いつからだろう。こんなにも闘いに惹かれるようになったのは。
いつからだろう。こんなにも血に染まるようになったのは。




ああ、そうか。





すべては








あの男と出逢ってしまったから。


















魂が惹かれたんだ











紅い

















そこは戦場だった。
周りは死体の山、いつ何時自分がそこらに転がっている者たちと同じになるかわからない。
そうならない為に、オレは刀を振るっていた。

幾度血を浴びようと、幾度肉を斬ろうと。


オレは心を殺すしかなかった。

そうして生きてきたオレは感情や、表情といったもの全てを不要とした。
生きるのに、そんなものは荷物になるだけだから。















ある日、今夜の寝床を確保しようと古寺へ入った。
もう廃寺になっていたらしく、中に人の気配は無かった。
入り口の側に座り、刀を抱きかかえるようにして眠った。





ここ数日、野外での野宿が続いたから久しぶりに屋根の下で眠れると思ったのにやはりゆっくり休めそうに無い。
外で、数人の気配があったから。






愛用の刀をゆっくり鞘から引き出し、自分の気配を押し殺す。
元々オレは殺気など無駄に放ったりはしないから“無”になるのは簡単だ。




心を殺せば殺気すら無くなる。

ただ、目の前に立ちはだかるものを斬るだけ。



そう、物を斬るのと同じことなんだ。







段々と気配が近くなってくる。
話し声も聞こえてきた。




男が四人と女が一人。


声からして、子供が一人。




一体どんなメンバーで歩いているんだこいつらは。





奴等の一人が扉に手をかけた瞬間飛び出そう。

















「あーもう疲れたぜー!また野宿かよ!」
「アキラがもたもたしてるから。俺だったらあれくらいの人数さっさと殺せるのに」
「…っそういうほたるだって余所見して毛虫つついてたじゃねーかよ!!」
「五月蝿いわよあんた達!ただでさえ疲れてんだから無駄な体力使わせんじゃないわよ!ね、狂
vv
「…………」









どんな会話だ。
でも内容からしてどっかの雇われ武士ではないみたいだ。




あ、あの子供が扉に近づいて来た。



……行くか。










「さっさと中に入って休もうぜ…俺も疲れ「アキラ伏せとけ」へ?」









ビュッ!!




「……ええ??!」


アキラには当たらず、髪の毛が数本落ちる。


「あ、外した。思ったより背低かったな」
「なんだと!!誰だお前!!

いきなり斬られかかったことよりも、まったく気配が読めなかったことにアキラは内心驚いていた。
自分だってこの戦場で狂達と共に戦い抜いて来たというのに、目の前にいる男の気配は全然気づかなかった。
今だってこうして目の前にいなければ居る事に気づかないかもしれない。




「…ほう、面白そうな奴がいるじゃねえか。てめえただもんじゃねえな…?」
「ただもんだよ。何処にでもいるガキさ」



どこがだ!という声が上がったが気にしない。
それより目の前の男の方が気になったから。




目の前にいる男は確実に強い。
それは野生の本能からか、無意識に感じ取っていた。


恐ろしいと思う反面、何故かこの男と死合ってみたいと思った。






今まで生きてきて、自分から闘いたいと思ったのはこれが初めてじゃなかろうか。






「…勝負、しない?」
「…いいだろう。本気で…こいよ?」





寺の外へ出て、男と距離を取る。
こんなに離れているのに、まるで首元に刃先を突きつけられてるみたいだ。
これが、殺気――――…。





誰かが砂利を踏んだ音を合図に駆け出した。
鋭い音が響いて、奴の刀とオレの刀がぶつかり合う。
間近で奴の眼を見て、思い出した。









――戦場には、赤き眼を持つ鬼がいる―――

――その名は…――






「アンタが…“鬼眼の狂か”…」
「だったらどうした?怖気づいたか?」
「冗談」



力の差かどんどん押されてゆく。
だがそんなのは想定内だ。

元々オレは腕力はあまり強い方ではない。
それなら速さで勝負。

一瞬でも退こうものなら普通は斬られるだろうが、オレならその一瞬でかわせる。



「!!」
「アイツ速え!!!」





鬼眼の死角から刀を振り下ろす。
だが、それも難なく受け止められる。



「…中々すばしこい奴だな」
「やっぱりこれくらいじゃ駄目か…。ま、もういいや」




此処までやって駄目ならもうめんどくさい。






オレは刀を手から離し、降伏を表した。





「…なんの真似だ…?」
「もういいかなって。アンタくらい強い奴になら別に殺されたっていいかなあって」



弱い奴に殺されるのが嫌で今まで抗ってきたけど。
これ程はっきり実力の差がある相手ならオレの命運もここまで、抗うのが可笑しいでしょ?






「……そうかよ。じゃあひとおもいにやってやる」

「ちょっ狂!!?」





オレは目を閉じて、死を待った。


















べし!!!


「……ったああ……」



だが来た痛みは肉を裂く痛みではなく、額を指で弾かれた痛み。
つまりデコピン。




「…どーいうつもり?」
「なんで俺がてめーの願いを叶えなきゃいけねーんだよ。殺してくれって言われて殺してやるほど俺は善人じゃねーんだよ」


なんて天邪鬼だ。



「てめーまだ本気出してねえだろうが。俺と本気でやりあうまで絶対殺してやんねーよ」
「…横暴」
「うるせえ。兎に角、てめーは俺に負けたってことで下僕決定だ」



だから負けたんだから殺せって言ってんのに。





それから誰だよ、オレの着物引っ張ってんの。


「狂だけなんてずるい。ねえ俺も俺も」
「誰?アンタ」
「俺?ほたる。アンタは?」
「…
「今度俺とも死合ってよ」


なんでそんなわくわくした顔で見てくるんだ。
しかもお前の後ろのちびっ子はめっちゃ睨んでくるし。


「絶対俺はお前なんか認めねえからな!!」
「オレだって認めねえよ。なんで下僕なのかわかんねえし。それからお前誰だ?」
「〜〜!!アキラだ!覚えとけ!!」

覚えとかなきゃいけないのか。
認めないなら名前教えなきゃ良いのに。




って言ったか?俺様は梵天丸だ。お前なんでそんなに感情薄いんだ?」
「…必要ないから」
「私は灯ちゃんね
vv駄目よ!!折角素材が良いのに勿体無い!!」
「素材?」







わけわかんねえ………はずなのに、なんでこんなに心地良いと感じちゃうんだろう…。














「てめえが俺と本気でやり合うって言うんなら、いつでも殺してやる」





そう言って笑った赤い眼は



捨てたはずのオレの感情を呼び起こした。









すみません!!お待たせしました!!ヒカリ様!!