「…は、なんやて…?」

「聞こえなかったのか?今黒龍の神子の所へ行ってはならぬと申したのだ」




師匠の声が頭の中で何度もリピートされ、オレはようやく意味を理解した。






「なんでや!!?今アイツは情緒不安定なんやで?!それなのに…」
「だからだ。そんな時守人であるお前が近づけば黒龍の力が増幅され暴走してしまうかもしれぬ」

「せやけどそれを鎮めるんもオレの仕事ちゃうんか!!」


いつの間にかヒートアップしてしまい、次第には泰明に押さえつけられる。





、落ち着け。どちらにせよ、今のお前も気が乱れている。そんな様子では黒龍の神子の元へなど行かせられぬ」
「泰明……!!」




握り締めた拳を床に叩きつける。









堪忍や…蘭…。


































――四日後



「失礼致します!!殿はいらっしゃいますか!?」

いつもの冷静さを感じさせぬ程の慌てようで鷹通は藤姫の所へやってきた。



「鷹通殿…どうかなさいましたか?」
「少々殿に聞きたいことがありまして…もしかして今はいらっしゃらないので…?」
「はい…朝早く何処かへお出かけになったようで…」


行き先を知らない、と答えた藤姫は何処か落ち込んだ様子。
恐らく、彼女も行き先を告げずに出かけてしまったの事を気にかけていたんだろう。





「…そうですか。それでは、失礼致します」


鷹通はこれ以上の不安を募らせない為にも、その場から去ろうとした。
しかし、振り返れば先程まで一緒にいたはずの面々がいた。






「――どういうことだ、鷹通」
殿もいない…?」




数分前、頼久を訪ねて鷹通は土御門の武士団の馬場へいた。
そこで天真、詩紋、永泉、泰明と共に話をしていた。






―――友雅の失踪について







女性を不安にさせまいと、あかねや藤姫には黙っておこうと思ったのにあかねには聞かれてしまった。
おまり事を公に出来ない為、荒立って捜すことも出来ない。
その為八葉だけでも捜索しようと思ったのだが、あかねが自分も行くと言い張ったのだ。



しかし、途中でふと気づいた。




こんな時、あかねを静かに諌めていた人物がいない。





















「そういえば朝稽古にも参加しておりませんでした…」
「私はてっきり泰明殿と一緒かと…」
は四日前から安倍邸に来る事を禁じられている。故に私も四日前から一度も見ていない」
「それでは…殿は毎日何処へお出かけに…?!」





四日前の一件以来、は安倍邸に来てはならないと晴明から言われていた。
蘭と近づかせない為だ。




だがそれからは毎日、土御門から何処かへ出かけている。

大体の者が安倍邸に行くものだと思っていたから誰も行き先をわざわざ聞かなかった。






「困りましたね…。殿なら友雅殿の行方を知っておられるかと、最後の希望でしたのに」
「取り合えずはいつも帰ってくるから大丈夫だとして、問題は友雅だな」
「そうですね…」








泰明は考えていた。



の気が全く感じられないことは今までに無かった。



毎日安倍邸に通っている

八葉の中では泰明は一番と接している。

それなのに、あんなに馴染んだあの気を今は全く感じ取れない。





「…、お前は何処へいるのだ…」






























「……なんでや…」



京の南、深草の墨染。





こんな所まで遠出する気は無かった。
取り合えず暇を潰そうと歩いていただけなのに。




出入り禁止をくらってから四日間。
じっとしてることも、あかねの共も出来ずただ朝から夕方まで外をぶらつくだけ。



その間人に出会いたくなくて、人の来なさそうな場所ばかり選んでいた。






そして今日は南へとずっと歩いていた。


するとどうだろう、奥へ奥へ行くほどに何かの泣き声が聞こえる。
こんな所に誰かいるのだろうか、と覗いてみるとしくしく泣いている女性と見覚えのある男性。





「…何してんねん…友雅の奴…」


こんな場所で一人で泣いている女性なんて、絶対普通の人間じゃない。
しかも友雅の様子から見れば、縛られているようだ。






「…人に会いたくない時に限って…知り合いに会うて…。難儀やねえ」


だが、なんだか気落ちしていたのが馬鹿馬鹿しくなった気がする。







「今は考え込むより、この状況をなんとかせなな」