四方の札も四枚手に入った、八葉も全員揃った。


そしてとうとう運命の日がやってきた。








四神解放の日。








この日の為、皆体を清めたり準備をしたりと色々忙しく話をする暇が無かった。

だから今日は久し振りの皆が集まる日。



わたしはあの人を捜した。


カラーな世界の中、何色にも染まらない黒を身に纏うあの人を。













さん!!」



「ん、あかねちゃん?」






いつもとは違った服装をしているから気がつかなかった。
黒い着物はまるで神社の神主さんが着るような白い着物にかわり、いつも降ろしている髪の毛は一つに結い上げられ烏帽子を被っていた。
着るものひとつでまるで知らない人になったみたいだった。




「今日はよろしくお願いします。…さんは、陰陽師の人達と一緒なんですよね?」
「ああ、オレも晴明の弟子やからな。今日は八葉が主役や。オレは邪魔が入らんように守ったる」




外見は違っても、笑顔は正しくその人のものでわたしの心が温かくなった。






「――――何が来ても、必ず成功させたるよ」






その時のわたしは、まだよくわかっていなかった。
今日が無事終われば、全てが上手く行くと思っていたから。





















八葉の皆が次々と集まりだす。
最初に会ったのは永泉さん、そして天真くんと頼久さん。
いないと思っていたイノリくんと詩紋くんは既に来ていて、わたし達に手を振っていた。
次に鷹通さんや泰明さん、最後に友雅さんが来て全員が揃った。






「よー皆の衆。お揃いか?」


ううん、最後はさん。
この人がいたから、わたし達はここまで来れた。
大切な人。

欠けてはならない、わたし達の中心。





さん!!うわあ、今日は雰囲気違いますね。でもそれも似合ってます」
「おおきに。今日はお前等の邪魔させんようにばっちり守ったるからなー」



詩紋くんの頭を撫で回しながら朗らかに笑うさんを見て皆がリラックスしたみたい。
今日大きい事を成し遂げようと言うのだから、大小あれど皆が緊張していた筈だ。
だけど今は一番、“素”の皆になれてるとわたしは思う。







「おお、そや。皆これを受け取ってくれるか?」




そう言ってさんが手渡したのは小さな袋。
一人一人色や模様が違う、香袋。


「お守りや。手製やで」

「え?!これが作ったのか!?すっげえ!俺の好きな荷葉じゃん!」
「梅花ですか…。私のような者にまで…有難うございます」



それぞれの好みの香り、色をした香袋を大事そうに握り締める。


わたしに渡されたのは桜色の小さな袋。
これは香袋じゃない、なんの香りもしないもの。



「あかねちゃんのはちょっと違うんやで。なんかあったら開けてや」
「開けて良いんですか?」
「ええで。その代わり、効き目があるのは一回きりやからな」





わたしはそれを無くさないよう小袖にしまいこんだ。





さんはそれを渡し終えると陰陽師の人達の集団へと戻っていく。
その背中を見つめていると、天真くんが叫んだ。




!!今日が終わったら…一緒に船岡山行こうぜ!こないだの話の続き…聞いてくれ!」



その言葉にさんは少し考え、首を縦に振った。


天真くんに触発されたのか、次々と叫ぶ皆。





殿!!私も…一緒に行って頂きたい場所があります。その時…私もお話をさせてください」

!俺と一緒に剣神社行こうぜ!木蓮がキレーなんだ!」

「僕も!お菓子持って、ピクニック行きましょうね!」

「わ…私も貴方をお連れしたい場所がございます。今日が無事済んだら…ご一緒していただけますか?」

「おやおや、皆気が早いねえ。、ここは平等に私とも是非出かけてもらうよ。そうすればやる気が上がるしねえ」

、無事役目を終えたらまた北山へ一緒に行ってくれるか…」

「では私も便乗させていただきたいですね。殿、待っていてください」







全員の言葉に眼を開くさん。
けどすぐ子供のような笑みを浮かべて、両手で大きな丸を作る。





皆ずるいな。



さん!!終わったらわたしとデートしてくださいね!!」




わたしの言葉に吃驚する天真くんと詩紋くん。
“デート”って言葉がわからない京組は唖然としていた。





「こらあ何よりも優先すべき約束やなあ。ほないっちょ気合いれて仕事してくるでえ」




甘い笑顔で返事をくれた。
うふふ、ちょっとだけ優越感。

































八葉の皆が神力を発現させ、空に光が差し込み風が札を舞い上げる。
雲を割って差した光は何かを運んできた。





「…何あれ?」





青い空に不釣合いな禍々しい黒色。
それは矢の形をしていた。






「!!あれは呪詛だ!!神子を殿内に下げろ!!」

泰明さんが大声を上げる。
矢は空に浮いているようだったけど、いきなり物凄い速度で降ってきた。







「――っ!!」


その勢いは留まることなく、泰明さんを貫いた。




「泰明さん!!!」
「泰明殿!!」





心配して駆け寄った永泉さんにも同じ様に矢が降り注ぐ。




「永泉さん!!!」




わたしが駆け寄ろうとすると頼久さんが行かせまいと肩を掴む。
その間にも、鷹通さんやイノリくん詩紋くんに矢が刺さっていく。













やめて



やめて



これ以上わたしの大切な人達を






傷つけないで
















友雅さんにも、頼久さんにも、天真くんにも




わたしの悲痛な言葉なんか届かないと言うように矢は次々皆を地に倒れさせる。


頭の中で何かが割れていく音がする。




「ダメっ!!こんなっ…いや…!!
ダメェェェェェ!!!!」








目の前が霞む。
意識が飛んでいく。







フッと優しい手が背に当たる。





消え行く意識の彼方で何か聞こえた。







「大丈夫。皆は守るで」








































―――チリンチリン










鈴の音が聞こえる。





此処は何処…?


眼を開けてみると真っ暗な場所にわたしが一人。



さっきまで神泉苑にいたのに…。









「八葉どもがどうなったか知りたいか?」


闇の中で輝く金色。
青い瞳がわたしを見た。




「アクラム…!!みんなに…何をしたの!?」


「…四神と八葉は繋がっている。四神の加護を呪詛と挿げ替えた。解放が仇となったな」



スッと手を伸ばしてくる。
わたしは反射的にその手を避けた、けど妙な違和感。



アクラムの手がすり抜けた、これは実体じゃない?!









「心を砕いてやった…。本当は息の根を止めてやりたかったが…所詮は半端な生まれ。これが限界か」


半端な生まれって何か解らなかったけど、一つだけ解ったのは皆にとって大事なものが壊されたということ。






「さあ神子、我が元へ来い!!」



再び伸ばされる手。
今度は振り払うことが出来なかった。





わたしの手首を掴み、引き寄せる。
抵抗しようともその力は強く、振りほどけなかった。


するとわたしの中からぶわっと熱いものが込み上げてくる。
これは龍神の力だ、わたしであってわたしでないもの。






「ダメ…っやめて…」



わたしは力で押さえつけるようなことをしたくない。









その時、ふわりと香ったあのひとの香り。





わたしの中の龍神の力と何かが交わって黄色い光が溢れ出す。
アクラムが苦痛に顔を歪めて手を離した。
この黄色い光が、アクラムにとっては毒なのだろうか。




「なに…これ…」


熱くなった場所、小袖の中に手を入れるとそこには彼から貰った小袋。



「それは……黒龍の気を宿しているのか…。…そうか、あの男の存在を懸念していた…」


アクラムが仮面を付け、わたしから距離をおく。
きっとこの光が辛いのだろう。





「一部とはいえ、黒龍の力とお前の中の白龍の力が合いまったのか…。神子、守人はお前以外にもそれを渡したのか…?」



皆にそれぞれ渡していた香袋が頭によぎった。



アクラムは自嘲の笑みを浮かべる。




「だとすれば…愚かな守人だ。八人分の呪詛を一気にその身に受けようとは…。命があれば良いがな…」
「!!待って!どういう意味!!?」







そう言って伸ばした手はアクラムには届かず、わたしは飛び起きた。





































見慣れた天井。
いつも眠りから覚める時に見るものと同じだ。



「此処は…土御門…?」




あの儀式の後から記憶が無い。
わたしは気絶して…此処へ運ばれたのだろうか。


だとしたら、早く皆の様子を見に行かなくちゃ。
あの矢を受けたんだもの、きっと何かあったはず。



それに…さんも…!!




小袖の中の小袋を握り締めて、わたしは走り出す。








屋敷中を走り回って、ようやく皆を見つけた。

一つの部屋に輪になって座り込んでいる。


わたしが来た事に気付いた詩紋くんが声を上げたから皆がわたしに気付いた。



「神子殿!お目覚めになられたのですか!?」

「あかね!!良かったぜ…全然目覚まさないんだもんなあ」





良かった、皆大丈夫そう。
見たところ怪我は無いみたい。




「皆…どこかおかしいところとか無い?」

「…?いいえ、何も」




「あ…そういえばこれ…」



天真くんがスッと出したのは浅葱色の香袋。
それには何かが突き刺さったような穴が開いていた。




「実は…私も」



皆がそれぞれ出してくる香袋は穴が開いている。


それを見て、アクラムの言葉が甦ってくる。






『八人分の呪詛を一気にその身に受けようとは…。命があれば良いがな…』






背中に嫌な汗がつたうのがわかった。




「ねえ!!さんは!?」

「…それが…何処に行ったかわかんねえんだよ」

「あの場にいた者達の話じゃ…我々が倒れた後に殿も同じくして倒れ、そしていつの間にか消えていたらしい」




友雅さんの言葉が理解出来ない、したくない。
消えたって、何処かへ行ったの?
それとも…まさかこの世界から消えてしまったの?