(越前視点)

辺りはかび臭いし、床はギシギシと今にも崩れそう。
こんなにボロイくせに外に出れる道は全て閉ざされている。



「やられたかもな…。俺達は閉じ込められたんだ。この中の奴等に」
「…この中の奴等って…まさか…」
「じゃろうなぁ。携帯も特殊な霊波で妨害されとるんじゃ」



誰も「信じられない」と言う顔はしていなかった。


それは俺達全員が少なからず霊感を持っているからだ。
















「柳はこの学校のことを知ってるのかい?」
「…此処はあの後ろの山と深く繋がりがあるらしい」



窓の外は山。
旧校舎の裏手はこの山しかない。


「此処は霊道が通る場所だ。しかしこの学校が建ったことにより霊が此処へ集まりだした」
「…それでこの校舎が壊せないってことですか」






古い校舎は霊のたまり場。






「だが、昔此処にいた霊は一度あの山に封印されたはずだ」
「…ほな封印が解けたっちゅーことか…?」
「そういえば開発だとかで最近あの山で工事してません?」


それにより封印が解けてしまったんだ。
甦った霊は再びこの学校へ戻ってきてしまった。






「だとすれば此処は危険と言う事だ。封印されたことで霊は人間を怨んでいるだろう」









背筋にぞくっと戦慄が走った。

こういう時は、良くないものがいる。















越「…先輩」

柳「ああ…来たな…」

仁「格好の餌食っちゅーやつじゃな。俺達は正に狼の群れに放り込まれた羊ぜよ」

忍「呑気な事ゆーとる場合か!!」

滝「忍足、大声出さないでよ」

不「…どどどどどどうする?!」

日「不二…少し落ち着け」













玄関にいる俺達の後ろはにゅっと伸びた長い廊下。
曲がり角の所に何かが居る。



雷が鳴り、辺りが光った。

その時壁に映し出された影は、長い髪を振り乱した女。






「…良いか。相手が何を問いかけてきても答えるな。迂闊に答えれば引きずり込まれる」
「了解ッス…」



俺の隣にいる日吉さんはなんかすっげえ落ち着いているように見える。
……そういやこないだ「発見!全国の七不思議」って本を読んでたような…。
好きなのかな…こーいうの。







「来た!」





現れたのは長い髪で顔が隠れて見えないけど、女の子。
高天原高校のではない制服を着ている。








「私は、醜いか?」




聞こえてきた質問に俺達は口を閉ざした。

何故なら










髪の毛の間から見えた顔が











恐ろしく、醜かったから。








まるで引き摺られた後のように顔はぐちゃぐちゃになっていた。








「…っひ!!…」
「馬鹿!喋るな!逃げろ!!」


日吉さんの声を合図に俺達は左の道へと逃げた。
真っ直ぐの廊下にはアレがいるし、道はこっちにしかない。










ァたしぁ、ミにクかぁ!!!!!」










俺達の背後からアレが追ってきた。
テニス部で日頃鍛えてる俺達ですら限界まで早く走っているのにアレはどんどん追いついてくる。

何も考えず走っていると咄嗟に腕を引かれ、近くの教室へ引きずり込まれた。







…………







「…行ったみたいやな」

俺を引きずり込んだのは忍足さんだった。
助けてもらったのは有難いけど…はずみで床に叩きつけられた。いてぇ




「な、なんだ…あれ…」


不二さんが息を切らしながら真っ青な顔で言う。






「あれは…“ひきこさん”だろう」




「ああ…俺も聞いたことがあります。確か『森 妃姫子』と言う名前の女生徒の話ですね。
 
教師に贔屓されたことで妬んだ生徒が彼女を苛めたと言う話です」




「ああ、彼女はイジメの主犯格に髪の毛を掴まれ引き摺りまわされた。そして顔に一生ものの傷をおってしまい、自殺した」









その話を聞いただけでぞっとした。
イジメにしたって度を越しすぎじゃないかと。


日吉さんや柳さんの話じゃ、色々説がありすぎて簡単には片付けられないと言っていた。



「じゃああれはどうしたら引いてくれるんじゃ?」


仁王さんが指を指すと、俺達が入ってきた入り口にバン!と大きい音を立てて手が映る。
外からアレが俺達を引きずり出そうとしてるんだ。



「それは……「アカン!!コイツすごい力や…!!
わあ!!忍足?!




扉を押さえていた忍足さんが吹っ飛ばされた。
そして開け放たれた扉の向こうにいたのは“ひきこさん”。




「…どうすんだよ!!日吉!」
「落ち着け、不二。手はある……」









その時、静かな声が響いた。















「引き摺るぞ、引き摺るぞ、引き摺るぞ」














「ぎゃああアアァあぁアアァアア!!!!」









物凄い奇声と共にアレは逃げていった。







声の主は滝さんだった。



「今の話聞いて思い出したんだ」






穏やかな笑みを見せる滝さんにホッとした瞬間―――。














「へえ、おまえらやるなあ」


















この中のメンバー以外の声がした。





「!!!」
「しまった…!見つかってもうたか…!!」



辺りを見回すが誰も見当たらない。
すると俺の肩に誰かが手を置いた。
今忙しいってのに誰だよ!




「何すか!今急がしいんすよ!!」


「…?越前何を言い出すんだ?」

「は?だって誰かが俺の肩に――…」






目の前には俺以外のメンバーがいた。
と言うことは俺の背後は誰もいないんだ。











じ ゃ あ 俺 の 後 ろ に い る の は―――……???














「え、越前…後ろ……」


怯えた顔で俺の後ろを指差す不二さん。




そっと振り返れば見えたのは白い手。








「うわああぁぁぁああっ!!!」





俺は急いでその場から離れた。

勢いあまって、前にいる不二さんと仁王さんにぶつかったが、全員そんなことは気にしてなかった。


俺の後ろにいたのは学ラン姿の青年。







「そんなに驚くなよ〜傷付くじゃん」

「へ…あれ…?ひ…と…?」





ケタケタと楽しそうに笑いを零していたのは俺より幾つか年上の人だった。
暗い学校内でもはっきり見えるくらいの赤い髪。
丸井さんとはまた違った濃い緋色。











「君ら閉じ込められた口だろ。オレもオレも」








「…脅かすなよ〜…。あれ、でも学ランって…ウチの生徒じゃないのになんでこんなとこに?」
「いやあ、面白そうな建物だと思って探検してたんだ〜。此処で会ったのも何かの縁じゃないか。是非一緒に行こうよ」
「そやな。運命共同体やし、ええやろ」


一人で来たのか。物好きな人。



滝さんが代表して尋ねた。

「ところで君は名前は?」




「…って呼んでくれ。お前らは?」


「俺は仁王雅治じゃ。適当に呼んでよか」

「忍足侑士や。俺も適当でええで」

「俺は滝萩之介だよ、よろしく」

「日吉若です」

「俺は不二裕太…です」

「越前リョーマ」

「俺は柳蓮二だ。は霊感はあるのか?」




「さあ。でもこの校舎に入れば誰にでも見えるよ。それだけ強いんだろうけどさ」

そういえば俺も、前まで《いる》ということしか判らなかったのに…此処でははっきり見える。









さっきのアレがまた戻ってこないうちに俺たちは移動することにした。
とは言え、ウロウロしていたらまた他のと出会っても嫌だし、別の教室へ移っただけだけど。

















「多分だけど、七不思議関係の場所には霊がいると思うんだ」



滝さんが黒板に場所を書く。





音楽室・体育館・女子トイレ・理科室・保健室。


これらは何処の学校でも共通した七不思議のある場所。
そこらは避けて通るべきだろう。

だけど廊下を徘徊しているモノもいると言うのだから全部避けれるかはわからない。






「でもどうやって出るか、だよな…。ドアが開かなきゃ意味ねーし」




そう、それが問題なのだ。
会わなくても出られなければ意味が無い。


「あ、オレ聞いたことがある!!」


その時さんが勢い良く手を挙げた。




「確か、昔もユーレーが暴れてた時誰かが封印したらしいぜ。んで、その時書いたノートは学校の何処かに隠したんだって」

「成程。そのノートなら対処法も書いてあるかもしれないな。封印は無理でも出くわした時にどうにかなれば幾分かマシだ」



逃げ回るのにも限界がある。
さっきみたいに足の速い奴なら特に。






「…なんでお前さん、そのこと知っとるんじゃ?」




「オレ此処出身だから。お前らより年上だよ」
「え?!高校生だったんすか!?」


驚いた。中三かと思ったのに。



「で、さっき萩ノ介が書かなかったところで、この学校に後あるのはー…」


さんが黒板に書き足していく。




東階段の鏡、美術室、男子トイレ





「七不思議…じゃなくなってません?」

「この学校の七不思議に保健室は入ってないからなー。でも七不思議以外の幽霊も居るから一緒だろー」





「それじゃあこの校舎って…」

「正に幽霊の溜まり場だ」