泰明が「土御門に来るって言った」って言うから待ってるけどよ…
全然来ないじゃねえか!!!(もう外暗くなりかけてんだけど)
いい加減ただ待っているのにも飽きてきた頃、永泉がポツリと呟く。
「…あのぅ…今更こんなことを言うのもさしでがましいのですが…申子殿は道は知っておられるのでしょうか?」
「何言ってんだよ、永泉。知って――…」
知ってるのが当たり前だと思ってたが、ここまで来ないと知らないんじゃないかと不安になる。
「俺、見てくるわ」
「それじゃあ僕も!泰明さんは此処にいてくださいね、入れ違いになっちゃいけないし。顔知ってるの僕と泰明さんだけだし」
「承知した」
もうすっかり日が落ちてしまい、外は月明かりが精々あるくらい。
まあ、詩紋が出歩くには丁度良いけどな。(明るいと髪の色で鬼と思われちまう)
でも、黒い着物着てるんだよな。
見つかりにくいかもしれねえ。
「じゃあ俺は内裏方面に行って来る」
「じゃあ僕は桂川の方に行って来ます」
「あんまり遠くに行くなよ、怨霊と出くわしてもいけないからな」
「はーい、天真先輩こそ大丈夫?その人、さんっていうから」
「…?わかった」
詩紋と別れ、京の中央である内裏方面に来るが今まで人と呼べるものには会わなかった。
「おいおい…どうすんだよ。何処にもいねえじゃねえか…」
一条戻り橋の上で休憩がてら座り込む。
この辺は夜盗もいるっていうから申子とかいう奴も危ないはずだ。
なんとしても早く見つけてやらねえと。
「…ハア。誰かを捜すのは得意じゃねえんだよな…」
一人になるとどうしても頭をよぎる。
たった一人の妹、蘭のこと。
俺達の世界で行方不明になって、もう三年…。
俺が、あの時あいつの話を聞いてやっていれば…。
「兄さん、どないしたん?」
「!!!」
いきなり聞こえてきた独特のイントネーションに俺は思わず体を震わせてしまった。
一人だと思っていたのにいつの間にか俺の傍まで来ていた男の存在に気づけなかった。
「なんや暗い顔してるなぁ。気分悪いん?それともなんかあったんか?」
「…いや、なんでもねえ。ちょっと色々ありすぎて疲れちまっただけだ」
「そか。まあ溜め込んだもんなら吐き出したら楽になるで?たまたま出逢ったオレで良かったら話してみぃ?知らん奴なら後腐れないやろ?」
「……」
今、話してみてもいいかという気になった自分がいた。
知らない奴に身の上話をする気は無い。
だけど、コイツに吐き出したら受け止めてもらえるような気がして。
気がついたら、口から言葉が出ていた。
「…急だったんだ。何もかもが」
妹が居なくなった事も
俺やあかねや詩紋がこっちに来てしまったのも
あかねが龍神の神子で、俺が八葉だというのも
「もう…頭がついていかねえよ…」
俺、らしくない。
こんな弱音を吐くなんて。
そうか、あかね達の前だから強がってたんだ。
でも、何故かコイツには見せても良いと思えたから。
「そやな、急な環境変化は心がついていかへんもんな。でも落ち着きぃ」
優しく背中を撫でる手が気持ち良い。
「一個ずつ片付けたらええ。焦ってもええ結果は出えへんさかい」
「一個ずつ…」
「せや。そやなあ…まずは自分がどうしたいかはっきりしてみよか。そうすればその為に何したらええかわかるやん」
コイツの言葉一つ一つが浸透していく。
とても、穏やかな気分だ。
「俺は……妹を早く見つけてやりたい」
「さよか。じゃあ強ぅなったらええ。心も体も。どんな逆境でも諦めん為に」
「…ああ!」
不思議だ。こんなにも心が軽いなんて。
弱音を見せることは格好悪いと思っていた。
でも、すっきりした。
「じゃあもう暗いけえ、帰りんさいよ」
「ああ…って、そういやまだ名乗ってなかったな。俺は森村 天真だ。そっちは?」
「 。天真やね、ええ名やないか」
黒い着物
大阪弁
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!???
『その人、さんっていうから』
「ちょ!!!ちょっと待て!!!お前“”って言うのか?!」
「そやけど」
「…お前かぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そうだった。
詩紋が言ってた、“大阪弁で話す人”、“”。
なんで気がつかなかったんだ…俺。
おやおや
出逢ってしまったようだね
ではこれから先
どんな運命が待ち構えている事やら