「やだやだやだ!!!!」
朝っぱらから戦争が始まっていた。
「だから…政宗様…様は学校なのですから…」
「やだやだ!!にいちゃんといっしょにいるんだ!!」
現在、七時半。
普通なら登校しようと家を出るのだが今日はそうもいかなかった。
何故なら俺の通学鞄を政宗が掴んでいるからだ。
あれから一週間が経ち、やっと家も落ち着いてきた頃俺は学校に再び通いだすはずだった。
しかし、政宗の俺への依存はかなりのようで出かけようとすると駄々をこねる。
仕方なく最初の日は休んだ、だがそれではいつまで経っても学校へ行けないので今日はなんとしても行くはずだった。
「政宗、お前も今日から幼稚園だろ?友達いっぱいだぞ?」
「Friendなんていらない!!にいちゃんがいればいい!!」
コイツの時々混じる英語は向こうの生活の所為かなあ…。
こんな状況にも関わらず場違いなことを考えてると政宗が成実兄に抱え上げられていた。
「ほら、いい加減にしとけ。、今のうちに行っちまえ」
「ごめんな、政宗。行ってきます」
「やっ…にいちゃーーーーん!!!」
わお、凄い罪悪感。
泣き叫ぶ政宗の声を背中にしょって俺は小学校へと向かった。
実を言うと政宗の通う幼稚園は俺の小学校の付属だ。
だから敷地も隣同士だし、結構交流も多い。
だから最初は俺が連れて行こうと思ったんだが…
「あれじゃあ幼稚園でも暴れるしなあ…」
ということで最初は別々に行く事になったのだ。
帰りは俺が迎えに行く、それは政宗が幼稚園に通うことが決まった時に最初に俺が決めた事。
授業中も俺は窓から幼稚園をじっと見つめていた。
昼休みになって―――放送がかかった。
『六年一組の伊達 くん。今すぐ職員室まで来てください』
「え?俺なんかの当番だったっけ?」
「なんだ、。何かしたのか?」
「覚え無いって」
同じクラスの家康の言葉を否定しつつ、頭の中で記憶の糸を手繰る。
やっぱ何もしてないよなあ…。
職員室に行くと明智先生に出迎えられた。
「よく来ましたね伊達君…。早速ですが、幼等部へ行ってください」
「え?」
「君の弟が今日から入ったのでしょう…?どうやらそのことらしいですよ。もう授業も一時間だけですし、なんならそのまま早退でも構いません」
「は…はあ、じゃあ行ってきます」
嫌な、予感がした。
俺が鞄を持って幼稚園に行くと、そこには保育士のまつ先生がいた。
「政宗くんのお兄さんでござりますか?」
「はい…あの、まさか政宗が何か…?」
「慣れない環境の所為もあるでしょう…今日は優しくしてあげてくださいね」
苦笑交じりに言うまつ先生に案内されたのは年中組のクラス。
扉には平仮名で“ももぐみ”と書いてある。
その教室の隅の方に―――小さな塊。
「何やってんだ、お前は」
「…にいちゃん!!」
俺を見つけて飛び込んできた政宗を受け止めて、まつ先生の方を見ると隣に目を腫らした男の子。
…え?まさか…ですけど…
「政宗くんと幸村くんが喧嘩をしてしまったのです。それで…少し政宗くんが幸村くんの頭を叩いてしまい…」
唖然。
まつ先生の隣の子は泣きながら政宗を睨んでいる。
政宗も拗ねているようでふてぶてしい表情でシカトしている。
「政宗」
俺が少し真面目な声で名前を呼ぶと体がビクリと震えた。
ということは自分が悪い事をした、ってのは解ってるんだな。
「なんで叩いたかは後で聞く。まずは謝りなさい」
「…おれ、わるくないもん…」
「誰が悪くても叩いたんならまずはごめんなさい、だろ?」
「……」
「政宗、解るだろ?お前は俺の弟なんだから。訳も無く人を叩いちゃいけないってことは」
昔俺も友達と喧嘩をした時言われた。
父さんは頭ごなしに怒鳴る事は無かったけど、目を見て諭すように言う。
それを聞いて、ああ俺は悪い事したんだなって素直に反省する事が出来た。
『、お前は俺の息子なんだから。悪い事をしたら素直に謝れるはずだ』
「…ごめんなさい」
「よし、良く出来ました。じゃあそれをあの子に言おうか」
まつ先生の影に隠れながらこちらを見ている少年の前に政宗を連れて行く。
ほら、と背中を叩いてやると先程より小さいがちゃんと「ごめん」と言った。
「偉いぞ、政宗」
「…っ」
ぎゅうっとしがみ付いてくる政宗の頭を撫でながら、俺は目の前の子に声を掛けた。
「ごめんな、痛いか?」
「……もうだいじょうぶでござる」
「そっか、強いな…えっと―…幸村」
頭を撫でてやれば先程まで泣いていた顔がへにゃりと笑った。
「それがしもわるいのでござる…。まさむねどのがつくっていたおしろをたおしてしまったでござる」
ははあ、それで反射的に手が出たのか。
「じゃあ仲直りだ。はい、二人共手出して。政宗は叩いてごめんなさい、幸村はお城壊してごめんなさいって気持ちを込めてな」
「ごめんなさいでござる、まさむねどの」
「…Sorry.おれも…わるかった」
ふう、やれやれ。
でもこれで友達が出来たみたいだしなんとか幼稚園に来てくれる気になればいいんだけど。
帰ろうとすると、派手なお兄さんが俺を呼び止めた。
「君中々やるね。そこらの若いお母さんに見習わせたいくらい♪」
「はあ…」
「最近の母親ってどうしても自分の子贔屓するでしょー?そんなんじゃろくな子になんないっつうの」
「父さんが俺をそう育てたからね。っていうか…お兄さん誰?」
「あ、ごめんごめん俺は「佐助――――!!!」」
俺とお兄さんの会話に割って入ってきたのは先程まで一緒に居た幸村だ。
勢い良く走ってきた幸村をお兄さんは難なく受け止める。
「走っちゃ駄目でしょーが、またこけるよ」
「だいじょうぶでござる!あ、まさむねどののあにうえ!」
「幸村の…お兄さん?」
「うーん、どっちかって言うと同居人かな。俺様猿飛 佐助、君は?」
「伊達 」
「お迎えは俺様の担当だから。これからよろしく、ちゃん♪」
なんか、政宗が来てから退屈しないなあ…。