(仁王視点)
「何言うとんや!!そんなの危険やで!!」
「そうだよ!それにそしたらはどうやって出るって言うの?!」
忍足と滝が考え直せと言う風にを止める。
だがそれを横に首を振ることで拒否する。
「出ることなら心配要らない。それにお前らだって危険なことなんだ。
オレが幾ら惹き付けてもお前らが見つからないように外に出れなければ意味が無い」
俺達みたいななまじ霊感が強い奴等はそれだけで霊を惹き付けてしまうからのう…。
確かに理屈は解るんじゃが…そう言うて納得する奴等じゃないぜよ…?
は燃えるような赤い髪をかきあげるとフッと力を抜いた笑みを見せた。
「別に信じてくれなくても良い。お前らは出ることだけを目指す、ただそれだけだ」
の真剣な目を見て、異議を唱える奴はいなかった。
「じゃあオレが先ず一階に降りる。二分経ったら玄関を目指せ」
が準備体操を終え、出口に手をかける。
そのの服の裾を誰かが掴んだ。
越前が不安気な顔で引き止めていた。
「……本当に大丈夫なんだよね?」
「安心しろ、お前らは無事に出してやるよ」
「…っそうじゃなくて!」
ここで越前が心配しているのは自分達の安否じゃない。
むしろ1人囮になるの方だ。
「お前らと出会えて良かったぜ、リョーマ」
出て行く前に見せた笑顔は俺達を魅了するには充分過ぎた。
「…そろそろ二分ですね」
日吉がそう言うと廊下に出た。
物音は一切しない。
正直静か過ぎて不安になるが…今は確かに何もいない。
「よし、行くぞ」
俺達は一階に降りると一気に玄関を目指した。
ここで俺達が別の奴等に見つかったらの頑張りが無駄になってしまう。
玄関の光が見えた。
だが、そこで出会ってしまった。
「!!!まずい“テケテケ”だ!!」
上半身だけの生徒の霊。
手には巨大なはさみを持っている。
それが猛スピードで俺達の背後からやってきた。
「うわあ!!!」
ズダンっ!と大きな音を立てて不二が転んだ。
床もそれなりにボロくなっている所為で剥がれた床板にでも足を引っ掛けたのだろう。
「不二、走れ!!」
「…っうわあああああああ!!!!!」
テケテケは不二に狙いを定めたらしく、その巨大なはさみを構えながら物凄い速さで近づいた。
助けようにも距離がある。
「…馬鹿野郎!人の努力無駄にしてんじゃねえ!」
その時、声が聞こえた。
不二とテケテケの間に影が飛び込んだ。
「…っ!!!!」
叫んだのは誰だっただろう。
其処には確かにの姿があった。
あの細い体の何処からそんな力が出るのだろう。
不二を掴み、立たせると俺達の方へ突き飛ばした。
「さっさと行け!!!!!」
その声を引き金に俺達は走り出した。
玄関口の戸を全員で突き破るように開け放つ。
それは驚くほど簡単に開いた。
行き場を失った俺達の体は投げ出されるように外へ出た。
「…っ……皆いる?」
「…俺はおるでー…」
「俺もだ。越前、日吉、不二いるな」
「うっす」
「はい…」
「います…」
「以外は…おるぜよ」
どんなに見渡してもの姿は無い。
全員の表情が暗くなる。
助かったが、それはという“犠牲”があったから、という事実が心を刺す。
「…?不二、お前何か背中に付いているぞ」
「え?」
日吉が不二の背中に手を伸ばす。
不二の背中にあったのは小さな紙。
「…っコレは…皆さん!見てください!!」
日吉が見せたその紙には、
《何かあったら必ず呼べ》
走り書きのような文字で書かれた言葉。
だけどそれがのものだと俺達は信じて疑わなかった。
きっと彼は大丈夫だ、と何処から来るのかわからない自信があった。
「…また、会えるよな……」
旧校舎が夕焼けで赤く染まり、彼の髪の色を思い出させた。
「仁王さん!」
翌日、日吉が俺の所へ現れた。
その手には一冊のノート。
「なんじゃ、そのボロボロのノートは」
「…これ…旧校舎の外に落ちていたんです」
「!!…まさか」
「…はい。さんが言っていたノートです」
この間のメンバーを学食に呼び出し、ノートを開く。
そのノートには確かに旧校舎の幽霊のことが書かれていた。
そして最後のページに書かれていたのは他のと全く違う文だった。
“僕は1人の変わった霊と出会った。
最初は他の霊同様、人間を嫌っていたけれど悪さ等はしてこなかった。
どちらかと言うと関わるのが面倒くさい、と言う風に彼は言った。
だが幾度と会う内に彼と僕は段々と話すようになった。
こんな霊もいるんだな、と思い彼に会うのは少なからず僕の楽しみになったようだ。
燃えるような赤い髪、一見すると人間と変わり無い外見。
だけど、彼は“人ではなかった”。
あの優しい笑顔はとても印象深かった。
ある時、追い詰められた僕を助けてくれたのは彼だった。
《助けろ、と言えば出てこなかったのに》
と彼は言った。
その時彼の正体が判った。
彼は心優しい《天邪鬼》だったのだ。
それ以来彼とは会えなくなった。
恐らく僕を助けてくれた時に力を使い果たしてしまったのだろう。
それでも僕は忘れない。
ありがとう、僕の大切な友人”
「……これ…って…」
「…このノートに書かれていることが真実だとするならば…」
「あの人…さん…はもしかして…」
思い返せばの言葉は全て遠まわしに伝えるようなものが多かった。
最後の《信じてくれなくても良い》とあの時言ったのは天邪鬼ならではの言い方だったのだろうか。
《信じろ》という言葉の裏返し。
不「…あの旧校舎に行けば会えるんすかね…。俺まだお礼言ってないっす…」
柳「…そうだな。俺達は彼のお陰で此処にいるんだ」
日「もう一度入るのは自殺行為ですけどね。行かない訳にいきませんでしょうし」
滝「封印のノートも見つかったんだし、これで旧校舎の霊も封印出来るしね」
忍「なら、決まりやな?」
越「会いに行くってことっすね?」
仁「当然じゃ。…待っとれよ…」
天邪鬼とは反対の心を持つ青年。
俺らの夏は此処から始まった。
闇夜のワルツ