初めて見た時、正直私はあの方を警戒していたと思う。
“守人”という存在聞いたことが無い自分にとって、それが神子殿に害をなす者ではないと断定出来なかったからだ。
尊きお方であらせられる神子殿に何かあってはいけない、その忠義心から実際あの方を見るまでずっと不信感を抱いていた。
だが現実に目の前に立ったあの方は違った。
すべてを受け入れる広き心を持ち、何事も柔らかく受け止める。
まるで慈母のような御心を持っていた。
その心に救われた、と天真も言っていた。
そして何より驚いたのはあの方の剣技。
型など無い自由な振るい方、しかし流れるようで優雅な動きをして戦う相手を翻弄していく。
力で押すのではなく、相手の力を受け流す柳の如く。
自分で受けてみて驚いた。
自惚れているわけではないが、私は武士団でも抜け出ているほうだ。
だがその自分が手も足も出なかった。
あの方は片手、しかも利き腕ではない左手で私の剣を弾いた。
本当に凄い方だと思った。
力の強さ、だけでなく心も強くある。
一時はその凄さに劣等感を抱いたこともあった。
そんな時私は見たのだ。
あの方が一人で色々と出歩き、京の町を見て回っている所を。
あの方も神子殿の同じく別の世界から来たと聞いた。
だから不慣れな部分や知らないことももあるだろうと思っていた。
だがあの方は毎日自らの足で歩き、自らの目で物事を見ている。
鷹通殿に書物を借りて読んでいるのも見た。
最近は北山まで出向き体力づくりをしているところを見かけると泰明殿から聞いた。
なんという努力だろう。
それがあの方の強さだったのだ。
私が愚かだったのだ。
醜い劣等感は何処かへ消え去り、代わりに芽生えたのはあの方に近づきたいと言う気持ち。
ほんの少しでも、あの方と同じ目線に立てれたら……どんなに嬉しいことだろう。
殿、いつか私が貴方の背中を守れる日がくるでしょうか。
正直あいつになんでこんなに安心してるのかわかんねーんだよな。
自分で言うのもなんだけど俺って結構他人を信用しねえし。
元の世界では妹を捜していた為、留年した俺を周りが好き勝手言ってた。
あかねや詩紋に出会わなかったら今の俺は無いだろう。
だけどこっちに来て、わけわかんねえことばかり一遍に起こるし周りの奴等も信用できねえ。
俺がしっかりとこいつらを守らなきゃって思ってた。
でもあいつだけはなんか違った。
あいつも俺達と同じ境遇だからか?いや、それでも最近会ったばかりの奴だ。
けれど初対面の時に自分の弱音を何故かさらりと吐けた。
あいつを包む雰囲気がそうさせた。
八葉として、男としての使命感に押されていた俺が唯一“助けてくれ”と言えると思った。
支えてくれる、そんな感じがしたんだ。
実際あいつは俺を支えてくれた。
怒った時のあいつは滅茶苦茶怖いけど、それも真剣に俺の事を思ってくれたからなんだと思うと嬉しくなる。
年上に見えない顔してるくせに、中身はしっかり大人で。
なんか兄貴がいたらこんな感じかなって思えた。
あいつになら甘えられる。
弱い部分を吐き出せる。
頑張ったら頑張った分認めてくれるお前だから、俺は前に進める。
お前がいるならこの世界でもなんとかやっていけるさ。
なあ、。俺はお前を支えてやれるかな?
「天真、暇なら手合わせせえへん?なんかちょい字ばっか見てたら肩こった」
「おう、いいぜ!今度は負けねえからな!」
「殿、是非私もお手合わせ願います」
「お、やる気やね。勿論ええで」
その背中に追いつけるのはいつの日か。