は花梨を伴い、京の町を歩いていた。
勿論、花梨が最初に出会ったと言うイサトも一緒にだ。




「しっかし、と花梨が従兄弟だったなんて世間は狭いんだなー」
「せやねー」



自己紹介では、はまだ“守人”と言うことを言わずに花梨との関係だけを言っておいた。
まだ花梨が神子と認められていないこともあってか、自分の事を言っても信用は得られないだろうと思ったからだ。



取り合えず、まだ接触していない残りの八葉を探すべく歩いてみる。
だが、イサトはどちらかと言えば院側の人間。帝側の敷地は歩けないとのこと。

なので、は本当は一人別行動をしようと思った。




しかし





「……おーい」


「だめ」


着物をがっちりと掴んで離さない花梨。




「二手に分かれた方が効率ええやろー。なあ、イサト」
「あ、ああそうだな。てかどうしたんだよ花梨」


くん、そう言って昔も勝手に何処か行ったから。だめ」





過去の経験や、今回のこともあり花梨はが一人で行動するのを良く思わない。

離せば、またいなくなってしまうんじゃないかと危惧しているのだ。






「……あーのなあ…。朝言うたやろ。お前は院側で探す、オレは帝側行くて」
「だめなの」




聞く耳持たずである。
仕方無い、と溜息を吐き、花梨の頭を撫でる。




「しゃあないなー。せやったら、一緒に行けるところを今日は回ろか」
「…うんっ!!」



この言葉にぱあっと表情を輝かせ、ずんずんと先陣を切っていく。
後ろではイサトがぽんとの肩を叩く。



「兄妹みてーだな」
「まあ…ちーちゃい頃から知っとるしなあ。…イサト悪いけど案内頼めるか?」
「任しとけ。此処からなら…東寺が近いだろ」



東寺と言えば、先日怨霊に襲われた母を助けてくれと懇願する少年に会った場所。
あの時は慌しく出て行ったから今度はゆっくり回れる、とは思った。























「お香の匂いがするね」
「そりゃそうやろ、寺やし。……そないに変わってへんなあ」
「ん?、何か言ったか?」
「んにゃ、なんでもあらへん」

東寺の境内ではしゃぐ従兄弟を見ながら、そこらに腰を降ろす。

目を閉じれば甦る、少し前の話。

自分は眠っていたから、それ程時が流れたのを感じてはいないがこの世界では百何年経ったと紫に聞いた。
それでもまだあの頃にいるような気がしてしまう。ただでさえ、風景は変わらないのだから。







「如何したかな?」
「へ?」




何処かへ飛ばしていた意識が一気に引き寄せられる。
自分に言われているのか、とは辺りを見回す。





「この景色を見ながら遠い別の世界を見ているような憂いを帯びた瞳…。

 そう、まるで愛しい人を想っている表情をしていたよ」



何やらどこぞの誰かさんが同じ様なことをよく言っていたような気がする。
はゆっくりと後ろを振り返った。




「見ず知らずの人間の顔どんだけ観察しとんねん」
「これは失礼。けれどあまりにも目を惹き付けられたものでね」





其処にいたのは着物を着崩した派手な男。
だがには見覚えのある顔。





「(…おったー…やっぱり地の白虎はこんなんか…)兄さんも結構目を惹き付けるで、色々な意味で」
「私が君の目を惹き付けられたのなら嬉しいね。どのような意味か深く教えていただきたい程だ」





今のは胸中ではガクッと肩を落としているだろう。
それでも表情には出さずに、目の前の男を見やる。


東寺にいるのなら、院側か帝側かは判断し辛い。
けれど先日天の白虎に出会っているとしてはこちらが帝側であることは容易に解った。

=花梨にとってはあまり良い結果ではない。



くーん?」



そこへ、中々合流してこないを心配した花梨が戻ってきた。
そしてと一緒にいる人物を見て固まる。




「…あ、あの…貴方…。八葉じゃないですか…?」


いきなり自分を指され、一瞬目を丸くした男だったがすぐさま平常に戻り笑みを浮かべた。


「私が?その八葉と言うものについて詳しく聞かせてもらえないかな?」

「は、はい…あの………」























「フム…成程ね。神子を守る者…そして君が神子だと言うのかね」
「やっぱり…信じてもらえないですよね…」



まだ同じ院側の者達にすら神子と認められていない為、少々弱気になっている花梨。



「そうだね…。私はこの目で見たものしか信じないのだよ。君が神子と言うのならその証が見たいものだ」
「………」



本人ですらつい最近「貴女は神子だ」と言われたのにそんなこと出来るわけが無い。
目の前の食えない男には少々苛立ちを感じた。





「まあ信用出来へんのはお互い様やしな?」
「ほう、言うねえ。だけど、少しの間は見物側に回らせていただくよ。君が神子であるかどうかは見定めてからでも遅くないはずだ」
「すぐさま認めさせたるわ。ほな、行こか花梨」



初めて神子を認めない者達の態度を目の当たりにしたは少し機嫌が悪くなっていた。
花梨の手を引き、その場を立ち去ろうとする。




が、それを阻む手があった。






「…なんや、まだ用か?」

「まだ、君達の名を聞いていないだろう?私は翡翠。そちらのお嬢さんと…君は?」


「わ、私は高倉 花梨ですっ」
「…… や。ほな、失礼するで」







達が立ち去った後、翡翠は口角を上げ笑みを浮かべた。





「……これは退屈しないで済みそうだ」





























結局あの後も八葉を探すことは上手くいかず、イサトと別れ屋敷へと戻ってきた。
はまだ機嫌が悪いようだ。

紫は花梨にこそりと尋ねる。




様どうなさったのでしょう…」

「…わかんない。今日途中からあんなになっちゃって…」



深苑が現れ、これまた機嫌の悪いを見て驚く。
近寄り難い雰囲気を出している彼を遠巻きに見つつ、花梨と紫にいる方へ避難してくる。



「なんだと言うのだ、殿は」
「神子様…様は何か良くないことでもあったのでしょうか」
「うーん…あったと言えば…今日八葉だと思った人に会ったのに違ったってことかなあ」


まあ、と頬に手を当てる紫。
深苑は溜息を吐く。



「まだ八葉も半分…。八葉との絆無くして京を守る事など出来ぬのだぞ?」
「…うん、ごめん…」







――――
ガン




大きな音に三人がの方を振り返る。
が柱を殴ったのだ。





「ちゃうやろ。花梨はいきなり召喚されて一人で頑張っとんねん。むしろ、京におるはずの八葉が自分らから来んのがおかしいんや」

…くん…?」

「そないな八葉ならいらん。オレが花梨守ったる」




そのまま部屋を出て行く

深苑は自分の発言の所為でが怒ったのだと思い、少し蒼褪めている。
紫も今の言葉を聞いて表情を暗くした。




「そうですわね…。神子様は私達の世界の為に頑張ってくださっているのに…」
「……」

「私、くんのところ行って来る!」






花梨はがすぐ見つかるか不安だったが、その心配は杞憂だった。
は庭の片隅で樹に寄りかかっていたのだから。


最初に再会した時の約束を彼は守ってくれているようで花梨は安心した。






『もう、勝手にいなくならないでね』

『行かへんよ。怒られるのは勘弁やからな』










そっとに歩み寄ると何処と無く近寄り難い雰囲気を肌で感じ取る。
けれど、自分が近づいて来たことに気付いてくれたのかその刺々しさを和らげてくれた。





くん…?」

「堪忍なぁ。オレが怒ってどないすんねんって話や。花梨にとって八葉は必要なのに勝手なこと言うたわ」

「…ううん、私嬉しかったよ?それだけ心配してくれたってことでしょ…」




花梨は笑顔でそう言う。
の手が花梨の頭に伸びる。
優しく髪の毛を撫でる手つきが昔と同じで懐かしさが込み上げる。






「後で深苑と紫に謝りに行かんとなー」
「付き合うよ」
「そか、おおきに。……花梨」

「ん?」








「明日からまた頑張ろうな」




「…うん!」