さん…もう戻っても良いんですよ。此処暗いし…」
「ええて。もうちょいしたらあかねちゃんも来るやろうし。そしたら…詩紋のここにあるもん話してくれるか?」


自分の胸を指すさん。
ああ、さんは気づいてるんだ。


僕が言えないこと。





セフルくんと会って、友達になって…どうしてこんなことになったんだろう。

羅城門に行ったら怨霊が出て、其処に居た子を襲って怪我させて。

僕は助けられなかった、そして鬼と間違われて捕まった。






だけどセフルくんのことを知ってるのはあかねちゃんだけだから他の人には話せない。







此処から出られないと、もうお菓子も作れない。
皆とも話せない。




この優しい人にも…会えない。









「来たかな。オレがおると話しにくいやろうし退散するわ。詩紋、必ず出したるからな」



格子の隙間から手を入れ、頭を撫でてくれる。
この温もりを忘れたくなくて、撫でられた場所にずっと触れていた。































あんなに大声出して怒鳴ったのは俺が悪かった。

詩紋が捕まった事をすぐに知らせなかったのも悪かったと思ってる。






「…謝るか」











「ちょい待ってくれるか?」








聞こえてきた声に思わず吃驚して体が揺れた。

振り返ればいたのは











「な、なんだよ…。驚いたじゃねえか」
「そりゃあ堪忍な」





面白がってるだろ。
笑いながら俺の頭を子供のように撫でる様子が楽しそうだ。







「やめろって――それより、どうしたんだ?」
「…イノリ」






さっきまでの表情を消し、真っ直ぐ俺を見てくる。








「イノリ、昨日見たこと話してくれん?お前現場におったんやろ?」
「――!!!…羅城門のことか」
「せや。詩紋は言うてくれん。だからお前の目線でお前が感じたように言い」











俺の目線…?俺が感じたように…?









昨日は羅城門に怨霊が出たって言うから、あいつ等が気になって駆けつけた。

そしたら血まみれの詩紋が怪我をした子供を抱えていた。

詩紋は何か言っていたけど、子供が重傷だったから俺はそいつを背負って家に帰った。

都の奴等が詩紋を連れて行った。












そうに話した時、溜息をつかれた。




「…それでか。詩紋の阿呆」
「だろ!あいつやっぱり…」


「お前もや。アホ」


「なっ!!」






なんで俺まで!?


反論しようとすれば、の目が鋭くなり言葉が出なかった。










「お前は詩紋が子供を襲わせた瞬間は見てないんやろ?怪我した子を抱えた詩紋を見ただけや、違うか?」
「違…わ…ねえけど、でも!!」
「カッとなったお前は部分的なものしか見えてなかったんや。《怨霊》、《怪我した子》、《そこに居た詩紋》」



いつもの柔らかい話し方とは違い、淡々と喋る


確かにあの時は頭に血が昇ってたのは認める。


だけど、詩紋が………あれ?





“鬼”として捕まったということは、詩紋は“罪人”となるということ。








「…どうしよう!!詩紋が…鬼として裁かれる!」


「お前はそうなって欲しかったんとちゃうんか?」
「違う!!こうなるって解ってたら…あの時、見捨てなかった!!」









確かに変なことを言ってるのも自分で解ってる。
あれだけ怒っていたのに、今更こんなことを言うのが虫がいいなんてのも解ってる。




だけど鬼のことになると冷静でいられなくなる自分がいるのも事実だ。









「だけどっ…あいつは八葉なんだ!!あかねが信じてる…」
「そやな、八葉や。けど、そないな理由じゃ使庁は納得せえへん」
「…どうしよう…」








詩紋が、処刑される。







もしあの時、俺が詩紋を置いていかなかったら
ちゃんと話を聞いてやっていれば
こうはならなかったかもしれない。




頭が混乱している。






「イノリにも、鬼をそこまで憎む理由があるんやろ?」
「…!!」
「せやから、簡単にお前だけを責められる問題やない。人にはそれぞれ事情があるからな」



の手が俺の頭に再び乗った。
その手は優しい。




「だけど、もしその憎む相手が鬼やなくて人間やったらお前は人間全て嫌いになるんか?ちゃうやろ?そいつだけやろ?」
「……」
「詩紋がお前になんかしたか?」
「…してない」



「やろ?ならちょっとずつ歩み寄って行けばいいんや。イノリも詩紋もまだお互いのことなんも解ってないんやから」




に笑顔が戻った。




「いつか、話してな。あかねちゃんにも、詩紋にも」
「……ああ」




























目が覚めると見たことも無い屋敷にいた。
獄中なんかじゃない。
とても綺麗な屋敷。





「此処は…」
「橘家の屋敷だよ。大変な目に遭ったね。此処でゆっくりとくつろぐがいいよ」
「僕…どうして出られたんですか?」


友雅さんは笑顔のまま何も答えない。
奥から天真先輩も来たけど、何故か苦い表情。


僕が簡単に出られるわけ無いのに。















そして、その理由はとても辛く悲しいものだった。














「…セフルくんを僕の代わりに!?」
「そりゃ気持ちのいいやり方じゃないさ。だけど俺はお前が助かる方がいい」
「駄目だ!!セフルくんは僕の友達なんだ!!僕の身代わりになんて出来ないよっ」



やめて、と言う僕に天真先輩はもう一つの真実を告げる。




「あいつは八弦琴であかねを狙ったんだぞ!!」





前にあかねちゃんが目を覚まさなくなる事件があった。
あの時僕は心配でずっとあかねちゃんについていたから知らないけど、天真先輩達は鬼の所へ乗り込んだ。


その時の鬼が……セフルくん?




「詩紋はあの時いなかったんだよな…。お前…あいつに騙されてるんじゃないか?」





















「ごめん、あかね。…俺、ちゃんと詩紋と話してみる」
「イノリくん…。私もゴメン。詩紋くんと仲良くしてって言って、イノリくんのことも知らないのに」
「絶対助け出そうな」
「うん!」