あれは友雅が行方不明になっていた時のことだった。

庭で永泉と話しているあかねを見つけた。
何を話してたんだ?と聞いてみたが濁した答えしか返ってこない。
嘘をついてるのがバレバレだった。





そりゃあまあ、あかねだって何か悩みを抱えることだってあるだろう。
だが、それを俺や詩紋やじゃなくこっちの世界の人間に相談するというのが水臭いという気がする。



・・・嫉妬じゃねえぞ。





けれどモヤモヤしたものが晴れなくて、運動をしてすっきりしようと思った。
と稽古していれば余計な雑念は振り払える。






なのに、もいない。





何故、黙っていなくなった?



アイツには正直頼っている自分がいる。
詩紋やあかねも頼りにしている。


けれど、アイツは誰かに弱音を吐いたりするのだろうか?




自分ばかり甘えすぎたと言う気持ちと、何故自分に頼ってくれない?と言う気持ちがせめぎ合う。











その時丁度永泉が通りかかって、声をかけてきた。




俺は冷たい眼をしていたと思う。

独占欲、嫉妬心。

そんなものが頭を占めていたから。



だからはっきり宣言してやったんだ。
俺達は元の世界に戻るんだ、と。
































「やめや、天真。お前ちーとも集中しとらんやないか」




突き合わせていた木刀を弾かれ、強制終了させられた朝稽古。
別にうしろめたいわけじゃないが、チラチラと色んな物がよぎって気が散ってるのは自分でも解っていた。



「…わりい」
「なんや気になることでもあるんか?吐き出すだけ吐いてみ」



コイツはいつもそうだ。
周りばっかり気遣って、自分の弱音は誰にも吐かないくせに。
よく蘭の所へ行っているが、蘭にも弱音なんて見せないはずだ。
コイツはそういう奴だから。





「…別に、なんでもねえよ」
「…そう言い張るならええけど。説得力0やけどな」





呆れてるだろうな。
だけど、自分でも解ってるんだ。ガキだってことが。



「あ、そや。これ渡しとこ」
「?」




何かを投げつけられ、咄嗟に受け取ったそれは緑色の石のついた首飾り。
紐に石を付けただけのとてもシンプルなデザインだが、それが石を引立たせる。



「なんだ、これ?」
「こないだ見つけて衝動買いや。やるわ」
「…っ俺に?なんで…」






「買うた時天真の顔が浮かんでん。せやからお前にやるわ」





の言葉を聞いて、自分の頬が緩むのを抑えるのに必死だった。
さっきまでの感情が何処かへ行ってしまう程の威力だった。




「なんか言いとうなったら言いや」



俺は部屋へと戻るの腕を咄嗟に掴んで引き止めた。







「なんや、言う気になったんか?」


「……あの、よ…。お前は…何か不安とかねえの?」




上手い言葉が出てこない、聞き方がおかしくないだろうか?
言った後に少し後悔してしまったが、は穏やかな笑みを見せて答えた。





「あらへんよ。今は手のかかる弟分や可愛い妹分の面倒で手一杯や。不安なんて感じる暇これからも絶対あらへんわ。」





俺の頭を軽く撫でて、は再び部屋へと歩いていった。
今度は追いかけようとは思わなかった。


ただ、嬉しくて。









あの言葉は本心と思って良いのだろうか?
俺達がいるから不安を感じていないと言う言葉。
捉え方は違うかもしれないけど、自分があいつに必要とされているようで凄く嬉しかった。



















今回の詩紋の騒動で、と俺達は別行動だった。
獄舎で別れた後以来を見ていない。


詩紋とセフルを入れ替えた。
はそのことを知っているんだろうか、知っていたらあいつはなんと言うだろう。




俺はあんな見せしめのような場所になんて行きたくない。
詩紋を助ける為にとはいえ、後味の悪いことをやったのは事実だ。
そんなもの呑気に観戦してる奴等の方が気が知れない。







「…天真」
「!!…?!お前何処行ってたんだよ!」
「ちょいイノリに話を聞きになぁ。それより詩紋はどないしてん?」
「あ…それなんだけどよ…」




俺が言葉に悩んでいると、後ろから軽い足音がした。
途端の目が見開かれた。

振り返った先にいたのは、詩紋。




「詩紋…?!出られたんか?」
さん……っ!!」



詩紋は勢い良く走り出しへと飛びついた。
その様子を見て、悟ったのかは冷静な目で俺を見た。

事情を説明しろ、と。






腹を括って全てを話した。

セフルと言う鬼があかねを連れ去ろうとしたところを捕まえて、詩紋と入れ替えたこと。
そしてそのセフルは今日裁かれるということ。


それを話せば詩紋の肩が震える。
は優しく背を撫でてやりながら俺の話を聞いていた。







「…そういうことか…。そら、一概にどっちが悪いとは言えんなあ…。どっちも加害者であり被害者や…誰にも何も言えんわ」



なんでそんな悲しそうな顔で言うのか、とか

もしかして似たような状況だった時があるのか、とか



聞きたい事は沢山あったのに。





俺と詩紋は黙ったままの後をついて行く事しか出来なかった。