…此処どこだっけ…。そうだ、私達さんを追って…。

そしたら私何かに吸い込まれて…詩紋くんも一緒に………!!



あかねは其処で目を覚ました。



「あかねちゃん!良かった…」
「詩紋くん…此処は…」
「わかんないけど…何処かの部屋だと思う。建物の造りが同じだしそんなに移動してないよ」





周りを見渡せば絵が沢山ある。
その一つ一つには不思議な雰囲気を持った獣が描かれている。



「…これ、四神だ。絵に封じられてるんだ」

詩紋がぽつりと零したその一言にあかねは絵をよく見る。



朱雀

青龍

白虎

玄武




そして部屋の中央を飾る巨大な絵。


それには漆黒の龍の姿、それはこちらを睨んでいるようにも見えた。





「――――黒龍だ」



背後からアクラムが現れ、詩紋があかねを庇うように立つ。
あかねはまだ黒龍の絵に気を取られていたが、やがてその下にあるものに気がついて悲痛な声を上げた。




「…っさん!!!蘭も!!」




力なく四肢を投げ出し倒れているにかぶさる形で倒れている蘭。
蘭の顔色は青く、疲労しているのが判る。
は顔が見えないのだが意識が全く無いようだ。



「あの二人に何をしたんですか!!」
「少し大人しくさせただけだ。最も男の方は少々手荒になってしまったがな」


その言葉に血の気が下がる二人。











「さあ――京を手に入れるには白龍を喚ぶ神子が必要なのだ」










アクラムがこちらへ手を差し出した瞬間、数本の矢がアクラムに向かって飛んできた。





それをしっかりと全て受け止められてしまったがあかね達の気力を取り戻すには十分だった。






「…皆!」







頼久、友雅、鷹通による矢が次々とアクラムに飛んでくる。
しかしそれらは全てあっさり受け止められてしまう。

この間にあかね達はと蘭に駆け寄った。

まず蘭を抱き起こし、に呼びかける。
しかし反応が返って来ないことで益々あかねは不安を募らせた。










「黒龍よ―――」



アクラムが再び、蘭の中にある黒龍の力を使おうとすると蘭がまた身を捩り苦しんだ。

「ああ…っ!!やめて!これ以上頭の中を掻き回さないで!」





絵の中の龍が吠える。





「やめて!これ以上わたしの大事な人達を傷つけないで!!」



あかねの叫び声が響いた瞬間、アクラムの動きがぴたりと止まった。


それも止めたのではない、止められたのだ―――…ある人物によって。









「…ばかな!!何故…」

















「兄さんが言うたんやで?オレは龍の御霊を持ちし者やて――…黒龍の力を止めるんはちょいコツ掴んだら簡単やさかい」













漆黒の衣をはためかせ、は凛とそこに立っていた。




彼は蘭の中にある黒龍の力を抑えたのだ、自らの力で。
そしてそれを逆に利用し、アクラムの動きを封じたのだ。






「アクラム!!!」


そこへ天真が斬りかかる。

呪縛をなんとか解除しアクラムは刀を避けてしまったがそれでも腕に傷を負った。
体勢を崩し、足元をふらつかせていると後ろから別の声がした。

「アクラム様!!」
「…白龍の神子、守人…あきらめぬぞ」


瞬間移動して現れた鬼により、アクラムは姿を消した。




























「…ふう」

は再び地に腰を降ろした。
初めて扱った黒龍の力は予想外に負担が大きかった所為で体力が限界だった。


さん!!大丈夫ですか!?」

心配して駆け寄ったあかねの頭を軽く撫で笑顔を見せて安心させてやる。

「平気や。それより…ようやったなぁ天真」



にこりと笑いかけると天真は目を見開いた。
そしてばつが悪そうにしたかと思うと急にに向かって頭を下げたのだ。




「すまねえ!!!…俺の所為で…を危険な目に…でもサンキュ!」
「…オレがやりたくてやったんよ。お前も頑張ったで」


数cmばかり高い頭に手を伸ばし撫でてやれば天真は耳を赤くして離れていった。
頼久に肩を貸してもらい、はようやく立ち上がると蘭の元に歩み寄った。






「……蘭…」



ぽつりとかけた声に閉じられていた瞳が開かれた。
その瞳はの姿を捉えると一瞬見開き、次第に涙ぐんでいった。




「…よう、独りで頑張ったなぁ…もうこれからはオレがおるさかい…」
「……ずっと…ずっと待ってたの…誰か来てくれるって…」
「ああ、時間かけてもうたな。堪忍なぁ」



子供をあやすように抱き締め、その背中を撫でてやると堪えていた涙が溢れたようだ。
の着物にいくつもの跡をつけ、それは流れてゆく。
























「……さんって…蘭の八葉なのかな…」
「あ奴は守人だ。それは先程のことで証明された。黒龍の神子を守る者」


泰明の口から聞かされた言葉があかねの頭の中で何度もリフレインする。



嘘でも良いから、否定して欲しかった気がした。


















―――守人は黒龍の神子を守る者――――


















「堪忍な、折角の感動の兄弟対面邪魔してもうた」

疲れて眠ってしまった蘭を天真に渡すと、天真は苦笑しながら首を横に振った。


「お前がこいつのことを心配してくれてたのは本当だからな」






ひとまず静養が必要ということで、蘭は泰明の師匠である安倍晴明の邸へ住む事になった。
落ち着いたら見舞いにでも行こうとあかねに声をかけるとあかねは「はい!」と嬉しそうに返事した。






ただ、蘭を見るの顔を見る時の切なそうな表情には誰も気がつかなかった。