(椎名視点)
サッカー部のグラウンド横のベンチで寝ている黒猫がいる。
先日、テニス部の連中があれを連れているのを見たことがある。
と言うことはテニス部の誰かが飼っているのだろうが、何故それが此処にいるのだろうか。
俺はその猫に近づいてみた。
「まったく学校に猫連れてくるなんて非常識な奴等。ていうか連れてきたなら連れて来たでちゃんと見張ってろっての。
車道にでも飛び出したりしたらどうすんだよ」
すやすやと心地良さそうに寝てる猫をそっと抱き上げてみたが起きる気配は無い。
どんだけ人馴れしてんだろうね…。
ん?この猫がクッション代わりに敷いてるのって…誰かのタオルじゃない?
これ……K・Sってイニシャル入ってるけど…此処にあるからにはサッカー部の奴だよね。
K・S……将?(風祭K・将S)それとも真田?(一馬K・真田S)
名字が先に来るように書いてるなら将じゃないよね。でもアイツなら間違えて書きそう…。
「椎名!其処に俺のタオル無かったか?」
「…渋沢…?…ああ、渋沢か!」
克郎K・渋沢S ね!
って、そんなのどうでもいいか。
「はい、この猫が上で寝てたけど」
「猫…あ…此処にいたのか」
「え、渋沢コレ知ってるの?」
渋沢は俺の手から猫を受け取ると、眠っているかどうか確認した。
「…起きてない…。椎名、触っても一度も起きなかったか?」
「まあね。今までずっと熟睡だよ」
「そうか…。それなら良いんだ。じゃあ俺はこの猫を置いてくるな」
「え?ねえそれ渋沢の猫なわけ?」
「いや、違うけど誰かの飼い猫じゃないんだ」
そう言うと渋沢は猫を持ったまま、何処かへ走っていった。
何アレ。
何か、おかしい。
「…さん。起きてください、さん」
『…んー…あ?あれ、克郎じゃねえか。…誠二は何処だ?』
「藤代ならミニゲームが終わったので着替えに行きましたが…」
『アイツ寝てたオレをテニスコートからグラウンドまで連れてきたんだ』
「ああ…それで…。でも寝すぎじゃないですか?さっき抱き上げられても起きませんでしたよ」
『え?っかしーなあ…。知らない奴が近づいたらオレすぐ気づくのに…』
校舎裏でボソボソと会話している渋沢。
…アイツしかいないんだけど、渋沢誰と喋ってんの?
もしかして、頭打った?
「どうします?これから」
『んー…若の所にでも行くかな。アイツ最近色々変なもん持ってんだ。猫じゃらしとか鼠のおもちゃとか』
「(日吉…)そうですか。じゃあテニス部に…」
「渋沢、誰と喋ってんの?」
「『!!!』」
声を掛けたら飛び上がるんじゃないかって位渋沢が驚いて見えた。
冷静を保って此方を振り返るが、冷や汗ダラダラなんだけど。
「い、いやなんでもない。で、電話だ電話」
その携帯、今出したでしょ。
辺りに渋沢以外の人影は無い。
まあしいて言えば…猫だけだよね。
確実に二人分声が聞こえたのに。
『ああ…??なんかコイツ、懐かしいニオイすんなあ…』
「(しー!!今出ちゃ駄目です!)も、もう練習終わりだよな。それじゃあまた明日!椎名」
「あ、ちょっと…」
いつもの落ち着いた雰囲気は何処へやったんだって言うくらいに慌てて走り去る渋沢。
怪しい、としか言いようが無いんだけど。
明日問いただしてみるか。
『みゃあ〜』
「!!…さん…何処行ってたんですか…」
「すまない、うちの藤代が勝手にグラウンドへ連れてきてたんだ」
日吉はを捜してテニスコートの傍から、部室までを探し回っていた。
だが、何処にも見当たらないし、誰も知らないと言うので旧校舎に戻ったのだろうかと思っていた矢先
背後から猫の鳴き声がした。
振り返れば其処には黒猫を抱いた渋沢の姿。
『精市はもう終わっているか?今日はアイツんち行くことになってんだ』
「……(また先越された…)はい終わってます」
日吉はを渋沢から受け取ると、一礼し幸村の所へ向かう。
渋沢は役目を果たしたと、ホッと溜息をつき自分も帰ろうと部室へと足を向けた。
「…ったく、最近はタチの悪い馬鹿が多いんだから」
帰る途中に絡んできた男二人が地面に伏している。
俺の事を女だと勘違いし、ナンパしてきたから制裁をくわえてやった。
回し蹴り一発ずつ貰ったくらいで倒れるなんて鍛え方が足りないんじゃない?
足止めされた所為で帰るのが遅くなってしまった。
道にある電灯にも明かりが灯され始め、日は完全に沈む。
「すっかり暗くなったなー…。早く帰ろうっと」
足を動かし、我が家へと向かう。
最初は普通に歩いていた。
だが、次第に速くなる足。
それは自分以外に足音がするからだ。
気のせい、ではなかった。
自分が早足になると、会わせる様にそいつもついてくる。
『まだ残ってたのか…めんどくさ』
さっきの奴等の仲間だろう、と思い角を曲がった所で待ち伏せてやろうと一気に走り出す。
サッカー部としての自分は足がそこらの学生より速いのだから油断している相手をあっさり引き離せた。
『さあ…来い!』
しかしいつまで経っても足音は近づいてこない。
不思議に思い、顔をそっと出してみるが誰もいない。
『諦めたか…』
そう思い、体を反転させると
「アなた、キれイな顔シてるわねえ。ワたシと取替えテぇ?」
血まみれの顔の女が眼前に立っていた。
「わあああああぁぁっ!!!!!」
その後、どうやって帰ったか覚えていない。
気がつけば玄関に座り込み、息を切らしていた。
様子のおかしい俺にはとこで同居中の玲が声をかけてきたけど、自分でもわけが解らなくなっていた。
その日以来、俺は毎晩悪夢に魘されることとなる。