(柳視点)
「取り合えず此処にいても仕方が無い。ノートを捜すのが今は最良だ」
俺達は手分けをしてノートを捜すことにした。
半々に分かれて校舎をくまなく捜す。
今は出そうな場所は避けて、それ以外の教室などから探ることにする。
「、その封印を行った者について何かわからないか?それが場所のヒントとなるかもしれない」
年上だと言う事も判って呼び方を訂正しようと思ったが、は“別にそのままでいい”と言ったので最初と同じ呼び捨てのままだ。
「…ここの生徒だったのは確かだぜ」
「そうか…。なら教室には無いだろうな。それなら既に見つけられているはずだ」
「ということは多目的教室とか…ってことは理科室や音楽室も調べなきゃいけなくなるんですね」
避けたい場所に限って避けられないということか。
だが普通の教室などは隠す場所があまりない。
机やロッカーはクラスが変われば点検される。
「では半分に分かれよう。後、出来るだけ対処法を教えておこう」
組み分けの結果は
柳・忍足・不二・滝
仁王・日吉・越前・
俺や日吉は多分霊感の強さがこの中では上の方だろう。
その次は滝と仁王、忍足。
不二と越前はいることは判るが対処が出来ないだろうからな。
は一番年上ということもあり、一番下の越前の居る方に入れてみた。
「それでは此処を拠点として捜そう。幸い此処は多目的教室の少ない二階だ」
「出るものも少ないってことですね…。では先ず二階を先に片付けましょう」
「ええな、じゃあ二階の端にある第一理科室と第二理科室じゃな」
「其処を調べたら一回此処へ戻ろう」
教室を出ようと立ち上がると不意に誰かに肩を叩かれた。
それはだった。
「蓮二、何かあったら呼べよ。必ず呼べ」
その目はとても真剣で、俺の心にあった不安が綺麗に掻き消された。
「わかった。必ず呼ぼう」
そう返したらは眩しいくらいの笑みを浮かべた。
俺はその笑顔程、綺麗だと思ったものは無いだろう。
「なあ柳、さっきと何話しとったんや?」
「ああ、“何かあったら呼べ”と言われた」
「へえ、心強い言葉だね。彼1人でこの中に入る程の強者だし、ほんとに何とかしてくれそうだ」
俺達が向かったのは第二理科室。
元々高天原学園はマンモス校だから理科室に限らず教室は二箇所あるものもある。
音楽室だって新校舎は三箇所あるしな。
「さて…それでは手分けをして捜すか」
廃校になったとは言え、何故こんなにも物が残っているのだろう。
引き出しや、棚は目に見えて空と言う事が無い。
お陰でノートを見つけるのも一苦労だ。
「柳、理科準備室見てくるね」
「ああ、判った。それなら不二、滝を手伝ってやってくれ」
「うっす。わかりました!」
忍足と二人で理科室内を捜すが何も見つからない。
そろそろ他の四人も一度教室へ戻った頃合だろうか?
「アカンなあ…無いでぇノート」
「滝達も何も見つからないみたいだな、一度教室に戻るか」
「ほな声掛けてくるわ」
忍足が準備室へ向かうのを見ながら、今しがた自分が調べた所を元に戻す。
「…物があるのは…まるで準備をするまでもなく此処を後にしたような…。すぐ此処を出なければならなかった…?」
此処ごと捨てて、新しい校舎を建てた…?
「……に…ク…ぃ」
!!!しまった…1人になった所を狙われた…!!
振り返ると其処には焼けただれた顔の男。
そういえば学校の図書室で何十年前の記事を見た。
昔この学校の理科教師が授業中にふざけていた生徒の手によって硫酸を頭から被ってしまい消えない傷をおった。
その所為で自殺したと…。
男は俺の首を両腕で掴むとギリギリと絞め出した。
「…あっ…ぐっ…」
おかしい、何故隣にいる忍足達は戻ってこない?
霊感のある彼らなら此処に霊がいるはずなのは気付いている筈なのに。
ドンドンとドアを叩く音がする。
まさか、霊によってドアを閉じられているのか?!
「憎い…ニクイ…にくいにクイにくイニくいニクイニクイニクイ!!!!!」
「…っあ…やめ…」
まずい、意識が飛びそうだ。
“何かあったら、必ず呼べよ”
の言葉が甦る。
だが、此処で呼んだところで、第一理科室にいるに届く筈が無い。
たとえ届いてもドアは開かないのだから入ってこられない。
だけど俺は、呼んだんだ。
「……っ――――!!!!!」
一層男の手に力が篭る。
ヤバイ、意識が遠ざかる。
俺の手から抵抗する力が抜けた………。
「どけ!!!!」
俺の上に圧し掛かっていた男が吹っ飛ばされた。
解放される首。呼吸がままならず咳き込んだ。
「…ッゲホ…ゲホ…っ……?」
「蓮二、大丈夫か?悪いな遅くなって」
「いや…正直助かった。…アイツは?」
「蹴った場所が良かったらしい、消えてくれたぜ」
笑顔で俺に手を差し出す。
その手をしっかりと掴む。
「しかしどうやって―――…」
「蓮二が呼んだからだろ?だからオレ来たんだよ」
あの教室まで俺の声がどうやって届いたのか
どうやって此処へ入ってこれたのか
聞きたいことは沢山あったのに、の笑顔を見たらどうでも良くなった。
大事なのは“呼んだら、来てくれた”と言うこと。
「柳!!大丈夫!?」
「急にドアが開かんくなったから何かあったかと思うたけど入れへんし」
「あ、あれ…?さんなんで此処に?」
どうやらアイツが消えた事で扉が開くようになったらしい。
「蓮二が呼んだからな」
この時、俺はとてもこの男を頼もしく思えた。
一度教室に戻ると中には既に戻っていた三人が俺達、正確はを見て驚いた。
「さん!?いきなり出て行くから驚いたんですよ?」
「参謀の声が聞こえたとか言うて出て行った時はまさか思うちょったが…ほんまに聞こえたんじゃなあ…」
「どんだけ耳良いんすか、アンタ」
「聞こえるんだよ、オレには。蓮二以外の奴でも聞こえるぜ」
不思議だ。
今日会ったばかりのを、心の底から信頼している自分がいる。
だからあの時名を呼んだんだ。
絶対にが来てくれると思ったから。
「俺達の方は何も見つからんかったぜよ。そっちはどうじゃった?」
「なんもあらへんかった。二階はハズレやな」
「ってことは下か上に出なければならないんだな…。だが上は正直危険だ」
上に上がれば逃げ場が少なくなる。
出口が遠ざかる上に階段を塞がれたらやばい。
「……なあ、一回だけなら強行突破が出来るかもしれない」
の声は俺達に希望を与える一言だった。
「…そんなことが可能なんですか?」
「ああ、逆に言えばこれしかない。それに一度使ってしまえば二度は通用しない技だ」
賭け、とは言った。
だが彼の言葉は信用しても良いと俺は思う。
彼は嘘は言わない。
「此処を支配している霊の力が緩めば外へ出られる。奴等が別のことに気を取られていれば良いんだ」
「
でも…それをどうやって…」
「廊下をウロウロしている奴らはいわば見張りだ。そいつらの気を惹きつける」
「それは危険じゃないの?一体や二体じゃないんでしょ?」
「ああ、だからこそ賭けなんだ」
神妙な顔で言う。
何故だろう、俺はこの時嫌な予感がした。
「だが、何体も惹きつけるのは難しい。そこで、一階にいる奴を二階に惹き付けることさえ出来れば良い」
一階にいるのは先程の“ひきこさん”。
それからの話では学校中を動き回る“テケテケ”だと言う。
「…誰が、惹きつけるんすか」
越前の言葉に皆が黙る。
これは一番危険な囮役だ。
その時、が柔らかい笑みを浮かべて言った。
「オレがやる」
ああ、俺の嫌な予感はこれだったんだ。