今日入部したって先輩はつくづく凄いと思った。いろんな意味で。




















第二球 本日晴天、所により硬球が降るでしょう(怖!!)






















この間応援団を作るって言ってた浜田さんが連れてきた、先輩はかなり人懐っこい人だった。
会ったのは朝、なのに放課後練ではもう最初からいるようにグラウンドに馴染んでいた。



「しのっち、氷ってシガポのとこだっけ?」
「はい」
「じゃ、オレ行って来るからその間水撒きよろしゅ〜」


先輩もう篠岡をあだ名で呼んでる…。あれ先輩がつけたんだろうか…。

マネが二人になったことで仕事が分担出来て少しは篠岡も楽になるのかな。
それならそれで俺達としても有難い…って、あれ?先輩チャリ使わず行く気か??

迂回する分遠いのに!!









「先輩!」

「ん?お〜セカンドくんじゃねーか。どした?」
「(セカンドくん…)あの、チャリ使わないんですか?帰りはそれ重くなるでしょ?」

それ、というのはジャグ。
俺達の飲み物を入れる容器。かなりデカイの。


「あーいーのいーの。オニーサン力だけは無性にあるから。チャリは篠岡が校舎に用があった時使やいーのよ」
「はあ…」

「あ、さてはオレが途中で零すと思ってんだろ〜?」

「い、いえ!!そーいうわけじゃ…」
「ジョーダンだよ。ま、コレ位へーきへーき」





俺達より背は高いのに、小さい子供のような笑顔を見せる先輩に正直ギャップを感じた。
一目見た時はすごい大和美人って感じなのに、クールとか近寄りがたいっていう言葉は先輩に無いみたいだ。
喋りだすと俺達と変わらない、凄く身近に思える。

















グラウンドが大体茶色に染まった頃、篠岡が米を研ぎに水道へ行こうとしたら先輩が戻ってきた。
軽々とたっぷりの清涼飲料水を入れたジャグを日陰に置き、篠岡の手から米の入った袋を奪った。

「次は米炊き?」
「あ、はい」
「それってどこでやるの?場所覚えがてらついてくし」
「こっちです」



先輩は自然に水道へ行った。
代わりにやると言って仕事を貰うより、すごい自然な流れだった。
いつの間にか、米も研ぎ終わったみたいで今度はボールの修理をしてた。


こうして見ていたらマネって仕事多いなあと思った。
なんで今日に限ってこんなゆっくり観察出来るのかなあと思ったら、いつもより仕事の流れが速いんだ。
こんな事が出来るのも、俺達がウォーミングアップしてる時くらいだもんな。























ノック練習にうつった時、バッターボックスに立った監督にボール渡しをしてたのは先輩だった。
楽しそうにボールを投げていた。

監督が打ったボールは高く上がり、レフト方向へ行く。
水谷が一度グローブに掠らせたが落としてしまった。


「レフトくんドンマーイ!」


先輩の声が聞こえた。




その後も、外した奴にはドンマイ!と言い、取った奴にはナイスキャッチ!と度々叫んでいた。
それはもう楽しそうに。





「そうだ、くん。打ってみる?」
「へ?いいんすか?でもオレじゃあ方向が滅茶苦茶ですよ?」
「だから練習になるんじゃない。試合中は何処に飛ぶかわからないもの」



今度は監督に代わり、先輩が打席に立った。
そして軽く肩を回して、バットを握ると監督に投げ渡されるボールを打った。


カアンと軽い音が響き、ボールは飛んだ。


「あ」

それは高く上がったセンターフライ。

泉は難なくキャッチしていた。



「ちょっとタイミング外したー。よっしじゃ…次!」


今度はキィンと鋭い音がして、ショートの方向へ飛んで行った。
巣山は驚いていたがなんとか取れていた。





次々と先輩の繰り出すノックはムラがある。
速かったり、凡フライだったり。
いつ自分のところへ来るか判らないし、どんな球が来るか判らないからいつもの二倍集中していた気がする。
























そして米が炊き上がった頃になると先輩は引き上げ、篠岡の許へ。
時々「あっちぃ!!」とか何度も聞こえたなあ…。



しばらくし日が落ちて、休憩になり俺達がお握りを求めてベンチへと走る。
其処には握りたてのお握りがドンと置いてあった。













ただ、いつもと違う点が一個だけ。







お握りが面白い事になっていた。











「うわ!!なんだこれ!葉っぱ巻いてある!」
「そりゃ高菜っつーんだよ。こっちはゆかりだ」
「なんか今日色とりどり…そして形も色々あるなあ…」


そう、いつもの白お握りではなく、何故か今日は色とりどりのお握り。
そして形も三角やらまん丸やら、はたまた俵なんてものもあったり。



「食欲は見た目からってねー。うちのばっちゃんが持ってって良いって言うから高菜巻いてみた」



葉っぱの塩分と白米が丁度合って美味かった。












「あ〜!!俺それ狙ってたのに!!ずりーぞ花井!!」
「何言ってんだ!お前昨日ビリだったろ!!」




お握りの外見はランクで変わっていた。

具なしは形が色々。
具が入ってる奴は中の具に影響が出ない程度のトッピングが付いていた。








「ねーねー先輩!!またこれ持ってきてくれる?」
「ん?高菜気にいったんか?じゃあばっちゃんに言っとくわ」


やった!!と田島が声を上げて喜ぶ。
多分今日の氷オニで田島は勝つ気満々なんだろう。
























電灯のある場所に移動してから再び練習を再開しようとすると、今度は先輩の姿が無かった。




もしかしたら帰っちゃったのかな、時間も時間だしと思ってると先輩がどっさりとタオルを抱えて戻ってきた。
篠岡がそれに気づいて先輩を手伝い、タオルに何かを書き始めた。


















「よーし、それじゃあ今日の練習は此処まで!!各自ちゃんとストレッチ忘れないように!」
「「「「うっす!!!」」」」




練習が終わり、ストレッチをしている俺の頭に何かが被さった。

「おつかれさーん」

先輩の声と共に降ってきたのはタオル。さっき先輩が抱えていた奴だ。





「あれ…隅の方になんか書いてある…。…あ」




“Nisiura’s 4 Yuto Sakaeguti”


チーム名と背番号、そして俺の名前が書かれたタオルだった。




見れば一人一人書いてあって、他にも一言書いてあった。

“目指せ 甲子園!!”




















ああ、なんて素晴らしく面白い人なんだろう。