西浦のマネージャーの仕事は大変って言うのは勿論解ってる。
米とぐ水も使える水道が遠いから何号もの米を持って、しかも帰りはそれに水をはって持ち帰らなきゃいけない。
飲み物の補充も何度もグラウンドを迂回して数学準備室へ行って氷を貰ってこなきゃならない。
しかも水が入れば重さは行きとは比べ物にならない。
それから炊きたて飯で作るお握りは部員の数×2くらい?結構沢山持ってたな。

それを一人でこなしてる彼女は正直尊敬する。


















第一球 新マネジ☆



















「とゆーわけでだよ。オレの入部動機」

「…なんか聞いてりゃ格好いいんだけどよ…何処かに不純さが漂う気がして…」
「るせ。いいからお前はオレを野球部紹介してくださりやがれ」
「丁寧なのか、横暴なのかどっちだ、お前は」



友人である浜田と漫才のようなやりとりをしながら第二グラウンドの入り口へと向かう。
しかしこの辺の草むしりも彼女がやってんだよなー…と心で尊敬の念を送りながら入り口を潜った。

















「おい、泉。監督か志賀センセいねえか?」
「あ?んだ浜田か」



後輩(同じクラスだが)に呼び捨てにされてる浜田を見て、少々哀れみの目線を送ってしまった。
それに気づいた浜田は何やら不快な表情をしていたがそこは敢えてスルー。

「お前…後輩にも慕われてないのか…」
「その本気の同情やめろ。すげえムカつく」



オレの発言に泉くん?はオレが二年だと気づいたらしい。
帽子を取り会釈してくれた。


「浜田の…友達っすか?」
「んー不本意ながら」
「おい!」


一応言っておくがこのやりとりは日常茶飯事だ。
言いたいことを言い合える友人なんて浜田を入れて数人くらいしかいない。




「二年三組の っての。オレマネジ希望なんだけどさ、監督とか何処?」



オレの言葉に泉くんは目を見開いた。
























「マネ希望?」
「うっす!」


初めて対面した女監督はへえ、と珍しいものを見たような顔をした。
オレを見ているようでその目はオレの腕や足を見ているな。筋肉のつき方とかを見てるんだろう。


「キミ選手も向いてると思うけど。もしかして運動神経悪いとか、どっか怪我してるとか?」
「まったくの健康優良児で体育は毎回5とってます」
「じゃあなんで?」


それなら、と言い掛けた監督を遮るように口を出す。



「だってここ今女の子のマネジ一人でしょ?ならオレが入ったらちょっとは楽になるじゃないですか」



ほら、だって今も向こうで一人慌しく仕事してるし。




「部員数は少なくても設備の関係上仕事ハードなもんが多いじゃないっすか

筋力もつくし、一石二鳥ってね。



「…へえ、面白いねキミ。わかったわ、じゃあ皆に紹介しましょ」
「やった」




監督の招集でグラウンドに散らばっていた選手達が集まってくる。
うーむ、よく取れた統率力だあー。
よっぽどこの監督の実力……いや、怖さ??






「今日から新しく野球部のマネージャーになることになったくん。はい挨拶どうぞ」
「浜田くんの悪友で二年三組の でっす。はじめまして野球部諸君」


遠くから“浜田の一言多い!”って一言が聞こえた。
それのお陰で、見知らぬ人に対して緊張感を持っていた選手達の顔が綻んだ。


「千代ちゃん、マネの先輩としてくんの指導お願いね!」
「え!?そんな、私先輩だなんて」
「よろしくー先輩☆」


滅茶苦茶両手を振りながら謙遜しているマネージャーは近くで見ると意外と小柄な子だった。
こりゃあオレ入って間違い無いかも。






「じゃあ皆自己紹介でもしよっか。どうせもうミーティングの時間だしね」


監督が選手達に目を配り、うん!と頷いて一番背の高い奴に合図を送った。


「じゃあ最初は主将からね!」


「え…俺…?えっと…一年七組花井です。ポジションはライトです」
「花井?名前は?」
「〜〜っ!!………花井、
梓です…


滅茶苦茶声小さくなかったか?最後だけ。


「了解、じゃ次は副主将」

そう言うと、二人が帽子を取った。


「同じく一年七組、阿部隆也です。ポジションはキャッチャーっす」
「一年二組、栄口勇人です。セカンドやってます」

覚えたよーとサインを送れば二人が会釈してくれた。




「じゃあ後は順番にいこっか、じゃあ一番右側からね」






「はいはーい、俺一年九組、田島悠一郎でーっす!ポジションはサードっす」

「お、俺…一年…九組、三橋…廉…デス…ぴ、ピッチャーです…」

「同じく一年九組の泉孝介。ポジションはセンターっす」

「一年七組でポジションレフト、水谷文貴です」

「一年三組、沖一利です。ファーストやってます」

「巣山尚治、一年一組です。ショートっす」

「一年三組、西広辰太郎です。ポジションはまだ無いです」





一人一人が順番に声をかけ、帽子を取って会釈してくれる。
うん、ここの奴等は見てて気持ちいいね!オレ気に入ったわ。





「一個上だけど全然気にすんなよ。浜田と同じように扱ってくれていいから」



そう言ったら泉くんが「そんなの出来ないっすよー」と言った。


え?浜田くん?

キミ思ったより先輩としてみなされてなかったりする?









さあ、これから夏が始まる。