「え?どしたんこれ。オレがおらん間になんかおもろいことになってる?」
北山に一人散歩に行って帰ってきてみればそこには見慣れぬ貴族の男が一人と八葉が勢ぞろい。
我らが神子様は何やら楽しそうに紙に何か書いている。
「何処行ってたんだよー色々あったんだぜ」
イノリに詳しい話を聞いてみると、どうやらこの貴族の男が恋人を取り戻す為に一芝居うつらしい。
亡き武蔵介の娘である姫様が叔父上に引き取られたらしいがその扱いが酷いと。
しかも無理矢理金持ちのオヤジと結婚させられそうになっているとか…。
「それは酷い話やね。アンタ頑張りや!」
「…は、はい!」
「あ、それで裕さんの役なんですけど」
ん?
オレの役?
「今のとこ盗賊役は頼久さんと侍従さんと詩紋くんで、侍従さんの身代わりは天真くん、お姫様役は永泉さんなの」
「まあ頼久盗賊やるん?大丈夫かいな?」
「…神子殿の命令とあらば、この頼久…身も心も盗賊に!!」
「心まではええから」
それでイノリが二人を逃がす役で、鷹通は姫の戸籍操作、友雅は侍従のアリバイ工作、泰明は最後の締め?らしい。
「別にオレ出番無いんとちゃう?」
「でも裕さんも何かやりましょうよ、こんなことめったに無いですし」
キラキラした目で見てくる神子様はそれはまたいつとなく張り切ってらっしゃる。
…ええけど、永泉見てるとなんかあまり皆は楽しそうじゃないみたいやでー。
「そうだ!裕さんに一番ピッタリな役があった!」
「へ?」
真夜中、作戦は決行された。
姫と入道の乗った馬車を頼久達が襲い、侍従が姫を攫う。
詩紋を鬼と見間違えた入道達はパニックに陥り、そのまま天真達の方を追ってしまう。
そしてあばら家に誘い込まれる。
「姫は何処だ!この盗賊が!!」
「誰が盗賊だって?」
あばら家の中には天真と女装した永泉。
人違いと気づいた入道達だが、「こっちでもいいか」と馬鹿げたことを言い天真に一撃を喰らう。
姫を見失い、捜す術も無くなってしまい、仕方なくあばら家を出る。
しかし騒動はそこで終わりではなかった。
『―――愚かなる人間よ』
「…ひい!!誰だ!」
闇夜に映える白い着物。
暗くて顔ははっきり見えないが、その姿はまるで人外の美しさ。
神秘的な雰囲気を纏い、コツコツと静かに歩み寄ってくる。
『穢れた心で我が姫に近づいた罪――…その身で払ってもらうぞ』
鬼火が一つ、二つとそして段々増えていく。
何処からとも無くシャンと鈴を転がしたような音が鳴り響く。
『神の裁きを受けよ―――』
「うわああああああ!!」
雷が入道達の目の前に落ちる。
直撃はしなかったが目が眩んでしまった。
そして目を瞬かせてもう一度、化生の姿を見ようとすれば其処に姿は無い。
『今一度だけ情けをかけてやろう。だが二度同じ様な事を繰り返してみろ。今度こそ天罰をくだしてくれる』
屋根の上から落とされる声。
いつの間にか化生はあばら家の屋根の上に立っていた。
冷たい声色に、目の前で見た恐ろしい力。
入道達は脇目もふらず逃げ出した。
「お前迫真の演技だなー」
「……ぷはっ!標準語はあかん!!慣れんわ!!」
「それで口数少なかったし、多少棒読みだったんだな…」
そう、化生の正体は裕。
永泉演じる姫についた守護神と言う役。
真っ白な着物に身を包み、真っ白なかもじをつけて顔には赤の塗料で化粧(けわい)を施してある。
雷は泰明に貰った札で落とした。
「これでこりたやろ」
「ああ、いい気味だったぜ。でも確かもう一仕事あるんじゃなかったか?お前」
「ああ、最後の仕上げやさかい。まだまだこの格好は役に立つで」
それからしばらくして、ある噂が流れた。
四位の侍従が可愛い嫁御を迎えたという話、それから茜姫の叔父上の失脚話。
前者はまだしも後者は八葉達には覚えの無い話、だが神子と裕だけはにんまり笑っていた。
「神さんに天罰でも当てられたんちゃう?」