その人は、雨の日に出会った。















「最悪やなあ…なんも出かけとる時に降らんでもええやないか」



急な通り雨に降られ、立ち往生する。
ちょっと散歩に出たつもりやったのに止むまで帰られんなあ…。







「橋の下にでも入って待っとくか」




勢いも増してきたし、これなら数分もすれば止むかもしれない。




















「…長ッ…」



勢いは確かに弱まったが、しとしとと降り続く雨は一向に止む気配が無い。
これなら最初に走ってでも帰るべきだった。







「しゃあない、こうなったらずぶ濡れ覚悟で―――…」


走り出そうと橋の下から出ようとすると、目の前に雨に黙って打たれている人がいた。
その人は何処となく寂しそうな瞳で雨をただその身に受けている。


気づいたら、声をかけていた。




「…兄さん、何してんのや?濡れとるで」


オレがおったことに気づかんかったんやろか、その人は一瞬ピクリと反応しそれからゆっくりとこちらを向いた。


「……何を…したいのだろうな、私は」







わからない


自分が何故此処にいて


何をどうしたいのか









まるで迷子になったかのように、空ろな視線を雨空に向けたまま動かない。
オレは気づけばいつものおせっかいが出ていた。





「………それは兄さんにしかわからへん。まずそのままやったら風邪引くやろ。兎に角こっちきぃ」




ぽかんとした顔を向けてくるので、無理矢理手を引っ張り橋の下へ連れて行く。
触った瞬間、あまりに冷たい手に驚いた。





「まったくどんだけ雨の下おったんや。こないに冷えとるやないか」
「…すまない」
「…いや、謝られても困んねんけど」
「でも…そなたが怒っているようだったから…。私が悪いのだろう?」
「…あー…そうやなくてな。心配しとるんや、アンタが風邪引くんじゃないかって」




そう言うと益々男は困惑したようだった。



「…心配?見知らぬ私をか…?」
「見知らん奴とか関係あらへんやろ。ほら、足しにはならんかもしれへんけどこれで拭いときぃ」


懐から持っていた手ぬぐいを出して渡そうとするのにそいつは受け取ろうとしない。
段々じれったくなってきたオレはそいつの頭に手ぬぐいを被せた。




「これはそなたのだろう…?私などに」
「オレ濡れてへんもん。ええからそれで拭いとけ」





結構学もありそうやし、そんなに酷い育ちには見えへん。
人とのコミュニケーションがなんとなく…下手?




「オレ、 。あんさんは?」
「…私は……多…季史…」
「季史やね。これで見知らん者同士じゃなくなったやろ?」
「……」






あ、ちょっとだけ笑った。








次第に雨も上がり始め、これなら走って帰れるだろうと橋の下から出ようとすると袖を引かれる感触。



「どないした?」
「……いや、なんでもない。すまない」



オレの袖を引いた手をそっと離し、申し訳なさそうに顔を背ける。
初めて人間らしい表情を見れてオレは嬉しくなり、そっとその手をもう一度掴んだ。





「オレ、土御門ってとこにいるさかい。せやからまたその手ぬぐい返しに来てんか?」
「…そなたは…」
「“”や、季史。じゃあまたな」





もう手は冷たくなかった。



























「……、そなたは…まるで光のようだ…」



自分の手を二度も掴んで、導いてくれた。
当たり前のように自分の存在を認めてくれた。


それはとても心地よく、心から欲しかったもの。








「そなたに…もう一度…逢いたい…」
























の日の逢瀬