「初めまして…私は片倉小十郎と申します。貴方が…政宗様ですね?」
小十郎さんが話しかけるとそいつは顔を上げる。
そうか、俺の弟は政宗って言うのか。
「これからは私と…貴方の兄君である様と一緒に暮らすんですよ」
兄という言葉に反応したのか、政宗は表情を変えた。
それは例えて言うなら捜してたものをやっと見つけたみたいに。
「…初めまして、ってなんか変だけど。よろしくな、政宗」
一応俺が兄なのだからしっかりしなきゃと笑顔で挨拶したのに政宗は俺をすり抜け何処かへ走って行った。
「…え?」
「恐らく…どうしていいかわからないんでしょう。唯一の血の繋がった肉親ではあるものの、今まで会ったことが無いのですから」
「そうじゃなくってさ…、アイツ日本に来たばっかりじゃねーの?」
「……政宗様ぁぁぁぁ!!!!!」
顔を真っ青にし、小十郎さんは政宗が走り出していったであろう方へ駆けていった。
一人残された俺の傍へ、片倉家で一番仲が良い成実兄がやってきた。
「…お前、大丈夫か?」
「成実兄…うん、俺なんでか全然涙でねえんだ」
「いきなりすぎてか?」
「…多分俺があの父さんと母さんと…政宗と“家族”として過ごした期間が短い所為だと思う」
「…そうか」
成実兄は分家で一番俺と年が近いからよく一緒にいることが多い。
だから俺の変化に気づくのも成実兄が一番だった。
でも、ホント今回ばかりは違う。
なんせ自分すら自分の気持ちに気づいていないのだから。
三十分程して、小十郎さんが戻ってきたけどその隣には政宗の姿はない。
肩で息をしているところを見るとずっと走り回っていたのだろう。
でも、見つからなかったようだ。
「どうしましょう…政宗様に何かあったら…」
確か俺が二年生の時に生まれた弟だから…今五歳か。
五歳児でしかも帰国子女のようなものだからただでさえ不慣れな土地に迷いまくってるはずだ。
「成実兄、俺捜してくる」
「おう、気をつけろよ。俺らは向こうの方捜してみるからよ」
どうせ、五歳児の足じゃあそんな遠くには行けないだろう。
でも事故とか、誘拐とかだったら話は別だが。
しばらく走っていると公園が見えた。
其処には微笑ましい家族の団欒という光景が見えた。
それを見て、何故か足が速まった。
「絶対、此処にはいない」
あいつが今こんな場所にいられるはずが無い。
そしてしばらくして辿り着いたのは海が見える岬。
ここはよく父さんと…実の母さんと来ていた場所だ。
見晴らしの良い展望台があってそこから見える夕日はとても綺麗だった。
夜になっても星が沢山見えるからとずっと家族三人で見ていた。
飽きることなく…ずっと。
そして俺は展望台の裏で小さくなっている塊を見つけた。
「…」
声をかけようと思ったが、なんと言えば良いだろうか。
さっきは思い切り無視されたし、下手な事を言えば拗ねるかもしれない。
めんどくさくなったので俺は膝を抱えて座る政宗の隣に座った。
一瞬政宗の体がビクっとしたが、顔が上がる事は無かった。
「…政宗、一緒に帰るぞ」
そう言った瞬間、俺の体に何かがぶつかった。
一応言っておくが俺はまだ小学六年生の子どもだ。身長だって120そこそこ。
五歳児とは言え、自分の腰くらいまである子どもに体当たりされれば倒れる。
「どわっ…!…なに…」
見れば横腹に政宗ががっしりとしがみ付いている。
顔は見えないが、鼻をすすっているということは泣いているんだろう。
「しかたねーなあ…ほら」
離れそうも無いので無理矢理背中に負ぶって歩き出す。
手はしっかりと俺の服を握っていた。
「……に、…ちゃっ…」
鼻声で聞こえてきた声はとてもか細くて、
何故か俺は一瞬だけ泣きそうになった。
家に帰ると小十郎さんが真っ先に飛び出してきて政宗を負ぶった俺ごと抱き締めてきた。
逃げようとしてたら成実兄に捕まりまたもやしがみ付かれる。
初めての日本の家に戸惑っている政宗は帰ってからもずっと俺にくっ付いていた。
まだ小さいからと、俺と同じ部屋で寝る事になっていたので布団を二つくっ付けて寝ていたのだが…
気づくとすぐ傍に政宗の顔があった。
いつの間に俺の布団に来たんだろう…。蹴飛ばさないか心配だ。
だけど、片倉家に来て以来初めて熟睡出来たと思うのは気のせいじゃないと思う。