「神子の居場所が判った。神子は黒龍の神子の所へ辿り着いた後、自らの足で道を造り今この邸内をさまよっている」
「…蘭の所へ…自分の足で?」
「ああ。だがもうそこへはいない。これを見ろ」



泰明がに手渡した巻物には邸の庭を描いた絵があり、そこに桃色の線が勝手に動いていた。



「それが神子だ。それを追うぞ」
「任しとき。…でもなんで蘭の所でじっとしとかんかったんやろ」



あそこにはと蘭を結ぶ為に式紙を置いてある。
簡単なものだから蘭にも扱える。


あかねが来たなら、その時呼んでくれれば良いのに。

















「「あかねちゃん!」」
「神子」


さん!詩紋くん!泰明さん!」





追いついてみれば、そこは最初に入ってきた門の前。
しかもあかねは頼久と、何故か今日は着物をぴっちり着こなした友雅と一緒に居た。



「あら、なんで此処におるん二人共?」
「神子殿がこちらへ来るといって私も挨拶がてらね」
「私は神子殿達をお迎えに上がりました。…あの、神子殿は一体どうなさったのですか?」



そう言われ、もう一度あかねの姿を見ると着物は泥だらけ、鼻の頭は擦りむいてる。
迷ってる間に転んだのだろうか?と着物の汚れを払ってやると微かに震えていた。



「…あかねちゃん?」

「……なんでも…ないんです。本当に…」



何か堪えている言い方だったが、そこは敢えて誰も追求はしない。
言いたくないことを無理に聞き出しても解決にはならないだろうから。




「天真の妹御には会えたのかな?」
「…いいえ、迷っていて会えませんでした」




その言葉にと泰明は顔を見合わせた。
確かにあの晴明の絵の中では、あかねは一度蘭の所へ辿り着いている。


なのに、会っていないと彼女は言った。









「…頼久、あかねちゃんを任せてええか?オレまだ修行やってから帰るさかい」
「…わかりました。神子殿、参りましょう」


泰明もあかねに同行すると行ってしまった。
は友雅を中に案内すべく、もう一度邸の中に入って行った。


























「どうかしたのかな、そんな気難しい顔。らしくないね」

「…あかねちゃん…なんで嘘ついたんやろ。蘭の所へ行ったのは確かや、けど会うてへん言うた。…蘭と何かあったんやろか」



友雅は髪を下ろし、着物をいつものように着崩すとふうと息を漏らした。




「黒龍の神子殿が…今までの状況が状況だったとは言え、神子殿をあっさり受け入れられるはずが無いだろうね」
「……?」
「彼女は三年も鬼に捕われていた、それも一人でこちらへ来て。対して神子殿は天真や詩紋も一緒だし、八葉に守られている」
「……!?」




三年間孤独の中、鬼に操られていた蘭と友人と一緒に京へ召喚され、守られ大切にされているあかね。






人は自分に無いものを持っている人間を見ると、どうしようもなく妬んでしまう。
相手を責めたって、自分自身の嫌な部分が見えてくるだけなのにそれでも心は醜くなってしまう。





「…アカン、なんで気づいてやれへんかったんや…」
が気にすることではないよ。恐らく、君の存在で彼女の嫉妬心も薄れていたはず。少々時期が早すぎたんだろうね」



ぎこちなさのない笑顔が見れるようになって、ようやく年頃の女の子に戻った蘭を見て安心していた。
これならあかねと会わせても仲良くなれるだろうと。





「…この道を真っ直ぐ行ってや…。オレは師匠の所へ行くさかい」
「いいのかい?彼女に会わなくて」
「多分今は情緒不安定やろうからな。気にせんでも時間が経ったら行くわ」
「…そうかい、では。案内ありがとう」






師の許に続く道を歩きだそうとした瞬間、友雅の声が聞こえた。



「あまり、自分の所為だと思ってはいけないよ。君はどうも彼女の事になると己を追い詰めるようだからね」







振り返れば、庵に歩いていく友雅の背中が見えた。
友雅の言葉がには深く沁みこんだ。





























「…どうして、あんなこと言ってしまったのかしら…」

庵では一人の少女が膝を抱えていた。




先程現れた、自分と同じ龍神の神子。
けれど、彼女は自分より恵まれている。



沢山の人に守られ、大切に扱われ……あの人まで傍にいる。





「言うつもりじゃなかった…。でも…あの子の口から…あの人の名前を聞きたくなかった」







『初めまして…。えーと、蘭さん?私、元宮あかね』
『…龍神の神子…』
『今日はさんと一緒にお見舞いに来たんだ。元気そうでよかった』



気づいたら自分の手があの子の頬を叩いていた。
そして自分の中から黒いものがあふれ出し、あの子に嫌な言葉をぶつけていた。






「…さん……」



早く、早く会いに来て

醜いもので、私がどんどん黒くなってしまう










「愛しい人を想って泣く女性の涙は美しいが、嫉妬にかられた心は頂けないね」



「…っ誰?!」