…土御門にまで来てしまった…。
いや、やはりあの時の礼とこの手ぬぐいを返さねば…。
だが、どうやってあの方に会えばよいだのろうか……。
















この間の雨の日に出逢った優しき青年…。
彼の言葉を信じて此処まで来たが……迷惑ではなかっただろうか。
私のような者が会いに来たら彼に迷惑がかかるのではないだろうか。




門の中には武士らしき男が周りを見張っている。
彼に言付けてもらえばいいかもしれない、とも思ったが手は手ぬぐいを放そうとしない。




仕方なく、踵を返し帰ろうとするとポツリと雨粒が当たる。
先程まで晴れていたというのに、通り雨だろうか。
兎に角手ぬぐいが濡れてしまわないように懐へしまい、土御門から離れようとした。













その時









「アカン―!!ダッシュやでぇ天真!!」

「お前ちょっと待て!!速過ぎだっつうの!!」



騒がしい足音と共に見覚えのある黒い着物が近づいて来た。
その姿を見て、何故か心がホッとした気がする。
だが、すぐに視線を背けた。








私に気づかぬ方が、いい。







そう思い、通り過ぎてもらおうとした。









案の定、足音は自分の横をすり抜け屋敷へと向かっていく。
その時一瞬胸が痛んだ気がしたが、それに気づかないように足を動かそうとする。








「ちょい待ち!!!」
「!!」



いきなり右腕を掴まれ、振り返れば会いたかった人。
急いで走っていたからか、肩で息をしている。



「…ハア、何してんねん。此処まで来て…引き返すとか無しやって」




こんな私に笑顔を向けてくれる。
この間少しだけ話をしただけの私のことを覚えてくれていた。

追いかけてきてくれた。







「…これを返しに来た。この前は…ありがとう」
「おお、律儀な兄さんやねえ。でもその為に濡れたらあかんやないか」




手ぬぐいを渡し、これでこの方との繋がりも無くなる…と考えると胸が痛んだ。



冷たい雨が私の代わりに泣いているようだった。






「じゃあこれと交換や」




ふと、雨が当たらなくなった。

そして暖かさを感じる。





「これで帰れるやろ。風邪ひかんうちに戻るんやで」

優しい言葉と共にかけられた着物。
折角、今日は礼と手ぬぐいを渡しに来たのにまた彼に迷惑をかけてしまったのか。










「今度は晴れた日に会おうな。もし雨降ってもそれ使ってくれればええから」









幻聴かと思った。

また、会いにきてもいいと
また、会おうと


彼は言ったのだ。




私に着物をかけてくれたが、彼自身は髪から雫が滴り落ちている。
着物を手で広げ、彼の頭上を覆う。







「門まで…送ろう。そして今度は青空の下でそなたに会いたく思う…
「おおきに。季史」












これは彼との間に出来た新しい繋がり。

青空の下で会える日まで。
















晴れたの下でもう一度