「あっついんですけど」
「窓開けようか?それとも水飲む?」
「……」
「佐助!!!ベタベタ引っ付くなど破廉恥だぞ!!」
とうとう目の前の光景に我慢しきれなくなった幸村が叫んだ。
カワイイヒト
「何よー旦那には関係ないでしょー。ねー」
「オレに振るな。幸村様もこれくらいで破廉恥とか言っててどうすんですか」
「しかし…はいいのか?そんなに背中に密着されて」
「まあ…はっきり言って邪魔な事この上ないですけどね」
うんざりした様子で答える。
しかしこれは日常茶飯事。
最初はちゃんとも接がしていたのだが毎日めげない佐助にもう諦めかけている。
「照れなくてもいいのにー。さてと…じゃあ俺様はそろそろ任務に行きますか」
「おお頼むぞ」
「え…?」
素早く姿を消した佐助。
しかしの表情は固まっていた。
「どうした?」
「オレ知らないんだけど…佐助の任務って何なんですか?」
「ああ、ちょっと南の方で動きがあったらしくてな。四国まで行ってもらったのだ」
「四国…」
ここ、甲斐の国から四国はとても遠い。
「そっか…」
翌朝――…
目覚めて、顔を洗い、食事を済ませる。
軽く鍛練をこなし、執務をする。
そして夜になり、眠る。
「…平和なはずなのに…」
布団の中でぽそりと呟く。
『おはよー。今日も可愛いね』
『…朝っぱらからバカなこと言ってんじゃねえ…』
『相変らず寝起き悪いねえ』
『残しちゃ駄目だよ。沢山食べなよ』
『母親かお前は』
『嫌だなー。どうせなら旦那がいい…って冗談だからそんな怒らなくても』
『あんまり無理するなよ?お前はすぐ無茶するからな』
『…無茶なんてしてねえよ。暇なら相手しろよ佐助』
『はいはいっと。じゃあ何か賭ける?勝った方の言う事ひとつ聞くとか』
『ぜってえ負けねえ!!』
『寝るの?一緒に寝ていい?』
『…永眠させてやろうか…?』
『ほんとに素直じゃないんだからー。小さい頃はそっちから一緒に寝てーって来たのに』
『…////っ!!…死ね!!』
静かな夜だ
この上無いくらいに
こんなにも
ここは静かな所だったのか
日に日に元気を無くしている。
幸村にもそれが判っていたが、どうしようもなかった。
せめて気分でも紛れれば、と思い遠乗りに誘ってみた。
「…そうだな。たまには…いいかもな」
このモヤモヤを晴らせるなら、何でも良い。
「ー!!あそこまで競争せぬか?」
「幸村様にはさすがに勝てねえと思いますけど…。じゃあやりましょうか」
「先手必勝!!」
「あ!!ずるい!!」
言いだしっぺの幸村は我先にと駆け出していった。
も負けじと後を追う。
「あ、やべえ…完璧見失った?」
気がつけば幸村が見えなくなり、は森に入り込んでいた。
木が多いので馬から降り、歩く事にした。
「迷子とか洒落にならねえぞ…早く出ねえと幸村様一人で騒ぎ出すし…」
その時殺気を感じ、は身をかがめた。
すると先程までの頭があった位置に苦無が数本刺さった。
「!!」
「外したか…。さすがは武田の武士…と言ったところか?」
「忍か…」
ずらりとを囲む忍。
『…ちっ。よりによってまともな武器を持ってない時に…』
遠乗りの為、愛用の大刀を持っていなかった。
手元にあるのは普通の刀が一本。
「命貰うぞ!!」
「誰がやるかよ!!」
襲い掛かってくる忍を次々となぎ払っていく。
これでも武田では幸村の次ぐらいの実力はある。
しかし愛用の大刀も持たず、いきなりの多勢では流石のも息を切らさずにはいられなかった。
「…っく…!!何人いやがるんだ!!」
「諦めろ!流石のお前でもこの人数は相手に出来まい!!」
その時だった。
「…っぐあ!!」
疲れから気配を読み取れず、背後にいた敵から思い切り背を斬り付けられた。
なんとか体をずらし、急所は外したがこの出血はまずい。
「もう終わりだな…。殺してもいいが…武田の情報を少しでも吐いてからにしよう」
「…だ、れが…吐くかよ…。そんな醜態さらすくらいなら…てめえら道連れに死んでやるよ…!」
「まだそのような口が聞けるか!もうよいこいつを殺せ!!!」
動けないに忍全員が襲い掛かる。
佐助………!!!!!
「あーらら、何してくれちゃってんのかなあ?」
「…っ?!」
目の前に広がるは、見慣れた迷彩模様。
瞬間、は自分が抱きかかえられていると気づいた。
「あんた等、北条の忍だろ。大方俺様がいない隙をついたんだろうけど…を狙ったのが失敗だったな」
「猿飛佐助…!!」
「コイツに何かあれば俺はすぐに駆けつけるからね」
「佐助……」
「来るのが遅れて悪かったな。片付けてくるからここにいてくれよ」
佐助はを木の上に降ろすと素早くまた姿を消した。
そして黒い影が忍達の間をすり抜けていった。
「っぎゃあああ!!」
「っぐあ!!」
悲鳴と共に倒れていく忍。
そして立っているのは佐助だけとなった。
再び木の上に戻ってきた佐助は傷に触れないようもう一度を抱きかかえた。
「ほら、また無茶する。あんな奴道連れに死のうとしないでよね」
「……ごめん」
「あら、素直。じゃあ城に戻るよ。手当てしなきゃね」
ふと佐助はある違和感に気づいた。
の左手が佐助の着物を掴んでいる。
「来てくれて………ありがとう…」
「…っ…どういたしまして」
一瞬動揺しそうになってしまったが、なんとか平常心で返事をした佐助。
もしが怪我をしてなかったら抱き締めていただろう。
「!!すまん!!某が遠乗りに誘ったばっかりに!!」
「いいですよ。俺がはぐれたのが悪いんだし」
「しかし…」
「ほーら旦那!はまだ完全じゃないんだから騒がない!」
「う、うむ…。では某、団子を買ってくるでござる!!待っておれ!」
ダダダっと風のように走り去っていく幸村。
必然的に部屋には佐助との二人きり。
「…じゃあちゃんと寝ときなよ。また夕餉持ってくるから」
「…っあ!」
「…え?」
出て行こうとする佐助の着物を無意識に掴んだ。
思わぬ事態に佐助も間の抜けた顔をしてしまう。
「…っ…寝ろって言ったってそんなすぐに寝付けないし…。眠くなるまで話し相手になってくれてもいいじゃねえか…」
「……」
無意識とは言え、自分がこんな子供みたいなことをするとは思わなかったの顔は真っ赤に染まり
それを見てしまった佐助までもがつられて赤くなる。
「仕方無い。寂しがりなちゃんの為に俺様が添い寝してあげましょうか」
「ちょ、調子に乗るな!…!!〜〜〜〜!!」
「騒ぐと傷に触るよ〜?」
「変な事したら…たたき出すからな…」
「はいはい」
「戻ったぞ。どうだ具合は……お?」
幸村が見たのはまるで子供のように安らかに眠ると珍しく熟睡している佐助。
どちらもあまり眠りが深いほうではないので普段は人が来るくらいの気配で起きてしまうのに。
「…なんだかんだ言ってお互い想いあっているのだな」
そっと障子を閉め、部屋を後にする幸村。
眠る二人の手は離れる事のないよう繋がれていた。