(黒川視点)



「……」

「お、おい翼大丈夫かよ…。お前ここんとこずっと顔色が悪いじゃねえか」


此処三日ほど、翼は日に日にやつれていく気がする。
流石に今日は青白い顔をしていたから部活はやめろ、と言っておいたけど…



「体動かしてる方が気が紛れるんだ…」



と言って無理をして部活に出ている。



だがサッカーは日中走り回っているような球技だ。しかも今日は休日練習だから練習時間も長い。
それを体力の無い今の翼がやっていれば、夏の暑い今日は……
















「誰か!!椎名が倒れた!」



熱中症になって当たり前だ。


























保健室へと翼を運べば、休みなので保健医はいなかった。

仕方なく、ベッドに翼を寝かし水分と濡らしたタオルを用意する。






「…っう…うあ…」
「…魘されてるのか?」





小さく呻き声が保健室に響く。

見れば翼は眉間に皺を深く刻み、脂汗を流しながら唸っている。
一体何があったんだ?






『おうおう、こいつはひでえなあ』




ふと、聞き覚えの無い声が聞こえた。

男の声なのは判るが、此処には俺と翼しかいないはずなのに。







『重症だなあ。でもここまで耐えるなんてやるな、こいつ』



「誰だ!!」




顔を上げればいたのは、窓際に座る黒猫が1匹。
窓の向こうに誰かいるのかと思い、見てみるが人の気配は無い。





「…まさか、な」



誰もいない。
聞こえた声。
黒猫。




「……まさか…だよな…?」


じいっと黒猫を見つめてみる。








『よ』




「・・・・・・・・・喋った」




『にしちゃあ驚いてないなあ。つまらん』





聞き間違いだと思いたいが、今度はしっかりと聞いてしまったし見てしまった。



この猫が喋っているのを。







「〜〜〜〜〜〜な!!?」
『そういう反応が見たかったんだよ♪テニス部はあんま驚く連中少ないから』



咄嗟に距離を置いてしまったが、猫はその場から微動だにしない。
楽しそうに笑いながら、尻尾を揺らし始める。



「お…お前誰だ…!」
『ちょっくらこの人形の体を借りてるモンだ。それよりこいつ危ないぞ』
「…は?…翼が…なんだって…?」







『憑かれてる。しかも結構前からだな』



猫はひらりと窓から降りると翼の傍に行った。
翼の顔を覗きこみ、顔色を伺う。


『あー…厄介なのに好かれてるなあ…。おい、このままだとこいつ死ぬぞ』


「…は?!死ぬって…翼がかよ!!?」



突拍子も無いことをいきなり言い出す猫に思わず大声で反論してしまった。
その声で一瞬翼が身じろいだが、目覚める気配は無いようだ。

どうせ、コイツは寝不足でその上無理して部活に出るから熱中症になっただけだ。



『信じるか信じないかはお前次第だけどな。このまま生気を吸われ続ければ魂を食われる』


蒼い目が俺を射抜く。
真剣さが伝わってくる。

コイツが言っていることは嘘じゃない、と。






―――コンコン

「黒川、そろそろ部活終わるんだけど――…」



「!!あ、ああわかった」



保健室のドアをノックしてきた笠井の声に驚き、猫の方から目を離した。
再び視線を猫に向けようと戻せば、猫はもういなかった。




「…アイツは一体…」



「…ん…」

「翼?!」




眠っていた翼が目を覚ました。



「…柾輝、さっきの猫…もう一度見つけてきてくれる?」
「え?…お前起きてたのか?」
「ついさっきね…。あの猫渋沢が知ってるから…頼む」
「あ、ああ」



弱々しくそう言う翼が痛々しく、俺は迷わず保健室を飛び出した。
向かうは渋沢の元へ。










「…渋沢は?!」
「…もう帰ったが。なんだ、いきなり。倒れた椎名の看病をしていたのではないのか?」



渋沢と同じGKの不破を捕まえ、所在を聞いたがもう帰ったと言う。
僅かな手がかりだったのに……と俺ががっくり肩を落としたを見て不破が問う。



「何があった?渋沢に用事だったのか?」
「用事って程でもねえけどよ…。猫知らねえかって聞きたかっただけだ…」
「猫?それは最近学校内をうろついている黒猫か?それならさっきあっちに行ったが…」



不破が指す先はテニスコート。



そう言えばさっきあの猫…




『そういう反応が見たかったんだよ♪テニス部はあんま驚く連中少ないから』



と言っていたような…。




ってことはテニス部はなんか知ってるのか!!??






もうすぐ部活強制終了時間だ。
ということはテニス部の奴等も帰ると言うこと。

俺は急ぎテニスコートへ向かった。




「なんでついてくるんだ?!」
「俺もあの猫に興味がある。ついでだ、気にするな」
「するなって…ハー…」




成り行きだろうか不破を引き連れる形になったが、兎に角テニスコートを目指す。





















「スンマセン!!ここら辺に黒猫来なかったッスか?」



残っていたのは生徒会長をしている跡部先輩と、テニス部部長の幸村先輩。
それから俺と同じ二年の切原、そして鳳だった。




「黒川じゃん。猫?…見たか鳳」
「いや…今日はまだ見てないなあ。それって確か幸村部長の…」
「俺の猫に何か用かな?」


「あれは幸村の飼い猫だったのかよ。だが昨日は越前が連れて帰っていたぜ?」
「一応所有者は俺なんだよ(体は)」



何やら含みのある会話だったように思えるが、そんなことはどうでもいい。
今は猫を見つけるのが先だ。





「それでっ今はそいつ何処にいるんスか?!」
「そいつならさっき慈郎とじゃれ合ってたぜ。とは言え、一方的に慈郎が構ってるだけだがな」



あっちの部室裏の樹の下にいるぜ、と言われ俺は走り出す。
不破は勿論のこと、何故か切原と鳳までついてくる。
もう、今は構っている場合じゃないので放っておこう。







「いた!!」

「んあ?」





言われた場所に居た芥川先輩の腕の中には黒猫。
それはまさしく、俺が捜していた猫。




「見つけた!!ちょっと来てくれ!!」
「え?あ、おい!!俺がそいつと遊んでたんだぞ〜!」



奪い取るような形になってしまったが、これでやっと翼の元へコイツを連れて行ける。












『…臭い。…おい、急げ!!!』

腕の中の猫が突然怒鳴りだした。
俺にも何かぞわりと嫌な寒気がしたのがわかったから、走る速度を上げた。






保健室の扉を乱暴に開け、ベッドのカーテンを引くと其処には髪の長い女が翼にまたがっていた。
その女の手は翼の首にかかっている。







「…っ!!何やってんだ!!てめえ!」
『チッ…!』



猫は俺の腕から飛び出し、女に飛び掛った。
女は奇声を上げ、猫を叩き落とした。


『ええいこの小さい体じゃままならん!』


華麗に着地し、再び女に飛び掛る。
俺はその間に翼を担ぎ、保健室を飛び出した。



「お、おい…アレなんだよ!」
「血まみれの女の人…!?」
「有り得ん…」


切原や鳳、不破も俺の後に続き保健室を出る。
多分奴等もいっぺんに色んな物を見てしまい、頭が混乱してるのだろう。


その時、階段から降りてきた銀髪の人に切原が捕まった。


「お?赤也何しとんじゃ?廊下走っとったら真田に殴られるぜよ」
「仁王先輩!!!あ、あの…へ、変な女が、猫が!」


切原の言ってることは滅茶苦茶だったが、仁王と呼ばれた先輩は“猫”と聞いた瞬間顔色を変えた。


「何処じゃ!?」
「え…?ほ、保健室っす!」
「お前らは日吉か柳を呼んできんしゃい!」


仁王先輩は俺達が今しがた来た方向、保健室へと向かって走ってきた。






「なんだかわかんないけど、俺日吉捜してくる」
「じゃ、俺柳先輩捜す!」


俺と不破を残し、二人は捜し人を求め走っていく。



「…う…ゲホゲホ…」
「翼!大丈夫か!?」
「椎名、何があった?」



うっすら目を開ける翼は、先程よりも弱っていた。
首を絞められた跡が痛々しくある。




「…夢を見るんだ…。毎晩毎晩、血まみれの女が俺の所に来て、俺を殺そうとするんだ…」


青白い顔からはいつもの自信に溢れる翼が全く想像つかない。
ガタガタと震え、血の気の引いた顔は更に白くなっていく。



「科学的には根拠が無いことだが…あれは霊的類なのか?」
「…そんなもんいるわけが…と言いたいとこだが実際見ちまったしなあ…」


あんな人間いてたまるか。







しばらくして鳳が日吉を、切原が柳先輩を連れ戻ってきた。
事情を説明すると連れてこられた二人はすぐさま保健室へと行き、その後仁王先輩と一緒に出てきた。
仁王先輩の腕には猫。





「これから何言うても驚いちゃいかんぜよ」

「事態は結構深刻のようだからな」