか無いかと考えていると、が席を立った。(席が隣同士)




「何処行くんだよ」
「誰かさんが絡んでこないとこ」




なんだよ、その態度。
あーもうしらねえ。



















が出て行って、やることも無くなる昼休み。
大概アイツは昼休みに教室にいることはあまり無い。

だけど今日は珍しく教室にいるから俺はずっと自分の席にいたって言うのに。




「ちぇ…つまんねー…」



つい漏れてしまった独り言。




空席になった隣を見ていると、外から聞き覚えのある声が聞こえた。












「オレも入れてー」







グラウンドに向かう背中は先程まで隣にいた男。
走る先には野球をしている男子(ほとんどが野球部ではない)



さっきまで暑いとか言ってたくせに、外に出て野球するのかよ。
俺といるより暑い方がマシってか。



なんだか面白くなくて、奴の席の椅子を蹴ってやる。勿論軽くだが。





それから再びグラウンドに目をやると、いつの間にかがマウンドにいた。










「…アイツが投手やんのかよ…。どんなお粗末ボール投げるのかね…」




軽く肩を回してからモーションに入る。

それは素人がする真似事ではなく、形になっているもの。


「え…?」





遠目だが、速いと思えるボールがミットに飛び込んだ。
バッター役も解りやすいほどテンポを崩し振り遅れる。







そのまま、三振したは今度はバッター側にまわった。




バットを肩にかけながらバッターボックスに向かうが、入る前に一度足を止めた。
軽く礼をし、それから構えに入った。




「…アイツもしかして…」





野球経験者?






球児ならバッターボックスへ入る前に一礼をする。
それに投げ方も振り方も素人とは思えない。




「…なんだよ…」



野球に興味無いと思ってたから必死に会話を繋ごうと喧嘩腰でも無理矢理構ってたのに。


こんなに大きい共通点があったなんて。



「…コノヤロ…」










急いで席を立ち、グラウンドへ向かう。



真っ向から勝負してやる。























俺の姿を一瞬早く見つけたはバットを置こうとしたが、そんなことはさせない。


、俺の球を打ってみやがれ!!」



捕手も内野手もそこらへんの男子生徒だけど
昼休みの、お遊び程度の野球だけど




「それとも、尻尾巻いて逃げるか?」


俺は本気だった。







は置きかけたバットを握りなおし、高く上げた。




「打ってやるよ」



初めて、アイツの目が俺を正面から見た。



俺が求めていたものは、これだったんだ。