と出逢ってから一週間の月日が流れた。




その頃京にはある噂が流れていた――――――…











「龍神の神子が現れた――?」










藤姫と友雅、そして鷹通の話題の中心は最近民の間で噂されている“龍神の神子”。


それは勿論あかねのことではない。


別の人物―――。





「その方は龍神の神子を名乗っているのですか?!…そんな…龍神の神子は神子様だけですわ」
「民の前に現れては病や穢れを消してくれる…。確かにそれを目の当たりにしては信ずるほか無いだろうね」
「友雅殿!」





「この話は神子殿にはお聞かせしない方がよろしいですね…」
「そうだね、あの活発な神子殿のことだから会いに行ってしまうかもしれない」















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「っていうわけなんです」
「こらまたあかねちゃん行動派やねー」



呑気に話しているあかねと
今現在地はもうひとりの神子がいると言われている屋敷の傍である。





「会って話が出来ればなーって思って。もしかしたら力を合わせられるかもしれないし」
「前向きなんは良いことやね。で、どうやって中に入ろか」


結構十分な警備はあるし、会わせてくれと言ってはいどうぞと言うわけにはいかないだろう。
外で色々思案している最中だった。





「待て!!」



「?!」




ドタドタとさっきまで外に立っていた警備が何かに釣られるように走っていった。
何があったかわからないがコレは好機である。





「なんかチャンスみたいやね、行こうか」
「はい!!」






中に入るとまるで空間が切り離されたような異質な感じがした。
あかねもそれを体で感じたようだが、それがなんなのかははっきりわかっていない。
だがは違っていた。




『何かに……呼ばれた…?』





周りを注意深く見渡しながら、奥に入っていくとそこに一人佇む女の子がいた。






「あれかな…」
「そうみたいやね……!」





その女の子は懐から出した蝶を口元に運ぶと…なんとそれを飲み込んだ。





「…嘘…」
「蝶を飲み込んだ…」




その光景に驚いていると、女の子は体を震わせ蹲った。
着物の柄に蝶が次々と浮かびだし、それが本物の蝶となって飛び出した。
それこそ何匹ものおびただしい数の蝶が。









「……あれは…穢れ…?」
「穢れを…ばら撒いてるんか…?!」




あまりの光景に顔色を青くしたあかねを見かねて外に出ることにした。



「…さん、あの子は…」
「ああ…こりゃあ穏やかには行きそうもないな…」



あかねを気遣いながらもあの女の子を気にしないわけにはいかなかった。
何処か…惹かれる。












「…あのひとに…逢うまでは…」









ポツリと聞こえたその一言はの耳に余韻を残した。

























外に出た時、ばったりとイノリと天真に出会った。
何故此処にと問いかければ、二人も桂の神子と噂される彼女を見に来たらしい。
そして先程警備に追いかけられていたのはこの二人だった。





「丁度ええわ、あかねちゃんを送って行ってくれへん?オレまだ調べたいことあるんやんか」
「あかねを?おう良いぜ」
さん…?」





「イノリ、頼んだぜ。俺も…ちょっと」




「天真も?仕方ねえな…行くぞ、あかね」
「え…?うん…二人共早く帰ってね」











あかねとイノリの後ろ姿を見送った後、と天真はもう一度屋敷に目をやった。

「天真もなんか気になるんか?」
「…桂の神子は……行方不明になった俺の妹かもしれない…」
「…ほうか。じゃあ確かめんとな。行くで」
「ああ!」










再び二人は中へと入った。





































「…戻ってこないなあ…」


もう日が暮れ、外には闇が立ち込めているが二人はまだ戻らなかった。



「あかねちゃん……」


そこへ詩紋が現れ、何故か潜めて声をかけてきた。



「どうしたの?詩紋くん」
「あのね…天真先輩が…」




話を聞くとあかねは天真のいる所へと急いだ。













「天真くん!どうしたの……血が!?」
「あかね…」



天真の腕は真っ赤に染まっていた。
それを見てあかねは急いで手当てをしようと手を伸ばすがその瞬間何かが沫のように弾けた。





「これ…怪我じゃない…穢れ…?」
「それ…あかねが触っただけで消えるんだな…」
「やめてよ…龍神の力なんだから。何があったの…?天真くん」



あかねを引き寄せ、天真は悲しげに呟く。




「…確認してきた…。桂の…神子は…俺の…三年前に行方不明になった妹だ…」
「!?」
「…アイツ…俺が名前を呼んでも、まるで知らない他人を見ているかのようだった…」
「…そんな…」




























「………あれは…」


築地に背を寄り掛け、月を見上げる





思い返すのはさっきの娘の表情。








天真は必死に呼びかけていた、にも関わらず一切の表情を変えなかった。





だが、一瞬だけ変えた瞬間があった。










自分を見た時だ。










瞳に色が戻り、その目に自分が映った。

















「……天真が…蘭って呼んどった……。蘭か……」










声が、聞こえた。







助けて、と。





















自分が此処に呼ばれた意味は…もしかしたら…







































哀れな人形は、自分では糸を切れない。