それはオレが政宗を迎えに行く前に立ち寄った公園での出来事だった。









基本小学校と言うのは早く終わる為、オレに合わせれば政宗は他の子達より早く帰ることになる。
折角周りに馴染んできて、友達も出来始めたのにそれは可哀想だ。





なのでオレは大概の子達も帰りだす時間帯まで公園で暇を潰すことにした。






ブランコに腰掛け、揺られていると砂場で遊んでいる男の子がいることに気がついた。
見れば政宗と同じくらい、けれど公園で一人で遊んでいるのは何故だろう。
家の方針で幼稚園や保育園に行かないのか、引っ越してきたばかりなのか。





取り合えずオレは見守ることにした。
一応、小さい子が一人で遊んでいるのは気をつけた方が良いだろう。







砂場では見事な作品が作られていく。

オレが小さい頃にはただ砂をかけて山にするくらいしか出来なかったのに…凄い器用な子だなあ。
あっと言う間に砂で城(和風)が出来ちゃったよ。







男の子は手を洗いに水道の方へ向かった。


オレは時計を見て、そろそろ行った方が良いかなとブランコから降りた。




















「あ…あっちへいけ!!!」




ん?


何やら叫び声がする方へ振り向けば、男の子が自分よりも大きな犬と睨み合っていた。


何処かの飼犬ではないらしい、首輪もしてない野良犬。
じりじりと近づくその様子はけして友好的ではないらしい。
牙を出し、唸りながら男の子に一歩一歩歩み寄る。










「…いやいや、あれはマズイよ…。とは言えオレもあんなにデカイ犬は…」










と、オレが躊躇している間にも犬は男の子へと近づいていく。


とうとう男の子はべたりと尻餅をつき、転んでしまった。






それを見てオレはランドセルを犬に向かって放り投げた。







「キャイン!!!」


「!?」



「こっち!」






犬が悲鳴を上げて去っていく。


オレは念の為、男の子を連れて滑り台の上に逃げていたのだがどうやら危機は脱出出来たようだ。

























「ふー…なんとか追い払えたか」


「…こわかった…。かまれるかとおもったぞ…」

「あんなの野放しにしとくなってえの。怪我は無い?」

「…ない…。でも…そなたが…」

「え?オレ?…あ、いつの間に」





無我夢中で気付かなかったが、オレの膝と腕にはかすり傷がついていた。
必死に滑り台を逆走したからどこかで掠めたんだろう。




「こんなの全然痛くねえよ。きみに怪我が無くて良かったし」

「…う…ひっく…!…ぐす…」



潤んでいた目からとうとう涙が零れてしまった。
どうしよう、どうしようと対処に困ったオレは政宗が泣いた時のように抱き締めて頭を撫でてみた。
そしたらもっと大きな声で泣いてしまい、オレは余計にパニクったけれど取り合えずそのままずっと頭を撫でておいた。





























「あ、いた。おーいちゃーん」



呼ばれた、と見れば公園の入り口で手を振っているオレンジ色の高校生。
足元には紅い鉢巻をした小さな男の子。



「うぇ?あれ、佐助さん?…と幸村がいるってことは…。あーーーー!!!やべえ!」





「にぃちゃあーーーーーーん!!!!」





急ぎ滑り台から降りれば突進してくる小さな塊。
それは涙と鼻水でぐしょぐしょになった政宗だった。







「あ…れ?政宗?」



「うぐっ…にいちゃんのばかぁ……!なんできてくんなかったんだよぉ…!」






「俺様よりちゃんが遅いなんて有り得ないと思ってね。なんかあったのかと思って取り合えず伊達さんちに行こうと思って」

「あ…ごめんなさい。色々あって…。ごめんな、政宗」

「良いって事よ。…てか、こんなとこにランドセル放り投げてどしたの?そっちの子も知り合い?」

佐助さんの目がオレの裾を引いている子に行く。

「あ…実は…」

























今までの経緯を話し、ようやく泣き止んだ政宗からお許しを貰った後。


オレはやっとその子の名前を聞いた。






「オレは伊達 っていうんだ。きみは?」
「…毛利 元就…」
「そっか、元就だね。元就はお家この辺?」
「いえはあれ…。きのうひっこしてきたのだ…」




元就の指す方向には立派な日本家屋があった。
これはまたデカイ。
もしかして、元就の家ってお金持ち?!





「そっか、だから一人で遊んでたんだね。じゃあ政宗や幸村と遊べばいいよ」
「そうだね。旦那、ホラ自己紹介!」




「真田 幸村でござる。元就どの、それがしとなかよくしてくだされ!」
「My name is Msamune Date.政宗でいいぜ。よろしくな元就」



「………われとあそんでくれるのか?」




「もちろんでござる」
「もちろんだぜ」






元就が笑顔になり、ちびっこ達は手をとって遊び始めた。

これなら近いうちに元就が政宗達と同じ幼稚園に行く日も遠くないだろう。




















ちゃん。はい、手と膝貸して」
「え?うわ!!」
「あ、ごめん。沁みた?」



急激な痛みは佐助さんの濡れたハンカチだった。
オレの傷口を拭うようにそっと押し当てられる。




「なんか武勇伝があったみたいじゃない。これは勲章かな?」
「そんな大袈裟なもんじゃないけど…」



最後に仕上げとばかりに絆創膏を貼られる。

佐助さんってこういうのよく持ってるなあ。





「取り合えず、夕方の鐘が鳴るまでは好きにさせといてあげて。その後元就を送っていこうか」
「そだね。それにしても佐助さん、今日はほんとにありがとう。政宗連れてきてくれて」

「入り口で物凄い不機嫌だったからねえ。ちゃん大体来るの早いから」
「んー…それが良くないかなと思って時間つぶししてたんだけど。逆効果になっちゃったなあ」
「まあ、元就とも出会えたし結果オーライってことで」
「そかもね」


夕焼けの中、仲良く遊んでいる三人を見ながらオレと佐助さんはそっと微笑んだ。














次の日、政宗を迎えに行くと其処には見事な女王様っぷりを発揮している元就の姿があった。





「いやー…将来が恐ろしい」